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魔の豚  作者: 愛理 修
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A君は語るー3

 その均衡が崩れたのは、夏休みが終わり秋になってからでした。河鹿守が転校生として、僕たちのクラスに入ってきたのです。


 河鹿は腺病質みたいな青白い顔の痩せ細った生徒で、見るからに弱々しくおどおどしており、でもどこか僕らとは違う品のよさみたいなものを身につけていました。

 それがどういうものかと説明するのは難しいのですが、たとえば、僕らのときはまだ給食でなく弁当を持参していましたが、河鹿の弁当箱は、大きさは小さいのですが重箱のような二段重ねのものでした。つやのある黒色をし、いま思えば漆塗りだったかもしれません。蓋には椿の絵があしらわれ、下の段にご飯ものが入り、上の段はおかずというわけです。そのおかずというのが、僕たちから見てなかなかのものでした。晩のおかずの残りという感じでなく、定番の卵焼きは当然として、揚げ物やハンバーグといった、ひと手間かけた見栄えのするものばかりです。それらのおかずがきちんと箱の中につめられ、フルーツや小花で飾られている有り様は、そこだけでひとつの世界を作っているかのようでした。

 そんな昼食が終わったら、運動場で遊ぶこともなく、教室でツルゲネーフの『初恋』やハイネの詩集を読んでいるというのが河鹿でした。


 そういう僕たちとは異なるさまが気を引いたのでしょうか。蛇沢が、河鹿にちょっかいをかけるようになりました。優しい声をかけ、河鹿くん、河鹿くんとことあるごとに名を呼んでいました。

 僕たちは蛇沢のその態度に驚いていましたが、誰もなにも言いませんでした。ただ二人が一緒にいる姿を黙々と窺っているだけでした。羨望と憎しみ、それに不安のないまぜになった視線でした。陰でよからぬ噂が飛び交い、二人の間になにか特別な関係があるんじゃないかと疑う者もでてくる始末でしたが、蛇沢に耳元でなにごとかを囁かれ、頬を紅潮させる河鹿の様子には、それがまんざら嘘ではないんではないかと思わせるものがありました。


 しかしそのじつ、そうやって河鹿と仲良くしながら、蛇沢は僕たちの様子を楽しんでもいたのです。河鹿と親しくしているのもそのためのようでした。衆目を集め、それでいて知らぬふりをするのは蛇沢らしい行為でした。

 河鹿のほうといえば、そういう蛇沢の思惑に気づくこともなく、美の化身のような蛇沢に強く惹かれているのが明らかでした。転校生のせいで、友人が少なかったということもあったでしょう。しかしそれだけでなく、蛇沢の魅力に抗えなかったというのがほんとうのところだと思います。

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