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とある朝の出来事

作者: 仮面舞踏会

憂鬱な土曜日の早朝、私は平間駅から川崎行きの電車に乗った。必然と開いていた一つの席に腰を掛け、ぼーっと窓の外を眺めていた。がらがらだ。そう思ったのだった。

 鹿島田に到着した。すると、疲れ果てた、スーツを着たサラリーマンが目の前の席に座った。彼はなぜ疲れているのだろうか、誰かに怒られたのだろうか。はたまた、大切な人のために力を尽くしたのだろうか。私のささやかな気持ちと比べるのはおこがましいかもしれないが、お疲れ様です。と一声かけてあげたいな、と思ったのだった。

 矢向に到着した。

次には、楽しそうに話す二人の男女が、目の前に座った。先ほどのサラリーマンとの差に不覚にも社会の多様性を思い出したのだった。その二人をよく眺めると、それぞれ、人差し指にリングをはめている。「結婚指輪」だった。彼らをしらない自分が言うのもおかしいが、おめでとう。と祝ってあげたいな、と思ったのだった。

 尻手に到着した。

誰も、乗ってこなかった。そして、「あと、一駅。」もう出なくては行けないことに少し悲しくなったが、それでもやはり私の心には確かな、ぬくもりがあったのだった。無論、彼や彼女らは何もしていない。けれど、そこにいてくれたことにありがとう。と感謝したいな、と思ったのだった。

 終点、川崎に到着した。

扉が開くと乗客たちが次々と降りていく。私は少し遅れて席を立ち、静かになった車内を一瞥した。ほんの数駅の間に見た人々の姿が、まだ心に残っている。電車を降り、改札へ向かう足取りは乗ったときよりもいくらか軽い。憂鬱だった朝も、気づけば少しだけ和らいでいた。誰かと会話を交わしたわけではないし、何か特別な出来事があったわけでもない。それでも、人の姿を見て勝手に思いを馳せるだけで、こんなにも気持ちが変わるものなのかと思った。

改札を抜け、私は歩き出す。目の前にはいつもと変わらない景色が広がっている。それでも、さっきまでの時間と、そこにいてくれた人たちが、今日という一日をやわらかくしてくれた気がした。



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