死神山
「絶対に気を緩めないで」
結局私、星月夜翡翠は、珠夜さん、望初さんと共に死神山へ来ていた。炒菜椿について調べるため。
望初さんが鋭い目で辺りを常に見渡している。
「大丈夫……なはず」
珠夜さんは堂々とした態度だったが、一度死神になりかけてしまったことを思い出すのか、声に自信がこもっていない。
「とはいっても、何を調べましょう」
望初さんが困ったように話す。
確かに、どこかへ乗り込めば証拠がつかめる、とかそう言う問題でもない。
「やっぱり、本人探しでしょうか……」
私はなんとなく言ってみる。
本人に会って話を聞くのが一番情報が得られるけど、話してくれる保証もないし、しかも戦闘になって負けてしまう可能性すらある。
「リスクは高いけど、それしかないよね」
珠夜さんが苦々し気ながらも同意してくれる。
「……だとして、以前炒菜椿は最下層にいたんでしょう。だったらそこへ行くところからじゃない?」
それなら、死神から鎌を奪って頑張って地面を叩くしかない。
「でも、その必要はなさそうです」
そう、炒菜椿の居場所には大体検討が付いていた。
だって目の前にいる死神。それらは弱くてもろすぎる。
明らかに炒菜椿の人形。
「なるほどね……これを辿ればいいと」
望初さんが頷いてくれる。
「え、どういうこと?」
珠夜さんは不思議そうに首を傾げる。
「この弱い死神は炒菜椿の人形である可能性が高いんです」
私は珠夜さんに説明した。
そうだよな、情報って普通共有されていないよな。望初さんの情報収集がすごすぎるだけだよね。
ちょっと魔法屋店主の情報網が気になる……
「そういうことなら、超級魔法、属性混合、灼熱爆風」
珠夜さんが思いっきり魔法を放つ。それだけで死神は吹き飛ぶ。
死神だけじゃない、あたりの壁にもダメージが入る。
炒菜椿を探すなら、壁ごと壊したほうが手っ取り早い。
私は、干渉制御で壁にめり込んでは壊すことを繰り返す。
「乱暴すぎるんだゾ☆」
見つけた。声だけだけど。
「気をつけなさいよ、珠夜」
望初さんがさらに警戒心を強める。
「分かってるって」
珠夜さんは準備運動と言わんばかりに軽く飛び跳ねる。
「そこの翡翠神、椿様の顔を汚した罪は償ってもらうんだゾ☆」
前に炒菜椿と戦った時のことを思い出す。
あの時、ユェンユェンがうまく誘導してくれて、結界奥義で椿の腕を斬り飛ばして……
その血しぶきが炒菜椿の顔に掛かって、炒菜椿が叫びながら撤退していった。
天花様も似たようなことを言ってた気がするけど、顔ってそんなに大切なものなのかな。
確かに炒菜椿の顔はすごくすごく綺麗だけれど……
「あなた、何をしたのよ……」
流石にそこまでは情報が共有されていなかったのか、望初さんが驚いたような呆れたような目で私を見ている。
「顔、狙ってください」
私は望初さんと珠夜さんに言った。
でも、弱点なら狙うしかない。炒菜椿をただ倒すだけじゃなくて、情報を聞き出さないといけないんだから。
「執拗ナ……」
炒菜椿の恨みがましげな声が聞こえる。
その声と共に、大量の人形を従えた炒菜椿が現れた。
「あなたたちの顔、ズタズタにしてあげるカナ☆」
その言葉と共に、人形が襲い掛かってくる。
重力制御で人形全部をつぶしにかかる。
だけど、数体潰れない人形があった。強い人形が混ざってるな……
「固有魔法、翡翠神、属性奥義」
「固有魔法、風属性、俊足。超級魔法、火属性、灼熱絶火」
そのような人形も、望初さんの魔法に砕かれる。
動きの速い人形も、珠夜さんの速度にはかなわない。
「思ったよりやるネ、とっておきを出してあげるんだゾ☆」
炒菜椿の隣からまた人形が現れる。
「サソリ、あの綺麗な紫の目をくり抜くんだゾ☆」
その人形は死神の服を着た少女の形をしていた。だけれども、尻尾が生えている。その先端には鋭そうな棘。
とりあえず重力をかけてみたが、あまり効いていない。
紫の目って、望初さんのことだよね……
「絶対にゾメッチには手を出させない。超級魔法、風属性、爆風神刀」
珠夜さんはそう言って果敢に突撃していく。
炒菜椿の人形、サソリは尻尾を振り回す。
「……っ!?」
珠夜さんが慌てて下がる。
「当たったら即死的な感じかしら?」
望初さんが険しい表情で珠夜さんに尋ねる。
望初さんの頭の右側、不自然に一部短い髪が揺れる。
珠夜さんが重々し気にうなずく。
「死神二冠の身体狩り、流石……」
望初さんはそう言いながらもやる気満々に構えている。その目に宿るのは怒り、だろうか?
望初さんが炒菜椿と出会っているところは見たことないが、実は過去に何かあったのかもしれないな。
「絶対倒します」
私はそう言った。
相手が強いのだって、危険なのだって承知でここへ来た。
やるしかない。




