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明るい農村! 〜昭和初期の新婚さん異世界奮闘記〜  作者: 氷室玲司


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第5話 十六夜の月

「会いたいの?」


暗がりから遠慮がちに聞こえてくる幼女の声。


「だ、誰だべ?」


うちに居るはずもない女の子の声に多江はキョロキョロと周りを見渡し、奥の寝室から聞こえたのに気づく。


「そら耳だよね〜。もうおかしな事はこれ以上いらねえんだからね、脅かしっこなしだあ」


おっかなびっくりで、ソロソロとふすまを開けてみる。

「ひゃああっ!だ、誰だべ?」

「きゃあああっ!」

同時に悲鳴をあげて、二人そろって頭を抱えてしゃがみ込む。

しばらくして、おそるおそる目を上げると、やはりそこに相手がいた。

…これでは話が進まない。

さすがに何かいることは認めたようで、多江は寝室へとジリジリ這い、にじり寄る。

奥の箪笥の前で、もみじのようなちっちゃい手で頭を抱えてうずくまる幼女の姿がぼんやり見えてきた。

おかっぱ頭に紅白の格子柄の絣の着物。

箪笥に飾っていた市松人形そっくり…多江は一目見た連想を声に出さずに思い出す。

 

「怖くないから…なしてここにいるんだべ?」


見たことのない子でも、この子はわたしの知っている世界の子。

それだけで多江はこの子を守る義務を感じて、なんとかしなきゃと勇気を奮う。


「こわくないの?おこったりしない?」


上目遣いに潤んだ目を向けてくる幼女。

ちんまりとした鼻に慎ましい口元、可愛らしい。


「怒らない怒らない…でもなしてここに?」

「あのね…多江のこと、ずっとみてたの」


びくびくと不安そうに、小さな鈴が鳴るような声がおかしなことを告げる。


「見てた?こっちの世界にきてから?」

「ううん…このお家ができてからずっと。多江が産まれる前からずっと」


(この家ができてから?

確かこの家はお祖父ちゃんが建てて、もう50年は経つ筈)

多江は思わずいつもの調子で問い返しかけて、だが相手の纏う空気の異様さに喉を詰まらせ、慌てて言い直した。


「おめ、いやあなた何者だ?」

「ほんとは見つかったらいけないの。ウチは見守るためにいるの」

「座敷わらしけ?まさか、あなた様は」

「うん。人に見られたらいけないの、だけど…多江が泣いているのみてられなくて…」


その言葉を聞いたとたん、また多江の目から涙が溢れる。

神さま―。

多江の胸の奥で、消えかけていた灯火のような希望が、ふっと揺れた。

神様なら、きっと出来る。

村の鎮守様だって、願掛けすれば聞いてくれるのだから。

たった一筋でも帰れる道があるのなら、もうそれに縋るしかなかった。


「神さまなら、オラ達を帰して!お願いします、なんでも御供えしますだよ!」


理屈じゃない。

ここで出会った人が嫌なんじゃない、ただ、日本人なら日本に、あの両親の、村の人々の中に戻りたい…それがなぜいけないの?

多江の心には稲穂がたなびく中で、優しい母親が微笑む姿しか思い浮かばなくて、とっさに幼女にすがりつく。


「ごめんね、多江。ウチじゃできないの…。ウチもこの世界に飛んできちゃったから。

元の世界で生まれた力しか持たないウチじゃ、力が全然足りないの。

お家の中だけはなんとか護ってみせるけど、それ以上は力が足りなくて叶えてあげられないの。

多江達を護ってあげられなくて、ごめんね、ごめんね…」


多江の頭に水滴が落ちてくる。

頭を抱えてくれている、あれ?神さまも泣いてる…


「ウチもかえりたいの…」


神さまが泣いてるなんて。

幼女の姿だけに、こっちが胸が痛くなる。

罪悪感が込み上げてきて、自分が泣いてる場合じゃないと、多江は逆に目をクシクシ擦る幼女を抱きしめてしまう。


「ごめんね…オラこそ甘えちゃったね…できる事とできない事あるの、当たり前だあ、泣かなくていいからねぇ」

「…家まで巻き込む神かくしなんておかしいの。ウチはこう見えても日本の八百万の神の1人なの…」

「これは神隠しなのけ?」


噂には聞いたことはある。

普通に暮らしていた人が不意に姿を消して、殆どの場合は帰ってこない。

帰ってきてもその間の記憶を失っていたり…

多江は改めて自分たちが取り返しのつかない事態に巻き込まれたんだと、肩を落とす。

「もう…帰れないのかあ…」


多江のしょんぼりとした姿を幼女もしょんぼりと見つめていたが、不意に顔を上げてポンと手を叩く。


「多江、ちゃんと望みはあるの。いつまでかかるかはわからないけど、ウチがいる限り可能性はあるの」

「えっ?そうなのけ?」

「うん。ウチがこうして存在していられるのは、霊脈が日本と繋がっている証拠なの。ウチがいないことにみんなが気づいてくれたら…連絡はきっとくるの。気を落とさず頑張って待つしかないの!」


難しい理屈はよくわからなくても、まだ全部が途絶えたわけではないのだと、それだけは胸に沁みた。

ふんす!と手を握る幼女に多江も少しだけ希望がでてきた気がして、いつもの天真爛漫な笑顔が戻る。

元気が出たところで、多江は幼女に尋ねる。


「ねえ、神さまはなんて名前?神さまと呼ぶのも変だし…」

「ウチの名前…ウチは本当は誰にも呼ばれない存在だから名前はないの」


寂しそうに答える幼女の後ろ、窓辺に月が光り始めている。

昨日は満月だったな…多江は十六夜の月を眺め、コクリとうなづく。


「じゃ、これからオラが神さまに名をつけていいだべか?」

「多江がつけてくれるの?うれしいの…」

「あなたの名前…今そこに浮かぶお月さまから貰うべ。十六夜(いざよい)ちゃん。…どうだべ?」


さっきまで泣いていた胸の奥に、やわらかな月明かりが差し込むような気がした。

はにかみながら微笑む幼女を白い月明かりが包み込む…

「いざよい。十六夜…うれしいの。ウチの名前は十六夜、なんだね?」


ポフッと多江にすがりつき、胸にぐりぐりと頭を擦りつける十六夜を抱きしめながら、多江は、胸の奥の寂しさが少しずつほどけていくのを感じていた。


読んで頂きありがとうございます。

よろしければ評価やご感想、ブックマークをよろしくお願いいたします。

更新の励みになります、間違いなく加速装置が作動します(笑)



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