めるお姉ちゃん
私、星月夜翡翠は店主の間で話し合いをしていた。澄ちゃんの不思議な友達、メルちゃんについて。
「えいっ!」
天花様が澄ちゃんの頬をひっぱたく。
「何するんだよ!」
澄ちゃんが対抗して、天花様の頬に手を伸ばすが、天花様はその手をしっかりと受け止めたので、届くことはなかった。
「顔は大事なんだから、やめなさいよ」
天花様は静かだった。だけど、怒っているのを確かに感じた。
「澄ちゃん、確かに一方的に天花様が暴力振ってるのは悪いのかもしれないけど、みんな、澄ちゃんに冷静になってほしいの」
私は澄ちゃんに必死に訴える。
「澄は冷静だよ。メルちゃんは、本当に……」
そう言いかけた澄ちゃんが止まる。
「メルちゃん……?」
澄ちゃんが不思議そうにメルちゃんを見る。
「え……?」
澄ちゃんはようやく気が付いたようだ。メルちゃんは何もしゃべっていないし、何も見てすらいない、と。
「だから言ってるじゃない」
天花様が勝ち誇ったように胸を張っている。
「目が覚めたようで何より」
遡楽さんが安心したように笑っている。
「この子に関してはこちらで預かるし、調べる。いい?」
遡楽さんが改めて澄ちゃんに尋ねた。その問いに澄ちゃんは黙ってうなずいた。
「さあ、行くわよ」
天花様の指示に素直に従い、メルちゃんは店の奥へと消えていった。
「最近、妙なことが多いから気をつけるように」
遡楽さんはそう言い残して店の奥へ言ってしまった。
「澄ちゃん、大丈夫?」
私は澄ちゃんを見る。
「……大丈夫、だといいんだよ」
澄ちゃんが不安げに話す。
「……澄、一旦かえって休もう」
ユェンユェンが澄ちゃんの手を引いて店主の間を出る。そのまま寮へ帰った。
「ヒッちゃん、ユッちゃん、ありがとうなんだよ」
澄ちゃんはそう言って、眠りに落ちた。
「るる、ぼんやりしているようですが。何かございましたの?」
花苗るるは学校へ行っていた。
そこでぼんやりと遠くを見つめていた。
それを心配して天宮光輝は声をかける。
「翡翠ちゃんだ……」
るるは光輝の言葉が届いていないかのように、一人で呟いている。
「るる?」
光輝は不思議がって声をかけ続ける。
「……あ、天宮さん」
そこでようやく気が付いたのか、るるが光輝を見る。
「ぼんやりとしていますが、体調の方は……」
「天宮勇輝って知ってる?」
光輝の心配の言葉をさえぎるように、るるが言葉を発した。
「るるがなぜ、勇輝を知っているのでございましょう?」
光輝はいよいよ不安が限界に達したのか、手招きだけで夢叶と操乗を呼ぶ。
「勇輝様は偉大な方なんだぜ?誰が知っててもおかしくはない気はするけどな」
操乗は何故か自信満々だ。
「……いくら偉大であるとはいえ、勇輝様がお亡くなりになったのは10年程前。私たちは当時の記憶なんてほとんどないはず」
夢叶が操乗に反論する。
「血縁者なんだ、苗字一緒だし、天宮ってそんなにいないからだからもしかしてって思ったけど」
るるはそれを聞いて、満足したようにまた遠くを見つめる。
「……様子おかしいのは事実」
夢叶がるるの目の前で何度も手をたたく。だが、るるがそれを気にした様子はない。
「頑張ってね、めるお姉ちゃん」
るるの異常さは、光輝、夢叶、操乗の三人の手に負えなかった。
出来たのは、ただるるを見つめるだけ。
「操乗、死神には警戒しておいて」
光輝はそう言って、るるのそばを離れた。夢叶と操乗も自然とその場を去る。
「あ、捕まっちゃったじゃん」
そこには、るるの独り言だけが響いていた。




