兵士とメイドのある悩み そしていつか二人は知り合うのです
ある時ある国の兵士達はある悩みを抱えていた。
その国には王子がいる。
ルトグヴァナー、通称ルーク王子は19にして国を動かせるほどの大変賢い王子だ。頭脳明晰、品行方正、容姿端麗と完璧な人柄のために国民からも親しまれている。
先日も婚約者である17の美しい姫君、ファティナ王女が城にやってきた。
近日中には婚儀に入る予定だ。
まだ早すぎるかもしれないが、お互いが望んでいてなおかつあの完璧王子だからいいだろう、と上の方で交わされたのだった。
冒頭にも言ったが兵士達はある悩みを抱えていた。
王子は頭がいい。カオも整っており、紳士的で優しく、腕前も強く、気配りもでき、仕事も早い。当然花嫁候補は限りなくいるのだが彼はファティナ王女にぞっこんだ。
完璧王子。
あれで、………………女装をしていなければなぁ。
姿が女性なので男集の中に交ざっているとやり辛いことこのうえない…。
ある時ある国のメイド達はある悩みを抱えていた。
先日、他国から嫁いできた王女様がいる。 正式にはまだ王妃にはなっていないが決まったも同然。
ファティナ王女はとても美しい姫君だ。下の者にも分け隔てなく話しかけ、物腰柔らかく、優しくて綺麗で、一緒にいれば温かくなるような女性。
国民にはまだその姿をさらしらことはないのだが、城内ではみなが彼女を慕っているのだから何の心配もない。国民もすぐに馴染むであろう。
「かの王子にして、かの王女あり」
…いい意味での見出しが見えてきそうだ。
まさに素敵な王女。
先にも言ったが、メイド達はある悩みを抱えていた。
あれで、………………男装をしていなければなぁ。
おかけでせっかく新しく迎えるお姫様なのに綺麗におめかしもさせてもらえないなんて…。
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王子は時間がなくても毎日稽古は絶対にかかさない。
今日もしなやかにかつ力強く素振りを何百と続ける。
…………………やはり女性の姿で。
稽古なので簡易的に涼しそうなドレスだがそれでも女装にかわりない。
以前王子に尋ねたことがある。そのお姿で稽古は不自由しないのですか、と。
すると王子は、
『かつての英雄にドレスを身につけたまま敵大将をうちとった女性がいたらしい。なんでも裾さえ踏まなければそのほうが動きやすかったらしいんだ。ならば男の私にはどうなのだろうね。それをためしたい』
でもその姿では、なんというか、味方としても頼りなくみえてしまう。
『そのほうがこちらとしては好都合だよ。敵の油断を誘える』
「ルーク様、お茶会に…」
「…ファティナ?どうしてここに…」
しばらくすると我らの次期王妃であるファティナ王女様が稽古場にいらっしゃった。
…………………やはり男性の姿で。
いつの間にかお茶会の時間になったらしくルーク王子をお誘いに現れたらしいのだがそれはメイドの仕事だ。
「ロタに頼んでもよかったんですけど…、私が早くルーク様にお会いしたくて、代わってもらったんです。でも…、お忙しいのなら今日はいいのです…」
「待ってファティナ、誰が忙しいなんて言ったの。たとえどんなに忙しくても、愛しいファティナとの大切な時間を失わせるわけがないじゃない」
それを聞いて嬉しそうな顔にかわった王女に王子もご満悦。だが、忙しくないとは王子は言っていない。
このあとルーク王子は職務室でかなり多忙の予定だが、それでも王女との時間がなくなるのがどうしても嫌なのだろう。後で大変忙しくなるとわかっていても愛しい人との大切な時間だけは。
…私もそろそろ妻を迎えるべきだな。お二人をみているとそんな気分になってしまう。
だが、せめて二人のご婚礼がすんで一段落してからにしよう。
まったく、悩みが増えるばかりだ。
そうだな…例えば俺と同じことを考える人ととかだ…、いるのならばな。
「じゃあちょっと着替えてくるから待っててね。これ以上こんな汗くさい姿でファティナの目を汚すわけにはいかないからね」
「……それでも、素敵と想うわたしはおかしいのでしょうか…?」
その王女の小さなつぶやきを耳にとらえた王子。またさらに何か甘く喋ろうとなさる。
早く行きなさいルーク王子。
「これ以上もたもたしてるとお茶会の時間が減りますよ」
「それはだめだっ!」
その後二、三話した後、王女は行ってしまわれた。
