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第3部 第6話 赦しの輪、影の微笑

 ――夜空が、泣いていた。


 雨でも、風でもない。

 空そのものが、嗚咽のような音を立てていた。

 五つの輪の間に生まれた“第六の光”が、

 ゆらりと形を変えながら輝いている。


 リアは、その下に立っていた。

 アメリアの手を握りしめたまま。


 目の前にいるのは――もうひとりのアメリア。

 黒い光に包まれた、影の少女。

 その瞳には、涙のような闇が宿っていた。


「……あなたが、“影”なのね」

「影? 違うよ」

 黒いアメリアが微笑む。

「私は“本当のアメリア”。

 あなたに愛されなかったほう」


 リアの心臓が痛んだ。

 否定できなかった。

 光のアメリアを創った時――彼女の“寂しさ”を置き去りにしたことを、

 どこかで分かっていたから。



「リア。どうしてこの子、泣いてるの?」

 光のアメリアが不安そうに尋ねた。

「……あなたが笑っているから、よ」


 影のアメリアが答えた。

 その声は柔らかく、それでいて深く刺さる。


「あなたが“幸せ”になったぶん、私は“悲しみ”を背負った。

 あなたが“愛された”ぶん、私は“見捨てられた”。

 私たちは一つだったのに――」


 リアは震える声で言った。

「ごめんなさい。

 私は、あなたを――」

「いいの。

 だって、あなたがそうしなきゃ、私は“生まれなかった”」



 影のアメリアが一歩、前に出た。

 空気が震える。

 世界が、二つに割れようとしている。


 草原の半分が光に包まれ、

 もう半分が静かな闇に沈む。


「このままだと、“世界が分かれる”……!」

 リアが叫ぶ。

 だが、アメリアが小さく首を振った。


「いいんだよ。

 世界は、いつも“分かれて”いる。

 喜びと悲しみ。

 創ることと、壊すこと。

 生きることと、死ぬこと。」


 影のアメリアが微笑んだ。

「ねぇ、リア。

 あなたの中にも“影”があるよね?」


 リアは息をのむ。

 ――そうだ。

 彼女の中にも、まだ拭いきれない“恐れ”がある。

 愛しきものを壊すかもしれない恐れ。


「私……怖かったの。

 誰かを救えば、別の誰かを傷つける気がして」


「うん。だから、私たちは一緒にいられる」

 影のアメリアが光のアメリアの手を取った。


 二人の掌が触れ合う。

 瞬間、世界が震えた。



 光と闇が混ざりあい、

 空の第六の輪が輝きを増す。


 それは、光でも闇でもない――“赦し”の光。


 リアの頬を涙が伝う。

 カイルの声が、胸の奥で響いた。


『リア。

 人は、矛盾を抱いて生きる生き物だ。

 完全を目指した瞬間、神になる。

 だが、矛盾を愛した時――人間になる。』


 リアは空を見上げた。

 光輪がゆっくりと回転し、夜空が穏やかに光を返す。


「……ありがとう、カイル」

「ありがとう、リア」


 アメリアと影が同時に言った。

 次の瞬間、二人の姿が重なり、

 ひとつの少女がそこに立っていた。


 瞳の奥には、夜と朝が共に映っている。

 新しいアメリア――

 光でも影でもない、“赦された存在”。



 風が静かに吹いた。

 リアはその場に膝をつき、目を閉じた。

 長い、長い闘いの果てに、

 ようやく“創造の痛み”が、静寂に溶けていった。


 その時、空に七つ目の光が灯る。


“自由”。


 それは、誰も設計しなかった輪。

 人間が初めて、自らの手で描いた光だった。



次回 第3部・最終話「自由の輪、設計者の終焉」

――カイルの記憶が消え、世界は“完全な人間の時代”へ移行する。

だがリアは、自分の中に残る“設計者”としての存在と決着をつける。

最後に明かされる、“最初の追放”の真実とは――。

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