人間界へ
「ゾメッチ……?ふん……」
私、星月夜翡翠は珠夜さんのところへ望初さんときていた。2人が仲直りできるように。
あっさり仲直りできると思ったんだけど、意外と難航している。
「私だって、別に珠夜なんて……」
望初さんが全力で目をそらす。
「ゾメッチとかどうでもいいし」
珠夜さんも目をそらす。
この二人どんだけツンデレ発揮してるんだ?
「珠夜が謝らないからよ」
望初さんが今度は怒りだす。
「ゾメッチが謝ったら、マヨタンも謝ろっかな」
珠夜さんは望初さんを挑発する。
謝る……か。この二人何もやらかしてなくないか!?ちょっとすれ違っただけじゃないの?
「あの……」
私は口を挟もうとしたけれど、2人に同時に思いっきり睨まれた。息ぴったりじゃん。
もういいや、一人で人間界行こうかな。
「うるさい、ゾメッチが悪いもん」
「珠夜だって人の話を聞かなさすぎ……」
無限に続きそうな喧嘩を横目に私は立ち去る。
目指す先は魔法屋。そこからなら人間界に行ける。
希望学校の端のほうだけど、重力制御を使えば素早く移動できる。
そのまま干渉制御で壁を通過して、勢いよく魔法屋に飛び込んだ。
「……」
だれかに直撃した。って子栗鼠ちゃんだ。
子栗鼠ちゃんは無言のまま、悲鳴も上げずに転んでしまった。
そういえば昔もこんなことがあったような……
「なんというか……とりあえずナイスだぁね」
呪莉さんが驚いたように私を見る。
「うぅ、撤退」
子栗鼠ちゃんが魔法屋から去っていく。そういえば、子栗鼠ちゃんも死神だ。これ絶対忘れちゃいけないことだけど。
「翡翠神が何の用?」
おそらく、現魔法屋店主だろう。
だとすると、おそらく名前は天宮、いや虹蝶勇輝。
名前のせいなのか、天宮さんに似ているように見える。
「人間界に行くために通らせてください」
私がそう言うと呪莉さんは頷いてくれる。
「結空を通して話は聞いている。メルちゃんの調査だぁね」
情報共有も出来る結空さん、すごすぎるなと思いながら、呪莉さんの言葉にうなずく。
「はい、行ってきます」
呪莉さんが快く送り出してくれる、と思ったら……
「勇輝、行ってくるんだぁね」
呪莉さんが勇輝さんを魔法屋の外へ出した。
「ほら、早く行かないと勇気が困ってしまうんだぁよ」
えっ?
あ、とりあえず。
行ってきます。
「ここ、どこだよ」
勇輝さんが絶望的な表情で辺りを見渡している。
「人間界です」
そんな勇輝さんに同情しつつも、私は私の目的を果たさなくてはいけない。
呪莉さんってあんな突拍子もないことをする性格だったっけ……
さて、るるはどこにいるだろうか。姉と兄を探すと言っていたから、一か所にとどまっていない可能性も高いけど。
一旦行くなら天宮さんの家かな。
いや、今は昼だから学校かな?
今日の曜日が分からないから、学校の有無も分からない。
学校がなかったら面倒だから天宮さんの家に行くか。家ならそのうち帰ってくるし、会える可能性は高い。
天宮さんの家は目立つし、この前よるさんと歩いたから、なんとなく場所は分かる。
今度はためらいなくインターホンを押す。
「……はい、天宮家でございます。……いかがいたしましたか……翡翠!?」
インターホン越しに聞こえた声は夢叶さんのものだった。
「はい、るるはいませんか?」
そう言うと、インターホンでの通話が切れた。え、私何か問題発言した?
「速いって、それにここどこなんだよ」
重力制御を使ってすっ飛んで移動した私に、勇輝さんが何とか付いてくる。
「あ、すみません」
謝っているけれど、反省はしていません。
でも、私ちゃんと勇輝さんのことを見ないと。勇輝さんにとってはここは未知の異世界だ。
「……待ってた、速く」
夢叶さんが家から出てきて私の手をつかむ。
「待ってくれぇ……」
勇輝さんが絶望した表情で後を追ってくる。
夢叶さんは勇輝さんに見向きもしない。よく周りを見ている夢叶さんにしては珍しい。
もしくは、魔法屋店主だと干渉が不完全だから、夢叶さんに勇輝さんがそもそも見えていないのか。
「……こっち」
夢叶さんに連れられて入った部屋にはるるがいた。部屋の中には操乗ちゃんもいた。
るるは虚ろな目をしてただ座っていた。
「あ、翡翠ちゃん……と天宮勇輝」
るるが虚ろな目のままこちらを見る。
「……反応した」
夢叶さんが驚いたように私とるるを交互に見つめる。
その様子からすると、るるは何にも反応しなかったのだろう。見えるものにも、音にも、匂いにも。
だけど、気になったことがある。
るるが勇輝さんを認識していることだ。
それが意味するのは、るるが霊界に干渉できるということ。やっぱりメルちゃんは……
「天宮勇輝?」
操乗ちゃんは訝しげだ。
「勇輝さんなら、ここにいます。2人には見えていないかもしれないけど」
私はそう言って隣にいる勇輝さんを指さす。
「2人って誰だよ。ここには翡翠神とるる?しか……」
どうやら、勇輝さんも夢叶さんと操乗ちゃんを認識できていないようだ。
「……信じられない」
夢叶さんが冷たく言い放つ。
「言っていい冗談とダメな冗談があるんだぜ」
操乗ちゃんの声も怒りを帯びている。
いや、本当なんですけど。
「天宮勇輝がそこにいる、本当だよ」
るるが首を傾げながらそう言う。
「ふざけてるわけでは、ないと?」
操乗ちゃんが不満げながらも引き下がる。
「勇輝さん側からも、お二人のこと、見えていないっぽいです」
私は一応事実を説明しておく。
「はぁ……」
勇輝さんは気だるそうに目を閉じる。おそらく、完全に飽きている。
さっさと本題に入らないといけないね。




