希望学校で
時は少しさかのぼって。
私、星月夜翡翠は目を覚ました。何か、隣で動く気配がしたから。
ふと隣を見ると、そこで寝ていたはずのユェンユェンがいなくなっている。辺りを見渡すと、ユェンユェンは部屋の窓からぼんやりと外を覗いていた。
「なにかあった?」
まだ眠たい体を起こし、私はユェンユェンに話しかける。
「……翡翠、いるかも。世界への反逆者……」
ユェンユェンの言葉に一気に目が覚める。
「希望学校内に?」
ユェンユェンは黙ったまま頷く。澄ちゃんが既に突撃しちゃってて、危ないかもしれないし、そもそも世界への反逆者は倒したいし。
「……うん、いく?」
ユェンユェンの提案に私は即座に頷いた。
そのまま私たちは部屋の外へ、そしてユェンユェンに案内されるまま噴水広場の近くへ向かう。
「……こっち!」
世界への反逆者。いた。
あれは確か、桃花だっけ、桃乃だっけ。
もう一人は、見たことある気もするけど誰だっけ。
強護封さんと、片方だけの猫耳を持つ少女が世界への反逆者と戦っている。
「固有魔法、雷属性、電光網にゃ!」
片猫耳の子が一生懸命魔法を打ってるけど、繰り出されるツタのようなものにはじかれてしまっている。無詠唱魔法してるってことはあれ桃花か?あれ、この前桃花を倒さなかったっけ。
とにかく、そんなこと考えている場合じゃない。
「ユェンユェン、ありがとう!」
ここまで案内してくれたユェンユェンにお礼を言って、私は戦場へ踏み込む。とりあえず重力制御で敵2人の体を地面にひきつける。
「……」
「っ!」
効いてそうでなにより。
「桃花!」
だけど相手はそんなに甘くなかった。
「模擬化け」
そうだ、思い出した。あの人は変身する魔法、模擬化けを使う人、虹蝶理恵だ。
虹蝶理恵は封さんの妹、防さんの姿になる。
「固有魔法、無属性、魔力封護」
まずい、と思った時には遅かった。その魔法で、私が2人にかけていた重力が無力化される。
桃花が草で道を作りそのまま2人は走っていく。
逃げられてしまった。
「すごいのにゃ!」
ぼんやりと桃花と理恵が逃げ去った方向を見つめていると、片猫耳の少女がいきなり私の視界に入ってきた。
そういえば、この子、特徴的だったから覚えてる。一番最初に銉ちゃんと教室へ行ったときにいた子だ。片方だけの猫耳と尻尾。間違いない。
「ありがとう」
とりあえずほめてくれているのでお礼は言っておく。
「干渉制御とは違うのにゃ?」
そっか、この子氷川愛洲と戦ったところとか見てるから、干渉制御のことは知っているんだね。
「今のは重力制御」
私は得意げになって説明する。
「……この子は多分大丈夫だけど、情報の漏らしすぎ……注意」
ユェンユェンにそっと怒られる。確かに、もっともな意見だ。
「まあ、せっかくの縁なのにゃ。あみゅいりゃいりゃだにゃ!よろしくにゃん」
あみゅい?りゃいりゃ?
「この子網結雷羅っていうのよぉ。仲良くしてあげてくれたら嬉しいのかしらぁ」
封さんが横から補足してくれる。なるほど、網結雷羅だったのか。
「私は星月夜翡翠、よろしくね」
私はそっと手を出す。雷羅は元気よくその手を取ってくれる。
「翡翠!よろしくにゃ」
そういえば、翡翠、はちゃんと発音できるんだ。自分の名前は発音いまい……これ以上は悪口かな……?
「世界への反逆者、話には聞いていたし、戦ったこともあるけど、想像以上だったのよぉ。無詠唱なんて聞いてないのかしらぁ」
封さんがイラつき気味だ。
「……警戒、大切」
ユェンユェンが謎の言葉で封さんをなだめにかかる。
「とにかく、みんな無事でしょうか?」
私の言葉に雷羅も封さんも力強く頷き返してくれる。それならよかった。
あともう一つ、聞きたいことがある。
「流泉澄っていう子。見かけませんでした?」
流石に心配になってきた。放っておいた方がいいような気もしていたけど、時効ってやつだ。
「澄?向こうにいたのにゃ」
雷羅が一本の道を指さす。案外あっさりと情報が手に入った。
「ありがとう。ユェンユェン、私は澄ちゃんを少し探してみるけど、どうする?」
私がやることは決まった。でもユェンユェンはどうするのか気になって聞いてみた。
「……ついていく」
すごく心強い言葉を貰えてしまった。
「じゃあ、またね!」
私はそんな軽い言葉で雷羅と封さんに別れを告げて、教えてもらった道を進む。
澄ちゃんがそんな簡単に見つかるはずがないことくらい、心のどこかでは分かっていたんだけど……それでも、この時の私は楽観的だった。




