表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔の豚  作者: 愛理 修
12/17

A君は語るー10

 ここでちょっと、僕たちの学校の校舎のことを説明します。僕たちの校舎は鉄筋の三階建てで、上から見るとちょうどカタカナの『エ』の字の形をしたものだったと思ってください。上の横線と下の横線を、真ん中の縦線が連結しているというふうにです。上の線を東棟、下の線を西棟と呼び、縦線に相当するのが一階から三階まである渡り廊下でした。屋上もつながっていて、東棟と西棟への行き来がそれでできました。ただカタカナの『エ』の字より、実際の校舎は東棟と西棟が長いものでした。上が東で下が西なのですから、左が北で右が南になります。学校全体としては、東棟が正面で、北である左側に運動場が広がったものを想像してもらえばわかりやすいでしょう。西棟のうしろには体育館とプールがありました。

 そして蛇沢の遺体が発見されたのは、東棟と西棟に挟まれた間の、『エ』の字でいえば、縦線の左側の空間の運動場寄りの場所でした。


 遺体は、コートを着用した詰め襟の学生服姿で、仰向けに静かに横たわっていました。服装などに乱れたようすはなく、争った形跡もありませんでした。

 蛇沢にふさわしい美しい最期だったとお話しできればよいのでしょうが、そうはならず、蛇沢の遺体は一目で目をそむけたくなるほど無残なものでした。顔がなくなっていたのです。あの僕たちを惑わしつづけた美しい顔はそこになく、顔のあった部分は、血潮にまみれ陥没した肉の塊と化していたのです。目も鼻も眉もなくなり、闇の中で明かりに浮かび上がったそれは、ただ赤黒い肉が露見しているだけでした。

 美しい皮膚の下に潜んでいたものが、とうとう皮膚を破って這い出てきたという思いを、僕たちは禁じることができませんでした。


 もちろん死因がそれだったことは言うまでもないでしょう。顔面を砕かれての、ほとんど即死の状態だったというのが警察の見解でした。正面からなんらかの凶器によって、顔面に強力な衝撃がくわえられ、そのままうしろに弾き飛ばされたという判断です。ただ、顔面を一撃で破壊するような途方もないことが、どうやっておこなわれたのかはわかっていないようでした。空からなにかがやってきて、蛇沢の顔を一瞬にして砕いたのではないかという説も耳にしました。自殺や事故とは思えず殺人として捜査がされましたが、蛇沢の異様な死にざまには、通常の理解を越えたものがあるように警察でも思っていたみたいです。

 実際、蛇沢の顔をああまでした打撃は、人の力ではなしえるものではありません。僕たちの誰もが、この世のものではない力が働いているのを信じていました。


 その後警察はいろいろ調べていましたが、けっきょく犯人らしき人物を特定するまでには至らなかったみたいです。

 蛇沢の遺体のあった位置から、五メートルほど渡り廊下寄りの場所に、墓参りの際なんかに使う風防ケースのついた蝋燭立てがあり、その中で蝋燭が燃えつきていたこと。蛇沢のズボンのポケットから、深夜零時にそこに来るように指示されたメモが見つかり、死亡時刻がほぼそのころであることを告げられ、それらのことでなにか心当たりはないかと僕たちは問われましたが、誰も答えるものはありませんでした。現場付近の足跡や遺留物も、学校という環境のせいで、かえって多すぎて手がかりにならず、教師や大人たちの知ることのない僕たちの世界のことについては、僕たちも固く口を閉ざしていましたので、事件は解決することなく終わりました。

 四月になって三年に進級し、それぞれ自分たちの進路を進んで僕たちは卒業しました。


 長々とお話しして退屈されたかもしれませんが、僕の話は以上です。怪談というより奇譚というものでしょう。いまでもたまに蛇沢と河鹿の夢でうなされることがあります。

 人をいじめたりすると、魔の豚がやってくるという学校の怪談が、僕の卒業した中学にはあります。いまの生徒たちが仔細は知らないまでも、そうやって語り継いでいるみたいです。また、醜悪な獣を連れた美麗の男子生徒が、夜の校舎をさ迷い歩いているというものもあり、それがほんとうでないことを僕は願うばかりです。


 そうしめくくってA君は話を終えた。


A君の話は終わり、次からは憶測と想像の推理となります。


さて、私事ではありますが、なーこさん主催の企画『ミステリア』に参加しております。この企画は、参加した推理ファンの書き手たちが、6月16日(土)の零時に、いっせいに自慢の作品を更新しようという愉快なものです。

推理小説を書いてみたいと思われているユーザーの方、どんな書き手が揃っているのか興味のおありの方、はたまた、まったく興味のない方、詳しい内容が、なーこさんのマイページの活動報告にありますので、どうぞご覧になってください。

よろしくお願いいたします。        

愛理 修でした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