帰り道には何かある
炒菜椿から必死に逃げて、逃げて。
やっとの思いで私、星月夜翡翠たちは死神山を駆け抜けた。
だけど……
死神山から出られたからって、そこは安全な道とは限らない。
「まあ、こんなにうまくいくわけ……ないよね」
珠夜さんは諦めたように肩を竦めている。
「予想はしていたわ。弱ったところを叩くのは定番よね」
望初さんは傷ついた体で何とか立っている。
いくら望初さんが自分ごと巻き込むように頼んだからとはいえ、流石に申し訳なくなってきた。けどそれどころじゃない。
「で、誰でしたっけ?」
私は目の前にいる世界への反逆者の制服を着た人に話しかける。
明るい茶色の短髪。どこかで見たことあるはずなんだけれど。前髪が左目を隠してるせいで、顔が認識できないからなのか、思い出せない。
なんだかんだいろんな人に会いすぎて、誰が誰だか分からなくなってきた。
「うちは、夜光ミチヨやね」
素直に名乗ってくれたミチヨ。
そうだ、思い出した。
この人、目からビーム出してくる子だ。
しかもこのビームは魔法ではないからいろいろ厄介なんだっけ。このビームめちゃくちゃ早かった気がするし。
「珠夜さん、望初さんじゃ避けきれないです。逃がしてください」
私は2人の一歩前に出てミチヨと向かい合う。
「逃がす気はあらへんけどな」
ミチヨが両手でピースを構える。
来る……
前に会った時は何もできなかったけど、今は結界奥義がある。
私は二枚結界を張った。
一枚は私の正面。もう一枚はミチヨの側面に。
「珠夜さん、速く!」
そう、珠夜さんと望初さんの逃走経路を確保するために。
ビームで結界が割れそうだけど、数発なら持つ。
「……分かった」
珠夜さんが再び望初さんを背負って走ってくれた。
「だから……」
逃げる珠夜さんにミチヨが狙いを定めようとしたので、私は重力制御でミチヨを思いっきり自分に引き付けた。
「えいっ!」
ミチヨの両手をつかんで、ピースが作れないようにする。
赤い十字の描かれた左目が、至近距離で私を見る。
だけど、ビームは飛んでこない。怖いけど。
「どういうつもりやっ!」
ミチヨが思いっきり暴れている。
やばい、逃げられちゃいそう。そうすると、至近距離でビームを打たれてまずいことになるんだが……
体術とか練習しておくべきだったかもね。
まあ、魔法中心の霊界で体術で戦う人なんて見たことないけど。
ツェンツェン以外……
「呼んだ?」
その声と共に、勢いよく人が飛んできたかと思うと、ミチヨが吹き飛ばされて抑え込まれていた。
「僕にかかれば容易いね」
噂をしてすらいないのに、何故かやってきてくれたチャイナドレスの少女。ありがたいけど……
「ツェンツェン?」
私が一応確認すると、思いっきり頷いてくれた。
「さて、このまま魔法屋店主達に引き渡すか……」
ツェンツェンが器用にミチヨを担ぐ。いつの間にか手枷がつけられてるし、何をどうやっているのかは全く分からない。
ツェンツェンは完全無詠唱で特定の金属を操れるって言っていたから、それで何とかしたんだろう。
「そういうわけにはいかんのや……中級魔法、火属……むぐっ!?」
ミチヨが最後の足掻きと言わんばかりに魔法を詠唱しようとしたところ。ツェンツェンが物理的に口を抑え込んでいた。
「さて、疲れてるだろうし、君のことも背負ってあげようか」
ツェンツェンが余裕の表情で声をかけてくれる。
「いえ、遠慮します」
ありがたいけど申し訳ないし、それで万が一ミチヨを逃がされると困るので私は断った。
その後の道は何ともなく、無事希望学校へ帰ることが出来た。
ミチヨを背負ったツェンツェンと共に、私は店主の間へ向かっていた。
望初さんの様子も気になるからね。
「……ツェンツェン?無事?」
店主の間には何故かユェンユェンがいた。
「長姉だ!」
ユェンユェンを見かけるなり、ツェンツェンが近づいていく。
私は忘れられたように転がされたミチヨを重力制御で拾い上げ、近くにいた遡楽さんの方へ連れていく。
「これは……お手柄とでもいっておこうか」
遡楽さんが目を見開いている。
「ツェンツェンのおかげですけれど、完全に」
私はざっくり今までのことを話した。
「なるほど。炎帝!この子よろしく」
遡楽さんは話を聞いてくれた。そして、炎帝さんに頼んでミチヨをどこかへ連れて行った。
「ミチヨはどこへ?」
少し気になったので聞いてみた。
「牢屋があるんだよ、この店主の間には」
なるほど、そこに入れておけば安心だ。




