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第3部・最終話 自由の輪、設計者の終焉

 夜が明けきらぬ空に、七つの輪が並んでいた。

 秩序、夢、愛、心、存在、赦し、そして――自由。


 その光は、どこまでも静かで、温かく、

 けれど同時に、すべての“設計”を拒んでいた。


 リアは丘の上に立ち、風を受けていた。

 髪がほどけ、指先から小さな光がこぼれる。

 ――設計者の因子。

 それは、彼女の体内で徐々に“溶けて”いた。


「もう……終わりが近いのね」


 背後から、アメリアの声がした。

 影も光も統合された彼女は、穏やかな表情をしている。


「リア、あなたがいなくなったら、この世界はどうなるの?」

「……大丈夫。

 もう、誰かが“設計しなくても”動けるようになってる」


 リアは空を見上げた。

 七つの輪が、静かに回転している。

 それは、もう“神の装置”ではなかった。

 世界そのものが、人間たちの心の中に根付いている証。



 遠くで雷鳴が響いた。

 世界の境界が、音を立てて解け始めている。

 秩序の構造が、自ら崩壊を始めていた。


 アメリアが不安げにリアの手を握る。

「リア……怖いの?」

「怖いわ。

 でもね、怖いまま進むのが“自由”なの」


 リアは微笑んだ。

 その笑みは、かつてのカイルのものに似ていた。


「……カイル、聞こえる?」

 風に向かって呟く。

「私は、あなたの“間違い”を全部、受け継ぎました」


 静寂。

 けれど、その奥で、懐かしい声が響いた。


『よくやった。

 お前は、私が設計できなかった未来を創った。』


「……もう、あなたはいないのね」


『私は“声”ではなく、“記憶”として残る。

 お前が笑うたび、風が吹くたび、

 私の世界は続く。』


 リアは目を閉じ、風に頬を寄せた。

 涙が一筋、光に変わって散った。



 アメリアがそっと囁く。

「リア、あなたはもう“設計者”じゃないんでしょ?」

「うん。これで、本当に終わり」


 リアの身体が淡く光り始める。

 設計因子が完全に分解され、

 彼女は“ただの人間”へと戻っていく。


「でもね、アメリア。

 “ただの人間”って、すごくいい響きだと思わない?」


 アメリアが笑った。

「うん。だって、“間違えても生きていい”ってことだもん」


 二人は手を取り合い、丘を降りた。

 その足跡が草を芽吹かせ、風を生み、

 小鳥たちが新しい朝を告げた。



 空では、七つの輪がゆっくりと重なり合い、

 一つの“光の環”になっていく。

 それは、もはや神の象徴ではなかった。

 人間という種の、限りなき進化の証。


『――設計完了。

 最終構築体:自由世界。

 管理者:存在せず。』


 最後の声が響き、空がまぶしいほどに白く染まる。



 その後、どれだけの時が流れたのかは分からない。

 ただ、世界のどこかで人が笑い、泣き、夢を語り、

 “間違えながら”生きている。


 風が吹くたび、どこかで誰かが囁く。


「――整えすぎるな。壊しすぎるな。

  そして、生きろ。」


 それが、設計者カイルとリア・ノクターンの残した、

 最後の“法”だった。


【終幕】


追放された雑用係、使い方を間違えたら最強になりました

――第三部完/次章「創世編:無限の設計へ」へ続く

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