雨のにちようびは おうちサファリ
1わめ まほうの たんけんぼう
ザーザー、ザーザー。
まどの 外は、あさから ずっと 雨が ふっています。
7さいの 女の子、ハルカちゃんは、つまらなそうに ほっぺたを ふくらませていました。
「あーあ、せっかくの 日曜日なのに、お外で あそべないなんて つまんないの」
リビングの ゆかに ごろんと ねっころがって、てんじょうを みあげます。
お母さんは、キッチンで カチャカチャと いそがしそうに ごはんの じゅんびを しています。
「お母さん、なにか おもしろいこと ない?」
「ハルカ、ごめんね。
いま お昼ごはんを 作っているから、ちょっと ひとりで あそんでいてね」
お母さんは やさしく 言いましたが、ハルカちゃんの つまらない きもちは なおりません。
ハルカちゃんは、リビングの すみっこに ある、ふるい おもちゃばこを ガサゴソと あさってみました。
中には、あきかんの コマや、いろあせた トランプ、ちいさくなった クレヨンなどが つまっています。
きのうから さがしている、お気に入りの みどり色の おはじきも、ここには ありません。
「どこへ いっちゃったのかなあ」
そのとき、おもちゃばこの いちばん おくで、カチッと かたい ものが 手に あたりました。
ひっぱりだして みると、それは すこし ほこりを かぶった、ちゃいろい たんけんぼうでした。
この ぼうしは、おじいちゃんが 子どものころから たいせつに していたものです。
ハルカちゃんの 5さいの たんじょうびに、おじいちゃんが プレゼントしてくれました。
「わあ、なつかしいな」
ハルカちゃんは、ぼうしの ほこりを そっと はらいました。
そして、頭に かぶって、つばを ピシッと まっすぐに なおしました。
すると、どうでしょう。
いつもの リビングの けしきが、ぐにゃりと ゆがみ、ふかい ジャングルへと 変わっていったのです。
「うわあ……! これ、なぁに!?」
ハルカちゃんは、びっくりして、大きな 声を あげました。
いつもの ちゃいろい フローリングの ゆかは、みずみずしい みどり色の コケや、せの 高い 草が いっぱいの じめんに なっています。
てんじょうからは、ながい つるが たくさん つりさがっていて、へやの すみの カーテンは、まるで 大きな たきのように、水しぶきを あげて ながれています。
びっくりした ハルカちゃんが ぼうしを ぬぐと、そこは いつもの リビングでした。
でも、もういちど ぼうしを かぶると……目の前には、ふかい ジャングルが 広がっています。
「すごい! おうちの 中が、サファリパークに なっちゃった!」
ハルカちゃんの 心は、すぐに わくわくしてきました。
さあ、だいぼうけんへ しゅっぱつです。
2わめ トトが いない!
「よし、サファリパークの たんけんに しゅっぱつだ!」
ハルカちゃんは、お気に入りの すいとうを かたに かけました。
それから、おもちゃばこで 見つけた 小さな マラカスを、ポケットに 入れました。
「なにかの やくに 立つかもしれないものね」
気分は すっかり、ゆうかんな たんけんたいの たいちょうさんです。
あしもとには、ふしぎな 生きものが 丸まって ねむっているのが 見えました。
しまもようの まあるい 体。
ぼうしをぬぐと、それは、お父さんが きのう ぬぎっぱなしにした、まるまった くつしたでした。
でも、ぼうしを かぶると、それは シマウマの あかちゃんになって、すやすやと ねむっているのです。
「おこさないように、しー、だよ」
ハルカちゃんは にんじゃのように、そーっと、そーっと、シマウマの あかちゃんの よこを 通りすぎました。
そのときです。
ハルカちゃんは、たいせつなことに 気がつきました。
いつも いっしょに いる、だいすきな ぬいぐるみの「くまの トト」が、どこにも いないのです。
トトは、ちゃいろくて、かたほうの お耳が すこし ほつれている、ちいさな くまさんです。
「たいへん! トトが いない! もしかして、この 広い サファリパークの どこかで、まいごに なっちゃったのかな……?」
ハルカちゃんは しんぱいに なりました。
ジャングルには、こわい どうぶつや、あぶない 場所が たくさん あるかもしれません。
早く トトを みつけて、おうちに つれてかえって あげなきゃ。
「まっててね、トト。いま たいちょうの ハルカが、たすけに 行くからね!」
ハルカちゃんは、トトを さがす たんけんに しゅっぱつしました。
3わめ クッションの ぬまと せんたくものの 山
ジャングルの おくへと すすむと、目の前に ドロドロとした 大きな「そこなしぬま」が あらわれました。
うっかり 足を ふみ入れると、ズブズブと しずんでいってしまいそうな、あぶない ぬまです。
でも、よーく 見てみると、それは リビングに ころがっている、ふかふかの クッションや ざぶとんたちでした。
「うーん、この ぬまを わたらないと、前に すすめないぞ。どうしよう」
ハルカちゃんは 考えました。
