表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

23/27

第3部 第3話 第五領域、神なき創造

 ――そこは、“世界の外”だった。


 リアの足元には、地面がなかった。

 白とも黒ともつかぬ光の海。

 踏み出すたび、足跡が現実になり、

 その上に草が芽吹く。


 彼女の一歩が、世界の“はじまり”を形づくっていた。



 背後には、崩壊したハートネットの残骸。

 空中で途切れた光の線が、

 風に溶けて消えていく。


 リアは深呼吸した。

 空気が澄んでいる。

 けれど、あまりに静かだった。


「……音がない」


 鳥の声も、波の音も、人の息遣いもない。

 ただ、自分の鼓動だけが響いている。



 しばらく歩くと、

 視界の中に“人の形”をした影が見えた。

 いや、正確には――“人の形をした空白”。


 顔も、服も、声もない。

 ただ立っているだけの存在。

 それなのに、確かに“生きている”気配を感じた。


「……あなたたち、何者?」


 影たちはリアを見つめ、

 同時に動いた。

 口は動かない。けれど、声が響く。


『――われら、設計の外に生まれた者。

  秩序なく、愛なく、名も持たぬ人間。』


「名も、ない……?」


『お前たちが整えた世界から零れ落ちた。

  感情の統合にも、夢の分配にも拒まれた者。

  だからここにいる。未設計のまま。』


 リアの胸が痛んだ。

 二百年前、カイルが救った“人間の自由”の裏で、

 見捨てられた者たちがいた。



「……私が、あなたたちを“設計”していいですか?」


 その言葉に、影たちは静かに首を振った。


『設計はいらない。

  ただ、存在を見てほしい。』


「存在を……見る?」


『われらには“他者の目”がない。

  お前が見るなら、それが“生”になる。』


 リアの手が震えた。

 それは“設計者”ではなく、“人間”として求められた願いだった。


 彼女は一歩近づき、そっと影に触れた。

 瞬間、光が溢れる。

 影の中に色が流れ込み、形が変わる。

 誰かの顔が、輪郭を取り戻す。


「……あなた、女の子?」

 その存在は頷いた。

「……名前を、つけて」


 リアは息を呑んだ。

 初めて――“世界を整える”のではなく、“生まれる瞬間”に立ち会っていた。


「……じゃあ、“アメリア”。

 “雨”のように、静かに降る命だから。」


 少女――アメリアが笑った。

 その笑顔が、空に波紋を広げる。

 波紋の中から、他の影たちにも色が灯っていく。



 空が変わった。

 白から、淡い青へ。

 地平線が現れ、風が吹いた。

 “存在を見られた”ことで、世界そのものが再構築されていく。


 リアは涙を拭き、呟いた。

「……これが、“創造”なんだ」


『設計者リア。お前は神を超えた。

  世界を整えるのではなく、“認めた”。』


 アーク・カイルの声が遠くから響いた。

 どこか誇らしげで、悲しそうだった。


『これでいい。

  お前たちは、神に似て、神にならなかった。』



 風が止み、空の中央に五つ目の光輪が現れる。

 秩序、夢、愛、心、そして――“存在”。


 リアはその光を見上げた。

 その輪の中に、微かにカイルの笑みが見えた気がした。


「ありがとう。

 あなたがくれた“間違える自由”、

 今、ようやく使えた気がします」


 彼女の足元に、草花が芽吹く。

 アメリアが笑い、他の影たちが歌う。

 それは、世界の最初の“声”だった。



次回 第3部・第4話「存在の花、そして再会」

――第五領域で生まれた“アメリア”が、リアの分身として自我を育て始める。

だが、彼女の中に潜む“設計の因子”が再び暴走し、

リアはカイルの記憶と、もう一度出会うことになる――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