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明るい農村! 〜昭和初期の新婚さん異世界奮闘記〜  作者: 氷室玲司


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第2話 村の仲間と初めての友達

ぬか漬けの味に驚き、緑茶の爽やかな甘みに驚き、ヨーゼフや村民も皆、耕作や多江がこのあたりの人とは違うのを理解したようだ。


(なんというか、このコーサクって男にはこの辺の奴らとは違う物腰というか気品を感じるぜ)


茶を啜りつつ、上目遣いで周りを観察するヨーゼフ。


名乗りがサトーという姓つき。

しかもこの屋敷、立派な門構えに、屋根は石?積み、紋章までついてやがる!


さらに広い敷地に蔵が並び、どうみてもただの農家というには無理がある。


開けっぴろげな屋敷もよく見りゃやたら広い間取りだし、皆の家より余程しっかりしている。


タエってちんまい奥さんは、えらく庶民的というか俺達と同じ匂いがするのがまた不思議だが。


ぬか漬けだけでなく、饐えたような香ばしいような不思議な匂いが漂う不思議な屋敷。


庭先に走りまわる鶏。


自分達が知る鶏とは微妙に違うのもあって、益々彼らがどこか遠くから来た迷い人であると確信するヨーゼフであった。


(迷い人にせよ、間違いなく騎士さま以上の身分なのは間違いねぇ。あまり無礼な真似をしないよう皆に言っとかなきゃな)


思案の末、ふと庭先を見たヨーゼフは目を剥く。

なんと、ついてきていた子供達があちらの奥さんと口論を始めているではないか!


「こらあ〜っ!鼻たれ坊主のくせにタエって呼び捨てとは何だぁ!」


腰に手を当てて詰め寄るが、小さいせいで仔犬がほえているようにしかみえないのが残念である。


「だってちっせえじゃん?俺達とたいして変わんねえだろ?」


「オラはこう見えて18歳だあ!おめえはいくつだべさ?」


ムキーと足を踏ん張って、精一杯背伸びをしているが、周りの少年達の方が大きいのが切ない。


「おめえじゃねえ、イサクってんだよ!え、ええ〜っ?ウソだあ、どうみても10歳くらいにしか見えねえ」


「じゅ、10歳〜ぃ?」


「だって18だったら…エリザ姉ちゃん見ろよ、あの子ども抱いてる。背も高えし、おっぱいだって…」


「うが〜っ!どこ見てんだあ、口の減らねえガキんちょめ〜!」


多江が顔を真っ赤にしてプルプル震えているのを見兼ねたのか、ヨーゼフがイサクの頭に拳骨を落とす。


「いい加減にしねえか!申しわけない、奥さん…」


ヨーゼフの謝罪もなんのその、落ちていた箒を振り上げて多江の癇癪は治まらない。


「伊作だか与作だか知んねえけど、よくも言ったねえ〜っ!まだガキなのに色気づくなんて十年はええだよ!」


「へ〜んだ!チビ奥さまや〜い!」


「ムキーッ、に、にくたらし〜い!」


ヨーゼフにもう一発食らわされそうになったので、すかさず逃げ出したイサクに、地団駄ふんで悔しがる多江。


「多江さん多江さん、はしたないから…」


「旦那さま、離してくだせえ!あのクソガキをせめて一発〜っ!武士の情けで〜っ」


「多江さん、あなた武士じゃないでしょう…とにかく落ち着かないと本当に子供扱いされますよ」


耕作の説得に応じてようやく箒を下ろす。

すると今度は、イサクにエリザと呼ばれていた若い女性に多江は近づいていく。


先ほどから穏やかに微笑んでこちらを見ているのが気になっていたのだ。


亜麻色の髪に青い瞳と、胸に幼い子を抱いた姿が一対になっていて、まるで宗教画から抜け出たようだ。

もっとも多江にそんな知識はまったくない。


(たしかにおっきいです…べ、別にくやしくないもんね)


多江はそっと自分の胸元を見下ろし、すぐに顔をそむけた。

(……負けた気がするだ)


そんな自虐はなかったことにして、軽く会釈してくれたエリザの笑顔に勇気をもらい、意を決して口を開く。


「伊作が言ってたけど、同い年なんだべ? 可愛らしい童を抱いてるから、てっきり年上かと思っただよ。オラは多江っていうの、よろしくお願いしますだ」


「あらまあ、タエさんね? なんて可愛らしい……わたしはヨーゼフの娘で、エリザと申します。この子はローザ、三歳になるのよ」


エリザの腕の中で、ローザがぱちぱちと瞬きをしながら口を開いた。

「タエ〜?」


「あらま〜、もう名前おぼえたの?なんて賢い子だぁ〜」


身近で幼児を世話したことがないせいか、子煩悩な多江はだらしなく顔が崩れてしまう。


(産めよ育てよ!オラもこれからバンバン産んで…やだ、はしたねぇ!でなくて…子供は欲しいな、はやく)


「タエさん、びっくりしたでしょうけど、これも何かのご縁です。一緒にこの土地で暮らすんですから…仲良くして下さいね」


エリザの言葉と共に、背後の黄金色に輝く麦穂が柔らかくたなびくのが多江の黒い瞳に写る。


「…ん。エリザさん、オラもこの村の仲間にしてくださいな」


深々と頭を下げる多江。


彼女の温かい心遣いがわからない訳がない、どこの誰とも知らない人をこうして迎えてくれる…


その優しさに対して、今できることは、頭を下げるしかない。


そう思い、多江は心からの感謝をエリザに返す。


今後無二の親友になる、二人の出逢いはこんな形で始まったのだった。






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