夜の公園ー2
私は面食らった。河鹿が女の生徒だったりしたら、話の様相はすっかり変わってしまう。
絶句しているままの私にKが言った。
「いや、なにもそうだと言っているわけじゃない。性別が不明というだけだよ。彼の話をよく思い出してごらん、彼は一度として河鹿が男だったとは言ってないはずだ。かといって、男じゃなかったとも言ってないのさ。蛇沢に関しては男子生徒だと明言していたなら、服装にしても詰め襟だと表現しているし、体育の時間一緒に着替えていたらしきことも話している。それなのに、河鹿に関してはそういう具体的なことをなにも言ってないんだよ。転校してきたこと、腺病質のような青白い顔で痩せ細った容姿に、弁当箱が洒落た重箱だったことぐらいだろう。男とも女ともとれるじゃないか」
「しかし、下の名を守だと言っていた」
「ああそうだよ。でも守という名の女性がいたとしても不思議じゃない。マコトほどではないが、マモルという名にもどこか中性的なニュアンスがあるだろう。それに、蛇沢が河鹿くんと呼んではいるが、異性の同級生をくんづけで呼ぶことは不自然でないしね」
「つまり、河鹿は女生徒だったわけだ」
私は意外な思いにとらわれるとともに、豚と化した女生徒の姿をイメージして顔をしかめた。煙草を靴底に押しつけて消す。女生徒とすると、あまりにも可哀相な話である。
しかし、チッチッチッと舌を鳴らして、Kは私のほうを憐れんだ。
「そうやって、すぐ短絡的に思考するのが君の悪い癖だ。僕は河鹿の性別がわからないと言っているだけで、女だとは言ってないよ。実際、どちらとも判断できない。僕が指摘しているのは、彼の話にはそういう曖昧なところがあって、いろんな解釈が成り立つということだけなんだ。それに僕も、河鹿は男のほうが可能性が高いだろうと思っている」
「それなら、なぜ彼はそういうふうに曖昧な話し方をする必要があったんだ」
「話のなかに隠しておきたい部分があったからさ。人に知られたくないことがね。それで曖昧にせざるを得なかったんだよ。河鹿の性別が不明になったのは、意識的にじゃなく、その影響を受けたせいじゃないかと僕は思っている」
「さっぱりわけがわからん。隠したい部分というのはなんなんだい。君はなにに気づいているんだ」
困ったなとKは頬の無精髭を指先で掻いた。
「いまも言ったようにいろいろ推察できるから、これぞというのはないんだ。だから、あくまでひとつの解釈として聞いてくれよ。それと、A君が話のなかで嘘をついていないというのが条件だ」
そう断ってからKは語りだした。