ぬまの なかには、大きな みどり色の クッションが、ぽつん、ぽつんと 浮かんでいます。
それは まるで、大きな ワニの せなかのようです。
「よし、あの ワニの せなかを ぴょんぴょんって とびうつって わたろう!」
まずは、いちばん 近くの みどり色の クッションへ。
「せーの、トウッ!」
ぴょんと とびのると、クッションは ふわんと ゆれました。
まるで 本当に ワニが うごいたみたいです。
「うわわ、おっとっと!」
ハルカちゃんは、おちないように、りょう手を 広げました。
足が ゆか(ぬま)に ついたら まけです。
つぎは、となりの ピンクの クッションへ。
「それっ、ぴょん!」
さいごは、いちばん 大きな 白い クッションへ。
「ジャンプ!」
ハルカちゃんは、足を ぬらさずに、ぶじに そこなしぬまを わたりました。
「やったあ! たいちょうにかかれば、これくらい へっちゃらだよ」
ぬまの そばには、みどり色の まあるい 木のみが、きらきらと 光っていました。
「わあ、きれい!」
ハルカちゃんは、それを ひろって、ポケットに 入れました。
ぬまを ぬけると、こんどは 目の前に、雲まで 届きそうな ほどの 大きな 白い 岩山が そびえ立っていました。
ごつごつしていて、どこから のぼればいいのか 分からないくらい 高い 山です。
たんけんぼうを ぬいでみると、それは、お母さんが たたんで つんでおいた、たくさんの せんたくものの 山でした。バスタオルや、お兄ちゃんの Tシャツ、お父さんの ズボンが 高く つまれています。
ハルカちゃんは、もういちど たんけんぼうを かぶりました。
「トトは、この 山の 向こうに いるのかも しれない」
ハルカちゃんは、山の まわりを ぐるりと 見ました。
すると、せんたくものと ソファの あいだに、せまい 道を 見つけました。
「よし、ここなら とおれそう!」
ハルカちゃんは、せんたくものを くずさないように、体を よこにして、そろり、そろりと すすみました。
ところが、とちゅうで――
「くしゅん!」
小さな くしゃみが 出ました。おひさまの においがする タオルが、はなを くすぐったのです。
ハルカちゃんの 体が ぴくんと うごき、かたが タオルに ふれました。
山の いちばん 上に あった 白い タオルが、ずるずると すべりおちそうに なります。
「きゃあ! くずれるー!」
ハルカちゃんは、あわてて タオルを そっと おさえました。
せんたくものの 山は、ゆらりと ゆれましたが、くずれずに すみました。
「ふう、あぶなかった」
ぜんぶ くずしてしまったら、せっかく たたんでくれた お母さんに わるいと 思いました。
山の 向こうへ 出た ハルカちゃんは、もういちど 立ち止まって、ぼうしの つばをもって、向こうを 見ました。
「あっちに、なにかが 見える!」
ベッドの ある あたりに、小さな ちゃいろい ものが 見えた気がしました。
4わめ ゴーゴーいう 黒い モンスター
山の 向こうへ 出て、ベッドの ほうへ いそごうとした、そのときです。
ゴーゴーという ものすごい 音が、ジャングルじゅうに ひびきました。
木々が ざわざわと ゆれ、じめんが ビリビリと ふるえています。
「な、なに!? なんの 音!?」
ハルカちゃんは 立ち止まりました。
すると、草むらの 向こうから、ゴーゴーと 大きな 音を 立てて、黒い モンスターが あらわれました。
長い はなを ブンブンと ふりまわし、目を 光らせながら、ハルカちゃんの ほうへ まっすぐ すすんできます!
その モンスターは、じめんに ある ものを、なんでも バリバリと のみ込んでしまう、とてもこわい 生きものです。
「あ! あれは……!」
たんけんぼうをぬぐと、それは、お昼ごはんの じゅんびを おえた お母さんが、うごかしている そうじきでした。
お母さんは、リビングの ほこりを すい取るために、いっしょうけんめい そうじきを かけているのです。
ハルカちゃんが もういちど たんけんぼうを かぶると、そうじきは 黒い モンスターに もどりました。
ゴーゴーと 音を 立てながら、まっすぐ ハルカちゃんの ほうへ すすんできます。
このままでは、ハルカちゃんも、まだ 見つかっていない トトも、あの 長い はなの中に すい込まれてしまうかもしれません。
「に、にげなきゃ! でも、こわくて、足が うごかない……!」
モンスターは どんどん 近づいてきます。
あと すこしで、ハルカちゃんの 足元まで やってきます。
ハルカちゃんは こわくて 目を つぶりそうに なりました。
でも、たんけんたいの たいちょうが、ここで あきらめては いけません。
ハルカちゃんは、じっと モンスターを 見ました。
「そうだ。この モンスターを うごかしているのは、お母さんだ!」
ハルカちゃんは、ポケットに おもちゃの マラカスが 入っているのを 思い出しました。
「これで、お母さんに 合図を 送ろう!」
ハルカちゃんは、マラカスを 力いっぱい ふりました。
シャカシャカ、シャカシャカ!
