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第3部 第5話 アメリアの微笑み、そして予兆

 夜明けの光が、草原を金色に染めた。

 鳥の声が響く。

 風が吹き、花々が揺れる。

 ――それは、この世界が初めて「朝」を迎えた瞬間だった。


 リアは焚き火の灰を払いながら、微笑んだ。

 隣ではアメリアが、小さな花を摘んでいる。

 彼女の手の中で、白い花が淡く光った。


「アメリア、それは?」

「うん、“見た夢の花”。

 昨日の夜、リアが笑ってた夢を見たから、

 その形を思い出して作ったの」


 リアは息を呑んだ。

 その花は、彼女が創ったどの植物とも違っていた。

 まるで、“感情”そのものが形をとったような輝き。



 昼。

 二人は崩壊した街跡に立っていた。

 アメリアが摘んだ花を地面に置くと、

 土が柔らかく光り、瓦礫が静かに消えていく。


「……再構築してる」

 リアが囁く。

 アメリアの作った花が、街そのものを癒していた。

 崩れた建物に色が戻り、

 倒れた塔に生命の蔦が絡む。


「アメリア……あなた、それをどうやって?」

「分からない。

 “悲しみ”を見つけると、自然に花が咲くの」


 リアは震える指でその花を掬い上げた。

 確かに温かい。

 けれど、その奥には――微かなざらつきがあった。



 夜。

 焚き火の前で、リアは手帳を開いていた。

 書きかけの設計図の上に、アメリアの花を置く。

 紙が光り、未知の記号が浮かび上がる。


『第六輪:創造の逆相』


「逆相……?」


 手帳の余白が自動的に書き換わる。

 そこには、かつて存在しなかった新しい理論が記されていた。


『感情から生まれる創造は、必ず“反感情”を生む。

  愛は恐怖を、喜びは虚無を、慈しみは支配を呼ぶ。』


「……そんな。

 この子の優しさが、世界を壊すっていうの?」


 リアの胸が締めつけられる。

 アメリアは何も知らず、眠っている。

 穏やかな寝息。

 夢の中でも、微笑んでいる。



 翌朝。

 風が重かった。

 空の光輪が、わずかに歪んでいる。

 五つの輪のうち、一番新しい“存在の輪”が濁っていた。


「アメリア……昨日、どんな夢を見たの?」

「うーん……“悲しい夢”かな。

 リアがいなくなる夢」


 リアは一瞬、言葉を失った。

 空を見上げると、黒い雲が渦を巻いていた。

 その中心から、低い音が響く。


〈感情反転値:上昇〉

〈存在領域の安定指数、低下中〉


「やっぱり……逆相が始まってる」



 風の中に、声が混じった。

 アーク・カイル――いや、カイルの残響。


『リア。

 創造には、必ず“影”が生まれる。

 アメリアは、お前が創った光そのもの。

 だから、世界は彼女の影を欲する。』


「影……? まさか、もう一人のアメリアが……」


『まだ“存在”してはいない。

 だが、このままでは近い。

 お前がこの子を愛するほど、その影は深くなる。』


「……そんなの、止められない」


『止めなくていい。

 だが、受け入れろ。

 “創造の痛み”を。』



 アメリアが空を見上げた。

 彼女の瞳が、淡い二重の虹色に揺れている。


「リア……空、泣いてる」

 その声に、リアの背筋が震えた。

 空の裂け目が光を放つ。

 そこに、人影が一つ――アメリアと同じ姿をした“黒い影”。


「やっぱり……来たのね」

 リアは立ち上がり、胸の奥にカイルの声を感じた。


『リア、これは“お前の影”でもある。

 恐れるな。抱きしめてやれ。』


 風が叫び、光と闇がぶつかり合う。

 アメリアが泣き出す。

 リアは彼女の手を握り、前を見据えた。


「大丈夫。

 あなたの影ごと、私は愛する。

 ――それが、“人間の再構築”だから。」


 その言葉に応えるように、空の光輪が揺らぎ、

 六つ目の光が誕生した。

 それは、誰も知らない新しい輪――“赦し”。



次回 第3部・第6話「赦しの輪、影の微笑」

――アメリアの“影”が実体化し、リアと対峙する。

世界は光と闇、創造と破壊の均衡を求めて揺れ、

カイルの最終記憶が再生される――“設計者の遺言”。

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