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魔の豚  作者: 愛理 修
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A君は語るー4

 そんなある日のことです。数学の教師が体調をくずして休み、三時限目の授業が自習になったことがありました。外では雨が降り、校舎の二階の窓から見える運動場はかすんでいます。僕たちは自習といいながらも、実際には仲の良い連中同士で固まって雑談にこうじていました。雨のせいでむしむしし、外に抜け出すやつもいなくて、クラスの全員が教室にいました。けだるさがあって、なにをするにも億劫で、気が塞いだような空気が教室に鬱積している感じでした。

 蛇沢は河鹿の机のところに椅子を持っていって座り、二人は話をしていました。蛇沢がなにかを言っては、河鹿が恥ずかしそうに微笑んでいます。まるで睦言を交わしているようで、僕たちは、やっかみ半分にそんな二人を意識していました。


 と、二人の会話が途切れ、僕たちがなにげなくそちらのほうへ視線を向けると、蛇沢と河鹿がお互いに見つめ合い、少しの間そうしていたかと思うと、感極まったというふうに、いきなり河鹿が蛇沢の顔へと首を伸ばしました。そして、あっという間に、蛇沢の唇に自分の唇を押しつけたのです。


 それはほんの瞬間で、くちづけというにはかすかなものでした。蛇沢が短い声を上げ、その声を塞ぐように河鹿の唇が押し当てられ、瞬きしているうちに離れたという程度のものでした。それはごく自然の行為のようなものでしたが、それでも、僕たちは身体がかっと熱くなるのを禁じえませんでした。


 教室中の誰もが慌てて目を逸らし、いま見たことを忘れようとしました。

 河鹿は机の上に掌をのせ、目を丸くして、黒板のほうを向いたまま自分がしたことが信じられないような顔つきをしていました。蛇沢はそんな河鹿を見つめ、それから流し目で教室にいる僕たちを眺めまわしました。そのときの蛇沢の顔のなんと美しかったことでしょう。唇の両端がわずかに持ち上がり、上気したように肌はうっすらと汗ばんでいました。額にひとすじ前髪がかかり、細い眉の下では目が光をたたえていました。憎悪と怒り、そして残忍さにうち震えているような、ゾクッとするきらめきでした。


 誰もなにも言いませんでした。河鹿のしたことは許されることではありませんでした。してはならないことだったのです。

 

 外では雨が降りつづけ、心の中は葛藤でゆれながら、みな重苦しい沈黙に耐えていました。その時はそれで終わりました。なにごともなく、なにも見なかったようにです。

 しかしつぎの日から、河鹿に対していじめが始まったのです。


 


 

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