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第2部 第4話 再構築都市、目覚め

 朝霧の中、王都がゆっくりと息を吹き返していた。

 瓦礫の間を通る風は柔らかく、破壊の跡を撫でるように流れる。

 人々は立ち上がり、誰に言われるでもなく掃除を始めていた。


「壊れた街を、自分で片づける。

 いい流れですね」


 庁舎の屋上からその様子を見下ろしながら、カイルは微笑んだ。

 隣でエリオスが肩をすくめる。

「そりゃお前の弟子みたいなもんだろ。

 “片づけ屋の国”って感じだ」


 カイルは苦笑する。

「そんな看板、掲げるつもりはないんですけどね」



 街の中央広場。

 子どもたちが拾った瓦礫を積み上げ、即席のモニュメントを作っていた。

 崩れた塔の破片を組み合わせ、意味のない形に並べている。

 ――だが、それは奇妙に美しかった。


「ねぇ、これ、“リサの光”みたいじゃない?」

「うん、でももう怒ってない顔してる」

「じゃあ、これが“自由律の女神様”だね!」


 笑い声が広がる。

 その瞬間、カイルの胸ポケットで“欠片”が淡く光った。

 まるで子どもたちの声に応えるように。


「……反応してる」

「リサのか?」

「ええ。まだこの街を見ているようです」


 カイルは欠片を取り出した。

 それはまるで心臓の鼓動のように、一定のリズムで光っていた。


 彼は広場の中心にしゃがみ込み、欠片を地面に埋めた。

 ――“再構築の核”として。


「これで、王都はもう一度、生き方を選べるはずです」



 夜。

 街中に微細な光が浮かび上がった。

 道の縁、屋根の影、噴水の水面。

 まるで街そのものが“呼吸”を始めたかのようだった。


 光は人の動きに反応して揺れ、

 時に導き、時に照らし、時に見守った。


 翌朝、職人たちは言った。

 「夜になると道が光る。まるで誰かが“歩け”って言ってるみたいだ」

 「商人たちは“声”を聞いたってさ。『値切りすぎるな』って」

 「教会では、“祈るな、語れ”ってさ」


 人々は最初こそ戸惑ったが、次第に理解した。

 それは命令ではなく、“街そのものの対話”だった。



 庁舎の一室。

 報告書をまとめていたカイルの机に、ひとつの手紙が届いた。

 ――差出人:名無し。

 中には、子どもの字でこう書かれていた。


「カイルさんへ。

ぼくたちは、もう自由に笑っていいの?

まちがっても、またやりなおしていいの?」


 カイルは少しだけ目を閉じた。

 答えは決まっていた。

 けれど、書く文字に少しだけ時間をかける。


「間違えるのは、自由の証拠です。

でも、“誰かのためにやりなおす自由”を忘れないでください。」


 ペンを置くと、机の上の欠片が淡く光った。

 その光は書いた文字に触れ、手紙をやさしく包み込んだ。

 まるで街そのものが、その言葉を覚えているかのように。



 数日後。

 王都の地図が書き換えられた。

 新しい区画の名前は――「再構築区」。


 中央広場には“自由律の女神像”が建てられた。

 だが、その顔は左右非対称で、目の高さも揃っていない。

 片方の手には秩序の書、もう片方の手には空の器。


「……完璧じゃない」

「だからこそ、美しいんです」


 カイルは呟いた。

 街の空には、半円の光がまだ浮かんでいる。

 秩序神の残響。

 あれは、監視ではなく――“観察”。


「世界は見られてる。でも、もう縛られてはいない」

 カイルの言葉に、エリオスが頷く。

「で、次は?」

「外です」

「外?」

「“再構築の大陸”。他の街は今も混乱の最中。

 秩序を失い、自由を暴走させた土地を、片づけに行きます」


 エリオスは苦笑した。

「お前、ほんとに休む気ないな」

「ええ。だって“片づけ”に終わりはありませんから」



 夜、カイルは再び手帳を開いた。

 そのページには、新しい見出しが書かれていた。


『世界設計計画・第三段階:感情の都市化』

――“心”が街を作り、“街”が心を育てる構造へ。


 ペンを走らせながら、彼は小さく笑った。

「次は、“生き方を設計する”番か」


 窓の外で、王都が静かに瞬いた。

 それは、かつての秩序の光ではない。

 人の手で灯された、不揃いで優しい灯りだった。



次回 第2部・第5話「再構築の大陸、第一都市アルグレア」

――“自由を祀る街”で、カイルを待つのは神でも魔でもない、“人の欲望そのもの”。

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