言い訳のネタも尽き
「おっそーい!!」
ふくれた藍子にひたすら頭を下げる。
「何で遅れたのよ!?いつもじゃない!!」
実は出掛けに…。
「仕事の電話は携帯で受けられるよね」
いやそれが靴を履いたら…。
「そのスニーカー、紐が切れそうにないんだけど。先週あたしがあげたヤツだし」
玄関を出ようとしたらさ…。
「鍵はいつもベルトにつけてあるよね」
藍子の追及はとどまることを知らない。てか、どんどんバージョンアップしてるし。
駅に着いたらね…。
「電車の遅延情報はありませんでした!」
調べてやがるのか、この手も使えない。
そこでおばあさんが大きな荷物を…。
「へえ、持ってあげるんだ。腰が痛いとかいつも言うくせに」
いやだからそれはさ。
面倒くさくなった僕は、藍子の肩をぎゅっと抱き寄せた。
「君を待つのはいやなんだ。遠くに藍子の姿が見えるとホッとするから。じゃなきゃ、いつ来るんだろう、本当に来てくれるんだろうかと…気が気じゃなくてさ」
藍子は頬を赤らめて、うつむく。じゃああたしはハラハラして待っていてもいいっての?その声はうわずってる。僕が回した手に力を入れたから。
ねえ、知ってる?
本当は約束の十五分前には僕は着いていて、待ち合わせ場所が見渡せるカフェで君を待っていることを。
君が来てから一度時計を見る頃に、僕は必ず現れることを。
君の心細そうな顔が…一瞬で微笑みに変わる表情が見たいから。
「今度遅れたら、そうだなあ…何を買ってもらおうかなあ」
無理して難しそうな顔で罰ゲームを考える藍子に、そっと耳打ちする。
……そんなに心配なら、待ち合わせをしなくてもいいようにしようよ……と。
きょとんとする彼女には見つからないように、僕は手の中のリングケースを軽く握りしめた。
<了>
北川圭 Copyright© 2009-2010 keikitagawa All Rights Reserved




