希望学校とは
望初さんと珠夜さんの説明が始まった。
私、星月夜翡翠はそれを聞く。
「まず、ここには霊界と人間界があるということ。それだけはとりあえず覚えなさい。ここが分かっていないと辛いわよ。現に、苦労した人を知っているわ」
望初さんは呆れたような声音で囁く。
「ゾメッチ、それは誰のことかな?」
珠夜さんの視線が冷たいが、望初さんは無視して先に進む。
「霊界に住んでいる人、私や珠夜、子栗鼠もそうね、は俗に言う幽霊というものなのよ。つまり、人間界で死んだ者たちよ」
みんな、生きてるように見えるけどな。
「でも、マヨタンもみんなも人間界の記憶はないよ!」
「そうね。まぁ具体的に説明すると、人間界で死んだとき、未練が大きい少女だったら、体と名前だけを持って霊界に行くのよ」
「その名前で魔法の適性が決まるんだよ。規則性は分かってないけどね」
「適性は基本一人一個。珠夜と私は相当なイレギュラーだから、参考にしないでちょうだい。ちなみに子栗鼠、あなたは何属性なの?」
子栗鼠ちゃんが自分に喋る機会が来たことに驚いていたが、すぐに答える。
「……草……草属性です」
望初さんが説明を再開する。
「うん、基本一人一個なの。そして、適性が決まれば全員学校に通うの」
あれ、望初さん何個使ってたっけ?
「希望学校と魔法学校があるんだよ!私たちが行っていた希望学校の方がレベルが高い学校なんだ」
「えぇ、適性がわかったときに校長先生と呼ばれている人に振り分けられるわ」
「校長先生って呼ばれているだけで、校長先生じゃないし、霊界に来てすぐの時の一度しか会わないから不思議な人なんだよ」
校長先生って言われてもあまり実感はわかないが、たぶんえらい人なんだろうな。
珠夜さんは魔法屋店主についての説明を始めた。
「そして、レベルの高い希望学校の生徒の中から不定期だけど魔法屋店主が選ばれるんだよ」
つまり、魔法屋店主である望初さんは、レベルが高い学校の中のエリートということなのだろう。
「望初さんってすごいんですね!!」
素直にすごかったからな、死神約300体。
望初さんはちょっと照れた様子でかえす。
「ありがとう。そして、魔法屋店主の仕事はここ、魔法屋で死神を倒し続けることなの。死神が死神山から出るには、必ずここを通るわ。だから、ここを守るお仕事なの」
珠夜さんが望初さんを尊敬の眼差しで見つめている。
「ゾメッチってすごいんだよ!めっちゃ強い」
ただ、ここで一つ疑問が浮かぶ。ここを望初さんが守っていて、なぜ死神見習いが存在するのだろうと。
まぁ、この警備を破れる奴がいるのではないかという懸念だ。そうしないと、鎌で切ることができないから、死神は望初さんにボコボコにされて、いなくなるはずだ。ここは質問だな。
「では、なんで死神がいなくならないんですか?望初さんが死神を倒し続けたら誰も霊界の人たちを切ることができないじゃないですか!?」
望初さんは思いっきり珠夜さんの方を向く。
珠夜さんは罰が悪そうに俯く。
「マヨタンみたいなってこと……自分からみんな死神山に行っちゃうの」
「そうね。希望学校も魔法学校も卒業生は死神狩りをさせられるの。立候補性だけど、みんな行きたいと思っているから、成り立っているのよね。どこかのだれかみたいにね」
望初さんの視線は冷たい。
「ご、ごめんね。ゾメッチ、反省しているからぁ!!で、でもそこには、学校のシステムみたいな校則みたいながあって、一月に3体以上狩らないともう一度学校に入学で、最初からやり直しなんだよね」
珠夜さんは完全にうろたえている。
「反省したのね。よかったわ。学校教育は……珠夜、どう思う?」
「鬼畜!スパルタ!辛い!ゾメッチと同じレベル!」
「今、なんて言ったのかしら?」
望初さんは声まで冷たい。でも、なんとなく分かった。
だから、みんな入学とかしたくないから死神狩りに参加して、死神山にいっちゃうんだ。なんとなくわかったぞ。次は、三島 幽依先輩という人の話を聞きたいと思った。
「ありがとうございます!あの、さっき言っていた三島 幽依先輩って……」
珠夜さんが答えてくれる。
「すごい先輩!あの鬼畜スパルタ修行を続けるために、自分の意思で留年して頑張っている」
「そうね、留年生の修行はさらに厳しいと聞くから、すごい先輩ね。雷属性の適性を持っていて、固有魔法も使えたわ」
望初さんの声の温度も戻っている。よかった。
留年って落ちこぼれた人の集まりなイメージだけど……ここでは違う、エリート集団を指すんだな。
固有魔法。超級魔法を超える威力を持つから、相当すごいはずだ。目を合わせなくてよかったぜ。
「他に留年した人はいるのですか?」
望初さんがしっかり答えてくれる。
「二人いるわ。一人は小石先輩。小石 明里先輩ね。火属性の適性だけど、固有魔法は無属性だったはずよ。そして、もう一人はメロディー先輩ね。メロディアス・リズミックっていう先輩よ。水属性の適性だったと思うけど、固有魔法は色々だったはずよ」
三島 幽依、小石 明里、メロディアス・リズミック。特に固有魔法色々が怖い。要警戒だな。
固有魔法は強い。私の固有魔法だって強いし。
あと、聞きたいことあったっけか。あっ、れみさんについて、相談したい。
「望初さん!れみさん吹っ飛ばしました。どうしたらいいでしょうか?」
望初さんは黙り込む。
「……」
そして、
「自分でなんとかしなさい」
見捨てられた!?望初さんに見捨てられた!?
仕方ない。いくられみさんが追いかけてきたからって、吹っ飛ばした私が悪い。謝りに行くか。でも、この制服は目立つ……?いや、さっきれみさん以外には見つからなかった。まあいっか。
ではでは。
「行ってきます!」
私は壁をすり抜けて、堂々と歩いていく。
「行ってらっしゃぁい!」
珠夜さんが見送ってくれた。
「急すぎるわよ」
望初さんは何やらあきれているが、気にしない。
さっきと同じ所に出る。しかし、遠目に見ても明らかに爆発しているところがある。とりあえずそこに向かうことにした。
ここからあまり距離はない。すぐにそこに辿り着いた。
たくさんの人が集まっていた。そこには、さっきの「これは何事なのですか?」の三島 幽依先輩の姿も見られる。
「ユイッチ!こっちの怪我人は全て治療できました。他に怪我人はおりませんか?」
長い金髪で、桃色の目をしていて、頭の後ろに大きなピンクのハートをつけた人が三島 幽依先輩に言った。服装は、珠夜さんと同じだ。
「アカリン!こっちは大丈夫なのです。メロディーの方をお願いするのです」
三島 幽依先輩が答える。
私は人が集まる中に堂々と入ってみた。しかし、私は特に気にされていない。まるで、私の姿が見えていないかのように。姿が見えていない!?まさか……
私は空を見上げる。薄暗い、太陽のない空を。そして、詠唱する。
「固有魔法、翡翠神、干渉制御」
太陽に干渉する。