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魔の豚  作者: 愛理 修
13/17

夜の公園ー1

 泊まられたらいかがですというS氏の申し出を丁寧に断って、私とKが家路についたのは午前零時をまわってからだった。夜の更けた道を散歩がてらに歩くのは、私たち二人の好むところであった。

 夜しか見れない夢があり、それを眠ったまま見るなんてもったいないではないか。


 表にでると、朝からの霧雨は嘘みたいにぴたりとやみ、空には煌々と月さえ出ていた。墨汁を水で薄めた色合いの雲が東へと流れていく。雨で洗われ、まだ湿り気を含ませた夜気のなかを、私とKは傘をステッキのようにして歩いていった。

 いくぶん遠まわりになるが、Kの提案で、私たちは来た時とは別な道を帰ることにしていた。そう二人に思わせるほど、夜は魔性を秘めていた。


 黙々と三十分ほど歩くと公園に出、Kが腹が空かないかと言う。一休みもかねて、公園のベンチでS氏からもらったお握りの包みを開いた。ベンチは石づくりで、手で触れるとまだ乾ききっていなかったが、それを気にするような私たちではなかった。海苔で巻かれたお握りの中身は、おかかと梅干という具合で、コンビニで売っているのとはべつな味がした。

 私たちのベンチから少し向こうにブランコがあった。誰もいず、風もないのに、そのブランコがゆらゆらと揺れたら怪談になるのだが、そんなことはなかった。


 半分食べて、あとを明日のぶんに残す私を、Kは君らしいと言って微笑んだ。水飲みで口をうるおしベンチに戻ると、Kが上着のポケットから煙草を取り出して、私をぎょっとさせた。隣の御仁のを頂いてきたのさとうそぶき、Kは私にも一本すすめた。久しぶりの煙草は、ひどくおいしかった。

 以前Kのところに遊びに行って、インスタントコーヒーが出た時のことを私は思い出した。どうしたのかと聞く私に、Kは置いてあったのでもらってきたんだと答えた。瓶を手にしてラベルを見ると、とうに賞味期限が切れている。捨ててあったんだよと私が言い、そういうふうに言うこともできるとKは平然としていた。


 煙草をくゆらしながら、私は今夜のことをKと話した。おのずとA君のことになる。今夜聞いた話の中で、もっとも興味深いものであった。

「君はあの話どう思った」

 私が言うと、先っぽが赤くなった煙草を手にKは眉根を寄せた。

「彼が言っていたように、怪談というより奇譚だね。話の信憑性という点では一番高かったんじゃないか」

 A君の話のあとで、いやあ、面白い話でしたという以外になにもコメントをしなかったKを、私は珍しいこともあるものだと思っていた。

「それじゃ君は、河鹿という転校生が豚になり、死んだあと魔の豚とかいうものに甦って蛇沢に復讐したという話を信じるわけかい」

 A君が即興で作った話ではないかというのが私の考えだった。

「なるほど君はそうみているんだ」

 Kは冷ややかに私を見つめた。瞳の奥に戯れたようなきらめきがある。煙草を吸い、闇に向かって煙りを吐く。こういう素振りのKは、ほんとうに憎たらしく映る。

「他にどういう見方があるんだい」

「ま、そういえばそうだが」Kはうっすらと笑った。「ただ彼の話はどこか曖昧で、焦点をぼかしたところがあるのに気づかなかったかい。それをどう解釈するかで、彼の話はいくえにも変化するんだよ。魔の豚がいたともいないともいえるのさ」

 腑に落ちない顔つきの私を見て、Kは煙草を消すと小難しそうな表情をした。

「そうだな、たとえば、君は男だと思っているけど、河鹿という生徒は女かもしれない」


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