ミレイユ
「お姉さん、怒ってるんだけどね」
目の前にいるのは死神三傑のミレイユ。どうやったのか知らないけど、何故か希望学校に死神がいる。
うん、鎌が、多すぎます。
私、星月夜翡翠はひたすら重力制御で鎌の勢いを弱めて結界奥義ではじいてるし、ユェンユェンも素手で捌いてるけど、攻撃が止む気配はない。
話しかける作戦はさっき地雷踏んだせいでもう使えないし、どうしたもんか。
「……これだけ騒いでれば、誰か来てもおかしくない……何か変、気を付けて」
ユェンユェンがそっと耳打ちしてくれる。
確かに、ここは希望学校。戦闘の気配に敏感な優秀な人がたくさんいるはずだ。
それなのにこれだけの長時間戦っていて誰も来ないというのも不自然だ。
「超級魔法、水属性、蒼海乱舞!」
その時、ミレイユを濁流が襲った。
「澄ちゃん!?」
澄ちゃんの顔を見た瞬間、心の底から安心した。その表情がいつも通り晴れやかなものであったから。
「澄は、気づいたんだ。リッちゃんがいなくなって、苦しくて、それでも前を向こうと思って、頑張っていたけど、全然出来てなかったって。リッちゃんの敵をひたすら追い続けることが、前を向くことじゃないんだって、分かったんだよ。だから、澄は今度こそ、澄にできることを、やりたいことをやるんだよ」
そう言って澄ちゃんが波に乗ってミレイユさんの横をすり抜ける。
「澄じゃその攻撃ははじけないから足手まといなんだよ。だから、絶対に誰か呼んでくるんだよ!」
澄ちゃんがそう言うと、すごいスピードでその場を去っていった。珠夜さんに対抗できそうなレベルで速かった。
「やっかいなことになりそうね」
そう言ってミレイユが澄ちゃんに向かって鎌を投げる。
だから私は重力制御で鎌を全部自分に引き付けた。
結界奥義に全力で力をこめる。
それでも、結界にひびが入る。やっぱり自殺行為だったよね。ただでさえ威力の高い鎌を自ら引き付けるなんて。
何とか引き付けた分は止められたけど、これじゃあ次はどうしようもない。
『幻想出現』
それは、声じゃなかった。空間に響いた何か、よく分からないものだった。
はっきりとは聞き取れなかった。
でも、気配ははっきりと感じた。
銉ちゃん?
鎌が私から逸れていく。まるで幻に囚われたかのように。まるで奇跡のように。
次の瞬間には、銉ちゃんの気配は消えていた。
鎌が再び私に向かって飛んでくる。今ので体制は建て直せた。防げる。
『ありがとう』
私は銉ちゃんに、声は出していないけれど、お礼を言った。言ったわけじゃないけど……なんだろう。とにかく、伝えた。
「……銉は、元気だね」
ユェンユェンがそっと呟いた。
その言葉の意味はいまいち分からなかったけれど、そこにこもった温かさだけははっきりと感じた。
「まあ、行かれちゃったらなら仕方ないわね。人を呼ばれる前に仕留めるだけよ」
ミレイユがそう言って、鎌をまた一つ丸める。それを投げるのかと思いきや、それを持ったままこちらへ突っ込んできた。
すごい勢いで振り回される鎌。速い……
「……翡翠、その形の鎌だと、縦には振れない」
なるほど、上下移動で避ければいいのか。重力制御で浮き上がる。
「……そうじゃなっ」
ユェンユェンの焦ったような声。次の瞬間、ミレイユが持っていた鎌を投げてきた。忘れてたけど、メインの攻撃?こっちだった。
重力制御で水平移動もすれば回避はできるな。
「固有魔法、魔法屋店主、侵入不可領域」
私、ユェンユェンとミレイユの間に虹色の透き通った幕が張られる。その幕は絶対に飛んでくる鎌も、ミレイユも通さなかった。
「望初さん?」
その魔法を発動したのは望初さんだった。澄ちゃんが呼んできてくれたのだろう。
「あの子、澄、だったかしら?正気に戻っているようでなによりよ」
望初さん、実は澄ちゃんのこと心配してくれていたのか……
「固有魔法、魔法屋店主、蝶ノ舞」
望初さんが危なげなくすべての鎌を回避してミレイユとの距離を詰める。
「固有魔法、翡翠神、属性奥義!」
ここで初めて、ミレイユにダメージが入った。
「なかなか……」
鎌でしっかりガードしたようだけど、足取りがおぼつかなくなっている。攻撃が止んだ。
私は空気への干渉、ミレイユへの干渉を外して駆け寄る。いつも通りの内側から破裂させる作戦。
ミレイユにめり込んだところで、ミレイユに干渉する。あと、空気にもね。
「がはっ!」
いや、何かがおかしい。普通に考えて、内側から破裂させられれば体はバラバラになるはず。なのに、どうしてミレイユは立っている?
「……逃がさない」
ユェンユェンがすかさずミレイユとの距離を詰める。
「それだけは ……」
ミレイユが最後の力をふり絞ると言わんばかりに勢いよく飛び上がった。ユェンユェンをものすごく警戒している様子だ。
「……固有、魔法……魔法屋店主、強制送還」
ミレイユが魔法を発動する。
それは、魔法屋店主でないと使えないはずの魔法。
その魔法で、ミレイユは撤退していった。
「元魔法屋店主な死神は一定数いるから、無理やり納得できなくもないけれど……」
望初さんが首を傾げている。
ミレイユは途中、私に干渉してきた。だから魔法屋店主だったって言われれば納得は行くけど。
「……要調査」
ユェンユェンはぼんやりと呟いている。
「腕、大丈夫?」
そんなユェンユェンに私は尋ねる。
「とにかく、店主の間へ行きましょうか。遡楽さんがそこにいるから。明里先輩はどこにいるのか分からないし」
望初さんがユェンユェンを強制的に連れていく。
私としても、腕は治したほうがいいので望初さんには賛成だ。ということで、私は2人についていった。




