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魔の豚  作者: 愛理 修
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招待

 その夜、私とKは女坂めざか町にあるS氏の邸宅へ出向くことにしていた。

 S氏はIT事業の先駆者として財を成し、還暦を前に事業を人に譲ると、そうそうに楽隠居を決め閑居した御仁である。穏やかな物腰と柔和な風貌に似合わず、無類の怪談好きで、木曜の夜に同好の士が集まるからよかったらこられませんかと、私とKを招待してくれていたのだ。


 初秋とは名ばかりの夏日がつづき、ようやく涼しくなってきたかと思うと、いつのまにやら早朝はめっきり冷え込むようになってきている。

 夕方の五時ごろに下宿を出ると、朝から降り続けている霧雨のせいで、外は、水粒の紗幕で覆われたように、しっとり霞んでいた。行き交う人も少なく、コンビニエンスストアーの前で、表情の無い中学生たちがたむろしている姿なぞを目にしながら、私は道を急いだ。


 駅舎に着くと、滴をたらしたこうもり傘を脇に立てかけたKが、待合室のベンチにぽつねんと座って私のことを待っていた。顎の尖った顔に物憂いそうな表情を張りつかせ、着古した黒の上着にズボンというKは、私の姿を目にすると、こうもりを手にしてついと立ち上がった。

 無精髭が伸び、病み上がりという風体だが、奥まった両目だけは鋭さを放っている。待合室の時計をじろりと見たが、遅いとも早いとも言わない。

 寒暖の感覚がないのか、Kはいつも同じ服装だった。というより、それしか持っていないらしい。服に引き替えこうもりがやけにりっぱに見える。そのことを言うと、案の定借り物だという答えが返ってきた。そのまま二人で駅舎の外に出ると、傘をさして歩き出した。

 電車賃が惜しいので、線路沿いに歩いて行くつもりだった。女坂町は二つ先の駅の少し手前で、歩いて四十分ほどである。私とKは当世では珍しいくらいに貧乏していた。二人とも働くのが苦手なのだから仕方がない。その夜にしても、怪談話より、そこで出されるだろう料理のほうが二人の眼目になっていた。


 昨日から水ばっかりだとKがこぼし、私は昨夜食べたもやしのことを話した。万能鍋で炒め、ソースをかけて食したという私を、傘の柄を握りしめたKは羨ましげに見やった。


 宵闇が忍び込みだし、霧雨で煙った道の先に女傘が浮かび、長い髪をお下げにした女生徒の姿が視界に入った。紺色のセーラー服姿で、学生鞄を提げている。すらっと背筋が伸び、若やいだオーラーを身体から立ちのぼらせて、こちらへと歩いてくる。


 ――すれ違って、Kがうまそうだと呟き、私もごくりと喉を鳴らした。Kが笑い、私もつられて笑った。

 おかしくてたまらなかった。


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