王子はドレスであるにもかかわらず走りだし、そしてなぜか急に立ち止まった。
「そうだ、ヴァゼル!お前に新しい剣を新調しておいた。お前好みに使いやすいようにしておいたから後で試して、意見を聞かせてくれ。不具合があったのならそれを直そう」
王子には女装以外にもつくづく驚かされる。
私の名前を知っているとは思わなかった。もしやあの方は部下全員の名前を覚えて下さっているのだろうか。
それに俺の剣はこの前折れてしまったのだ。見たのは数人で誰もが王子と話す間柄ではないので、きっと遠くから見ていたのかもしれない。
仕方ないから新たに用意しようと思っていた矢先になんと王子直々に用意してくださったとは。
王子のすることには本当に舌を巻く。
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「さっきの兵はヴァゼルというんだけど、あいつはいつか凄腕になるよ」
「そうなのですか?」
「うん。一度だけ遠くから見たんだけどあの剣筋はみたことないから自己流だね。それもいい筋だった。もう少し鍛えたら手合わせしてみたいな」
「まぁ、ではその時になったらお呼びくださいね。私もみてみたいですわ」
「いやだよ、僕が負けるところを見せたらカッコ悪いじゃないか」
「その時はぜひ私が治療させてもらいますね。それに、…負けるルーク様もきっとかっこいいです」
「ファティナ…」
…私たちの存在を忘れて二人の世界です。
はぁ…。せっかくのお茶会、毎日の安らかな時間。それなのにファティナ様をめかすことができないとは…。
以前王女様にお願いしました。ドレスで着飾らさせてください!、と。
すると王女様は、
『ごめんなさい…、式典のとき以外は出来るだけこのままがいいの。…ルーク様が女性のお姿をするのには何か大切なわけがあると思うの。私はまだ聞く勇気はないけど…、でも、せめてこの姿で、ルーク様を安心させたいの。私はあなたの味方です、って。だから、ごめんなさい…』
…そこまで言われては無理矢理することはできないではないですか。
…ならば、せめてドレス以外の他のところはいじらせていただきますよ。
『ありがとう』
そんな可愛らしい顔と声で言わないでくださいよ、まったく。
「…でも、いつも言ってるけど、別に僕に合わせないでいいんだよ、ファティナ。女の子なのに髪を切ってまで男装しなくても…」
「…ぇ…ル、ルーク様は、この姿はお嫌いでしたかっ?でしたら…」
「何言ってるの?男装でもこんなにも可愛いファティナを嫌いになる方が難しいのに。むしろ僕だけに見える隠されたファティナの色気にどうにかなりそうなくらいだよ。そうじゃなくて男装したらファティナは国に叱られちゃうじゃないか」
「それは、そうかもしれませんね。でも…」
「?」
「この姿をしてますと、ルーク様と同じな気分になれて、嬉しいんですっ」
女装の王子に男装の王女。状況は同じなのがすごくうれしいようです。
「ファティナ…」
こういう雰囲気になるとルーク王子は姿は美しい女性なのになぜか急に男らしくみえる。
反対にファティナ王女は姿は素敵な男性なのになぜか急に女らしく見える。
不思議だわ…。
「ロタ」
「はい」
「別の菓子が食べたい。それとグルミン茶も急に飲みたくなった。何時間かかってもいいから全員で(・・・)準備して来てくれ」
…まったく。率直に「でていけ」なり「二人きりになりたい」なりおっしゃればよろしいのに。
王子なりの私たちへの気配りかしら。
「かしこまりました」
もはや完璧に二人の世界。他の者はそれをほほえましく思いながら部屋を後にする。
最後の私が扉を閉めると同時に二人の恋愛モードは最高潮に。
…だって、扉を閉める一瞬、ほんの少しだけ何かが聞こえたんだもの。
二人の仲むつまじさを見ると本当に羨ましくなってるわ。
でも我慢。二人の婚儀を終え、落ち着く日までの我慢よ。
そうね…私と同じことを考えている人が良いわ、…いたのならね。
何人足りとも二人の邪魔はさせない。
それを壊しにくる者は我々が全て排除してみせる。
―――二人のためだけに。
さぁ、今夜もやってくる『外からのお客』を片付けなければ。
でも死んではいけない。
あの方は我々を覚えてくださるから、一人でもいなくなればすぐにわかってしまう。
あの方はとてもお優しいから私たちが死ねば嘆き悲しんでしまう。
そんな二人のために命をかけて、でも死なないで今日も勝つ。
大好きな、二人のために…。




