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第7話 再会――サファイア

 俺は早速、ミリアリアとサファイアがいるという一軒家に向かった。


 移動の途中にさっき受領したファイルを読んでいく。


「どれどれ……。分かっていることは名前がサファイア。女の子。推定5,6歳。最低限の教育は受けている模様――ってこれだけか」


 イージスの本部は首都郊外にあり、官舎の他に訓練場や体育館、宿泊施設やちょっとしたレクリエーション設備なども併設されていて、かなり広い敷地面積を誇っている。


 その敷地の中に、明らかに場違いな『オシャレな庭付き一軒家』はあった。

 赤い屋根に白塗りの壁、滑り台と砂場・ブランコがある広い庭を、低めの生垣で囲った2階建ての一軒家だ。


 車庫もあって、青色をしたどこにでもありそうなファミリーカーが1台止まっている。


 門のところまで来ると、ちょうど庭でミリアリアとサファイアの2人が遊んでいるところに出くわした。


 ミリアリアをサファイアが追いかけているので、鬼ごっこでもしているのだろうか。

 一生懸命ミリアリアを追いかけるサファイアと、笑顔でわざとタッチされてあげるミリアリアの様子は、本当の母娘のようでなんとも微笑ましい。


「ミリアリア、おはよう」

 俺が軽く右手を上げて挨拶をすると、


「おはようございます、カケル」

 ミリアリアが俺に振り向いて、丁寧にお辞儀を返してきた。


「ダイゴス長官から話は聞いてきた。オペレーション・エンジェル。お互いいろいろと苦労もあるだろうが、俺も全力で事に当たるから、よろしく頼むよ」


「苦労だなんてそんな。子供は好きですし、むしろ役得ですから」


「ははっ、ミリアリアはほんと家庭的で優しい子だよな。正直、俺は不安が大きいから、そう言ってくれると頼もしいよ」


「もぅ、カケルはほんと鈍感なんですから。もしかしてわざと言っていませんか?」

「ごめん、声が小さくてよく聞こえなかったんだが、なんて言ったんだ?」


「何でもありませーん。家庭的で優しいなわたしに任せて下さいって言ったんですー!」

「何でもないなら、なんでそんな不満そうな言い方なんだよ……」


「ふーんだ」


 なぜだかさっぱり分からないが、さっきまで上機嫌だったはずのミリアリアの機嫌が悪くなってしまった。

 なぜだ?

 今の会話に、ミリアリアを機嫌を悪くさせる要素なんてあったか?


 でも俺って時々、こんな感じでミリアリアの機嫌を悪くさせちゃうんだよな。

 俺としては改善したいところなのだが、機嫌を損ねた理由を尋ねてもこんな感じではぐらかされて教えてくれないのだ。


 ミリアリアとは俺がダイゴス長官に拾われてからの長い付き合いなんで、言いたいことも言い合えるし、かなりうまくやっていると思っている。

 だけどこのことだけ、俺は少し気がかりに思っていた。


 それはそれとして。

 それまでミリアリアの背中に隠れながら、顔だけ出してジッと俺の顔を品定めするように見つめていたサファイア――助けた時のような怖れを多分に含んだ表情だ――がパッと笑顔になると、


「パパ!」

 俺をパパと呼びながら、元気よく俺に抱き着いてきた。


「ぱ、パパか……」

 なんかこう、一気に年を取った気がするのは俺の気のせいか?


「うん、パパ!」

「えっとだな。俺は一応、カケル・ムラサメって名前なんだ」


「むらさめ? パパは、パパだよね? はっ!? つまり! むらさめは、パパっていみ!?」

「ええっと、そうじゃなくて、なんて言うのかな――」


「むらさめは、パパ! サファイア、おぼえた!」

「だからそうじゃなくて、たしかに俺は君のパパなんだけど、俺の名前はカケル・ムラサメであって――」


「むらさめは、パパじゃないの……?」


 なんともしょんぼりとした様子のサファイアが、目にじんわりと涙を浮かべながら、俺の目を見つめてくる。


 明らかに会話がおかしいのだが、まだ5、6歳の子供にそれを言っても始まらない。


「む、ムラサメはパパって意味だぞ~!」

 とりま、そういうことにしておいた。


 しばらくは3人で一緒に過ごすんだし、サファイアもそのうちムラサメは俺の名前だってことを分かってくれるだろう。


 チラリとミリアリアを見ると、俺とサファイアのやり取りをニコニコと楽しそうに眺めていた。


 ミリアリアは本当に子供好きで家庭的な子みたいだな。

 強襲攻撃部隊の副官よりも、こういう任務にむしろ向いているのかもしれない。


 普段は俺が上官だが、オペレーション・エンジェルではミリアリアを率先して立てるべきだと俺は判断した。

 適材適所――というかこの件に関しては、俺は明らかに能力不足だ。


 と、そこでサファイアがまたもやハッとしたような顔を見せた。

 ははっ、さっきからころころと表情が良く変わる子だ。


 だけどこの感じだと、ミリアリアは俺が思っていた以上に、サファイアの心をほぐしてくれているようだ。

 ダイゴス長官には改めて、ミリアリアの功績を伝えておこう。


「むらさめ、おかえりなさい! あいさつを、わすれてました!」


 そっか、そうだよな。

 この家に住むんだもんな。

 となると、俺がすべき挨拶はこうか。


「ただいま、サファイア」

「うん!」


 俺は元気よく頷いたサファイアに手を引かれながら、ミリアリアと一緒に『マイホーム』へと初めて足を踏み入れた。

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