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第38話「ふぁい、ふぉーふぉ♪」

「どうした?」


 動きを止めたミリアリアを(いぶか)しむ俺。

 やっぱり持って帰ろうと思い直したのだろうか?


 実を言うとその理由には、思い当たるものがある。

 サファイアが、ポッキーをかなり好きそうだったからだ。


『ポッキー、ポッキー、ポッキー♪ ポキポキポッキー、ポッキー♪』


 サファイアは、小さな子猫が立ち上がって前足をバタバタさせるみたいに手を上下に振りながら、楽しそうに何かの替え歌(と思われる)のポッキーソングを歌っていた。


 しかも、


『ポッキーは、ビスコと、おなじくらい、すき! でも、やっぱり、ビスコが、ちょっと、うえかも? うーん、なやむ……』


 なんてことを、真剣な顔で語っていた。

 その姿は、言うなればちびっこお菓子評論家サファイアちゃんだった。

 とても可愛かった(親バカ)。


 だからミリアリアも、サファイアのために残りのポッキーは持って帰ろうとしたのだろうと、俺は状況から推察したのだが――。


 どうもそういう事ではないようだ。


 ミリアリアは真剣な表情のまま、ポッキーから俺の顔へと視線を移すと、言った。


「ポッキーゲームをしましょう」


「ポッキーゲーム? って、なんだ? 悪い、俺あんまりそういうの詳しくないんだよな」


 またもや初めて聞く言葉に、俺は首をかしげてしまう。


「2人でポッキーの両端を咥えて食べ進めていって、先に折ってしまった方が負けになるという、パーティゲームの一種ですね」


「なんだそりゃ? 変なゲームだな……?」


 そんなことをして楽しいのだろうか?


「ゲームでもありますし、お互いに食べさせ合うので、広い意味で『あーん』の一種とも言えるかもしれません」


「……言えるのかな? ちょっと違わなくないか?」


「やれやれ。どうやらカケルはイメージが湧いていないようですね」

「そうなの……かな?」


「案ずるより産むがやすしです。実際にやってみましょう。ご安心ください。ただの遊びですから。深く考える必要はありませんよ」


 ミリアリアはいい笑顔でにっこり笑うと、俺の返事も待たずにポッキーの片方の端をハムっと咥えた。


 お箸の先を咥えているみたいで少しお行儀が悪く見えてしまうが、これはあくまで遊びなので、今は食事のマナー的なものはもちろん関係ない。


 ミリアリアはそのままの状態をキープしながら、顔を近づけてきた。

 そして口で咥えたポッキーを、俺の口元の前へと突き出した。


「えーと……」

 俺はなんとも反応に困ってしまう。


「ふぁい、ふぉーふぉ♪」


 口にポッキーを咥えたまま、ミリアリアが何かを伝えようとする。

 伝えようとするっていうか、多分だけど『はい、どーぞ』と言っているんだろう。


「えーと……」


「ふぁい、ふぉーふぉ♪」

「あ、ああ」


 ミリアリアの魅力的なで可愛らしい笑顔の下に、絶対に引かない強い決意のようなものを感じ取った俺は、流されるようにポッキーの反対の端を咥えた。


 カリ。

 カリカリ。


 軽快な音とともに、ミリアリアが咥えたままでポッキーを食べ進め始める。

 対して俺は反対の端を咥えたままで、微動だにしない。


 だってさ?

 この状況になった今さらになって気付いたんだが、これ、いろいろとマズくないか?


 このまま互いに食べ進めて行ったら、最終的に唇が触れ合う――いわゆるキスをしてしまうことになると思うんだが?


 そりゃ俺とミリアリアは夫婦なんだから、キスすることには何の不思議もない。

 だがそれはあくまで、俺たちが本当の夫婦だったらという前提での話だ。


 俺とミリアリアは仮の夫婦に過ぎない。


 その真なる関係は、職場の上司と部下という関係だ。

 キスをするのは、まずいと思われる。


 でも、なるほど。

 そういうことか。


 これは人の道徳観や倫理観を試す心理ゲームなんだな?

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