「お母さーん! たんけんたいが とおります! モンスターを ちょっとだけ とめてくださーい!」
お母さんは、その 声に 気がつきました。
「はいはい。たんけんたいが とおりすぎるまで、モンスターは おひるねね」
お母さんが スイッチを 切ると、ゴー……という 音が だんだん 小さくなりました。
ゴーゴー 音を 立てていた 黒い モンスターは、そのばで ぴたりと うごきを とめました。
「いまだ!」
ハルカちゃんは、モンスターの よこを すばやく 通りぬけました。
「やったあ! さくせん だいせいこう!」
ハルカちゃんは、ほっと いきを つきました。
マラカスの 合図で、ピンチを のりこえたのです。
ハルカちゃんは、さらに ゆうかんな たいちょうに なりました。
5わめ サファリの たからもの
ハルカちゃんは、マラカスを ポケットに しまいました。
モンスターの よこを 通りぬけたあと、ハルカちゃんは ついに、サファリパークの いちばん おく、ベッドの うしろの どうくつへと たどりつきました。
ここは うすぐらくて、ひんやりとしています。
ベッドと かべの すきまは、とても せまくて くらい ところです。
ハルカちゃんは、ベッドの そばに はらばいに なって、くらい すきまを のぞきました。
すると、おくのほうに、ちゃいろい 丸い お耳が 見えました。
「あ! トトだ!」
トトは、ほこりの ようせいたちに かこまれて、ちょっぴり さみしそうに ぽつんと すわっていました。
きのう、ハルカちゃんが あそんでいるときに、うっかり おとしてしまったのを わすれていたのです。
ハルカちゃんは、ベッドの すきまへ うでを のばしました。
「もう ちょっと……あと ちょっと……」
ゆび先が トトの 足に とどきました。ハルカちゃんは、トトを そっと 手前へ 引きよせました。
「トト! 会いたかったよ! もう 大丈夫だからね」
ハルカちゃんはトトを ぎゅっと だきしめました。
トトは、「たすけてくれて ありがとう、たいちょう」と 言って、にっこり わらったように 見えました。
トトを ぶじに たすけ出した ハルカちゃんは、たんけんぼうをそっとぬぎました。
すると、目の前に 広がっていた ジャングルや ぬま、高い 山は、あっという間に いつもの リビングに もどっていきました。
ゆかには、まるまった くつしたが ころがっていて、クッションが ちらばっていて、お母さんが たたんだ せんたくものが、つんであります。
キッチンからは、お昼ごはんの いい においが してきました。
「ハルカ、お昼ごはんが できたわよ。手を あらってね」
お母さんの やさしい 声が 聞こえます。
「はーい!」
ハルカちゃんは、トトを かかえて、立ち上がりました。
外は まだ 雨でしたが、ハルカちゃんの 心は、お日さまが 出たように 明るく なっていました。
そのとき、ズボンの ポケットの なかに、なにか コロリとした かたい ものが 入っているのに 気がつきました。
「あれ? マラカスだけじゃなくて、なにか 入ってる」
ポケットの なかに 手を 入れて、その 小さな ものを つまみ出してみました。
それは、きらきらと 光る、みどり色の まあるい「ガラスのおはじき」でした。
明るい ほうへ かざしてみると、まるで ジャングルの おくでみつけた、ふしぎな まほうの 木のみのようです。
「あっ、きのうから さがしていた、お気に入りの おはじきだ!」
ハルカちゃんは、うれしくなって おはじきを ぎゅっと にぎりしめました。
「もういちど、見えるかな?」
ハルカちゃんは、たんけんぼうを かぶってみました。
けれど、リビングは いつもの リビングの ままです。ジャングルは、もう 見えませんでした。
サファリの 世界は 消えてしまったけれど、ぼうけんは、ほんとうに あったのです。
だって、ハルカちゃんの ポケットには、サファリで 見つけた『たからもの』が のこっているのですから。
「トト、また 雨が ふったら、いっしょに ぼうけんに 出かけようね」
ハルカちゃんは、トトの お耳に そっと ささやきました。
家の中という 小さな 世界には、まだまだ ハルカちゃんの 知らない、ワクワクする だいぼうけんが たくさん かくされているのです。
(おしまい)




