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第3部 第4話 存在の花、そして再会

 ――世界は、息をしていた。


 リアの歩いた軌跡に、緑が広がる。

 草原、風、匂い、空。

 すべてが“誰かに見られた”ことで、初めて形を持っていく。


 アメリアはその中心で、微笑んでいた。

 まだ幼い顔。けれど、その瞳には深い知性が宿っていた。


「リア。今日の風は“笑ってる”ね」

「風が……笑う?」

「だって、あなたが嬉しいから」


 リアは息をのんだ。

 アメリアは、自分の感情を“鏡のように”映している。

 まるで、自分の心の欠片が外に出たみたいだった。



 夜。

 空に浮かぶ五つの光輪が、柔らかく脈を打っている。

 リアは焚き火のそばで膝を抱えた。

 火の粉がゆらめき、アメリアがその隣で寝息を立てている。


「……可愛い、なんて言葉じゃ足りないな」


 誰かを“創る”という行為の重さを、

 今になって実感していた。

 この子は、もうただの存在じゃない。

 感情を持ち、笑い、眠り、夢を見る。

 そして――リアを“母”のように見つめる。


「ねぇ、カイル。

 これが、あなたが言っていた“生きる自由”なんですか?」


 火の音に紛れて、風が答えた。


『その子は、お前自身だ。

 お前が捨てた“孤独の部分”。』


「……カイル?」


 焚き火の向こうに、淡い光の影が立っていた。

 背が高く、白い外套。

 その顔は、二百年前の設計者のまま。


「あなた……本当に、カイルなの?」

「意識の残滓。

 アーク・カイルが消滅する直前、

 “生き続ける意思”だけがこの世界に残った」


 リアは立ち上がり、息を呑んだ。

「会いたかった。

 でも……どうして今、現れたの?」

「お前が、“創る痛み”を知ったからだ」



 風が吹いた。

 カイルの影は少し揺れながら、言葉を続けた。


「設計者はいつも“創ったものに愛される”ことを恐れる。

 なぜなら、創った瞬間、それはもう“自分ではない”からだ」

「……私も怖い。

 アメリアを見てると、自分がいらなくなる気がする」

「それでいい。

 創造とは、“自分の外に心を渡すこと”だ」


 リアはうつむいた。

「……私があなたを受け継いだのに、

 あなたみたいにはなれない気がする」


「リア。お前は私を超えた。

 私は“秩序と自由を整えた”。

 だがお前は、“存在そのもの”を肯定した。

 それは――神にもできないことだ」



 アメリアが寝返りを打った。

 小さな手がリアの裾を握る。

 カイルが微笑んだ。


「この子は、次の時代だ。

 存在することを“設計されずに”許された初めての人間。

 だが、それは同時に――“不安定”でもある」


「不安定?」

「存在は、いつでも自壊の危険を孕む。

 もしお前がこの子を“愛すること”をやめた時、

 この世界は再び崩れるだろう」


 リアは拳を握った。

「じゃあ、私はこの子を――絶対に手放さない」

「……その言葉を、信じる」


 カイルの輪郭が、風に溶けていく。

 光の粒が宙に舞い、夜空の五つ目の輪に吸い込まれた。


「カイル!」

「もう一度“間違えて”くれ、リア。

 正解なんて、世界の敵だ。」


 その声が消えると、風が止んだ。



 翌朝。

 アメリアが目を覚ます。

 その瞳に、昨日までなかった“色”が宿っていた。


「リア。

 私、夢を見たの。

 “あなた”の夢。

 泣いてたけど、綺麗だった」


 リアの胸に、何かが込み上げる。

 この子は、ただの存在ではない。

 “記憶を継ぐ人間”。


「アメリア……あなたも、“設計者”なのね」

「ううん、違うよ。

 私は“生きる人”だよ」


 その言葉に、リアは微笑んだ。

 ――そして、心のどこかで、

 「世界がもう一度動き出す音」を聞いた気がした。



次回 第3部・第5話「アメリアの微笑み、そして予兆」

――アメリアが成長し、“感情を創る力”を発現。

しかしその力は、現実世界にも影響を及ぼし始め、

“第六の輪=創造の逆相”が発生。リアは再び選択を迫られる――。

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