逃亡
逃げろ!逃げろ!
私、星月夜翡翠はきた道を全速力で駆けていく。景色を見ながらゆっくり歩いていたから、道は結構覚えている。
「れみは、れみだって、れみも、走れます。そして、れみらしく、れみなりに、治安維持に貢献してみせます!」
やばいっ!れみさんとの距離はあと2メートル程度しかない。
でも、私はれみさんを遠ざける方法を思いついている。
近くにあった建物にさわる。
「固有魔法!翡翠神!干渉制御!」
昔からなんか、いくら走っても息が切れない。完璧な詠唱だ。
そして、私は空気を指定する。干渉を外した。これで、建物も空気への干渉が外れたはずだ。
とりあえず、凄まじい風が吹き抜けたのは感じた。
ちなみに、今れみさんがなにか言ったが、音を伝える空気に干渉していないため、聞こえない。
そして、苦しさを堪えてもう一度詠唱。
「固有っ魔法っ、翡、翠っ神、干渉制御!」
頑張った。成功してくれ。
私は空気を指定して、干渉した。
つまり、空気に私がめり込むのだ。無理に私の体や建物あった場所から押しのけられた空気が、外側にあった空気と圧縮されて、元に戻ろうとする力でドッカンと言ってくれると嬉しい。
ただ、下手すると私が死ぬかもしれない。体の内側から爆発して。
そうなったら最悪だが、この戦術が使えると、今後強い気がする。何事も試しは必要だから、それが今なだけだ。
死んだ時のことは死んでから考えようと思う。
それでいいのか分からないけど。
結果は……成功!!
建物が結構デカかった。あたりを爆風が襲う。これは、珠夜さんの得意な風属性の超級魔法、爆風神刀を越えるのでは?と言うレベルだ。私は中心にいるから大丈夫。めっちゃつよ……
打った私が引くわ…………
れみさんはもちろん、あたりにいたそこら辺の人も吹っ飛んでいった。
そして何よりやばいのは、あたりの建物(私が触ってたやつ以外)が全壊、もしくは半壊している。
そして、地面に大きなクレーターができた。私はクレーターの中に落ちた。でも、深さは2メートルくらいだったので、まぁ大丈夫だ。
隣や向かいにあった建物は、全壊を通り越して、消失している。
何はともあれ、れみさんを引き離せた。私は走り続ける。
「これは何事なのですか?」
上から声が聞こえた。その人は、半壊した建物の上に綺麗に立っている。珠夜さんと同じ制服を着ていて、その上に白い留袖の着物を帯もつけずに羽織るだけ羽織っている。顔はよく見えない。
なんとなく強そうな気配がする。
あたりに私以外の人はいない。
私は振り向かない。振り向いたら戦闘になるのがオチだ。無視して走り続ける。
その人は、私の方を見向きもしないで、わずかに残った建物の上をつたって、爆心地の方へ行ってしまった。
とにかく助かった。
最初に超えた柵が見えてきた。柵をすり抜けて、思いっきり壁に飛び込んだ。
「………………」
子栗鼠ちゃんに直撃した。
子栗鼠ちゃんは無言のまま、悲鳴も上げずに転んでしまった。
私は慌てて謝る。
「子栗鼠ちゃん!!大丈夫!?ほんとに、ほんとにごめんね!!」
「…………いい、よ……」
まぁ、私もそれなりに痛いが……
望初さんと珠夜さんが、驚いたように私をみている。
「えぇと、とりあえずどうしたの?」
望初さんが速攻で質問してきた。私は簡潔に説明した。
「松浦 れみって言う人に追いかけられて慌てて戻ってきた感じです」
望初さんと珠夜さんの表情が驚きに染まる。
珠夜さんが身を乗り出している。
「れみっていった?ねぇれみって……」
望初さんは珠夜さんを宥めつつも、同じように身を乗りだす。
「珠夜、落ち着きなさい。ところで、今れみって言った?」
そんな望初さんに珠夜さんは若干不満げだ。
「ゾメッチもやってること同じじゃんかー」
とりあえず、二人とも落ち着いてないことが分かった。
「はい、言いました。希望学校の治安維持に貢献するとか、あなたは不審者のようですねとか、言っていました」
珠夜さんがさらに驚いている。望初さんは信じられないというような目を私に向ける。
「れみが、あのれみが、人を不審者呼ばわりするだとぉ!?」
もはや世紀末のような形相になっちゃってるのは気のせいかな。
「信じられないわね。ちなみになぜ不審者って言われたの?」
分かんないけど、私がれみさんとしたことを話してみる。
「不審者って言われる直前に、れみさんって神ですか?って聞きました」
珠夜さんも望初さんもすごく納得したような目になった。
は、この質問、なんかおかしいですか!?
子栗鼠ちゃんが話に入った。
「あの……普通なら……そんなこと……聞かないかと……」
普通の人はあなたは神ですか?なんて言わないのか。自覚はあったよ。
それに、何かの敷地だったのかもしれない。私は不法侵入をしていたかも。
「みなさん!私、れみさんをふっとばしちゃったこと謝ってきます」
確かに、私こそ悪いところだらけだった。
「いやちょっと待って、吹っ飛ばしたって何!?」
珠夜さんが焦ったように聞いてきた。
「ちょっと魔法を試したら……てへっ」
誤魔化せないかな………
「どのくらいの規模なの?」
望初さんは冷静に聞いてきた。
「珠夜さんの風属性の超級魔法の爆風神刀は余裕で超えそうです」
望初さんの表情には冷静さが欠ける。
「相当の威力ね。れみは無事かしら……?まぁ小石先輩もいるからそこは心配ないとして、それで?誰かに捕まったりしなかった!?れみが居たってことは、そこは希望学校だと思うけど……それだけの爆発で、誰も気がつかないと言うことはないと思うわ」
爆発に気がついた人は……いたかも!「これは何事なのですか?」とか言ってた人がいた。
「爆発に気がついた人はいました!でも、私の方は見向きもせずにどっか行きました」
珠夜さんが不思議そうに首を傾げる。
「どんな人だった?」
思い出す。どっか行った人。なんとなく強そうだった。
「白い着物着ていた強そうな人でした」
珠夜さんと望初さんが顔絵を見合わせ、うなづき合う。心当たりがあるようだ。
「ユイッチ先輩だね!!」
「三島先輩ね……三島 幽依って言う名前の私たちの先輩よ」
望初さんの先輩……
「じゃあその人も魔法屋て……」
「違うわよ!」
望初さんに速攻で否定された。
「あなたが行った所は希望学校。私と珠夜はそこの学校に通っていた。れみは同級生。三島先輩は先輩。以上」
望初さんの説明はありがたいが、よく分からない。
「ありがとうございます。でも、よく分からないです」
望初さんは呆れた表情になる。
「あなた、理解する気あるかしら……まぁ、あなたに霊界について何も教えていなかったわね。無理もないかしら」
珠夜さんが大きくうなづく。
「そうだね、いろいろ教えてあげようよ!」
望初さんは迷うような感じになる。
「珠夜、まだここで過ごすことが確定したわけではないのよ」
珠夜さんは反対に目を輝かせている。
「まぁいいじゃん。子栗鼠ちゃんにも説明は必要だし、一緒にね?」
望初さんは深くため息をつく。
「分かったわ」
私は素直に感謝だ。この世界には知らないことが多すぎる。
「ありがとうございます!」