檻の中の澄?
「……出して欲しいんだよ」
流泉澄が檻の中で呟く。
「申し訳なぁい、それはできないんだぁよ」
檻の前に立ち、澄を見張る虹蝶呪莉が答える。
「澄は......ただ、世界への反逆者を倒したかっただけなんだよ!」
澄は涙目になりながら叫ぶ。
「君の怪我の様子を見れば、交戦中だったことくらい分かるんだぁよ。それに、流泉澄が小狐丸銉の敵に取り入るはずがないことくらいは知っているねぇ」
呪莉は澄から目を背ける。多少なりとも気まずさはあるようだ。
「それなら、なんで......」
澄は納得いかないと言わんばかりに檻をつかんで揺らす。
「今の話は、君が流泉澄であると仮定した場合だからねぇ、理恵?」
呪莉はそんな澄にそっと視線を向ける。それは、とても冷ややかであった。
「澄は、澄なんだよ......」
澄は怒ったように叫ぶ。
「しらばっくれる気ならそれでいいんだぁよ、檻から出さないだけだからねぇ。ちゃんと変身相手を調べるようになっただけ成長しているようだが、まだまだぼろがでているんだぁよ」
呪莉は澄とは対照的にやんわりと話す。
「なんで今更そんなことを......先生気取りですか?」
澄の口調が変わる。怒りがたまり、我慢の限界に達したようだ。
「教え子はかわいいものだぁよ。例え、世界を滅ぼそうとしていたとしても。こう考えるのは私だけかもしれないけどねぇ」
そんな澄、否。理恵に呪莉は優しい目を向ける。
「最初から気が付いていたんですか?」
理恵は諦めたように変身を解く。
「もちろん。時間遡行を躱したときは、成長に感動して涙が出かけたんだぁよ」
呪莉は苦笑いで答える。
そう、もし理恵が時間遡行をくらってしまえば、それによって変身が解けてしまう。すなわち、結空による強制ワープ直後に発動された魔法を咄嗟の判断で回避したということ。
「そう、ですか。私のこと、覚えていたのですね」
そう言う理恵は、軽く笑っていた。
「忘れないねぇ、問題児のことは」
呪莉は理恵を揶揄う。それでも、質問の答えはしっかりと返した。
「炎帝よりはましですよ、私」
理恵が不貞腐れたように言う。
「そうだねぇ、炎帝は制服をちゃんと着てくれないし、天花は誰にでも上から目線で、何の教えも聞いてくれやしない。繭羽は引き篭もるし、彩都はしょっちゅう気絶するし、理恵は常にネガティブ思考。問題児だらけなんだぁよ」
呪莉は懐かしそうに眼を細める。
「それでも、みんな、今は立派なんですよね。私と違って......」
理恵は俯く。そんな理恵に、呪莉は檻越しに手を伸ばし、頭をそっと撫でる。
「ほら、すぐ自分を卑下するから理恵は問題児なんだ。少し前を向いてみるべきだねぇ。理恵が今何をしてようと、私は受け入れよう。その上で、理恵が私の敵であるなら正面から戦おう。理恵は正しいと思ったから、世界への反逆者にいるのだろう?だったらそれに自信を持って、前を向きなさい。信じた道を歩んでいる、理恵は十分立派だ」
呪莉は優しく、それでも力強く話す。
「私は......」
理恵の目からは涙があふれていた。
「話なら聞くんだぁよ。何でも言ってみなさい」
呪莉がそんな理恵の涙を拭う。
「…...私は、琴羽様の意見に共感したんです。この世界は間違っているって。弱者に一切の慈悲を与えないこの世界は。だから、この世界の仕組みを変えたいと思って、世界への反逆者になりました.....嘘です。私はただ、琴羽様が私を覚えてくれたことが嬉しかった、それだけです。私は特徴がないのか、人に忘れられますから」
理恵がつらつらと語る。
「......私は理恵を覚えているが、私じゃ、ダメか?」
呪莉は悲し気に尋ねる。理恵は顔を上げ、涙で濡れた目で呪莉を見つめる。
「......ダメ、じゃないです。だから、わざわざ流泉澄に成りすまして、会いに来た。桃乃が制服を奪うために狙う子なんて、桃花を倒した翡翠神か流泉澄。だから、蓮に頼んで死神山へ出かけた翡翠神の時間稼ぎをしてもらった。そうすると、襲われる子は確実に決まる。そして、世界への反逆者と交戦すれば確実にここへ来れると思った。世界への反逆者は危険視されてるから」
そこから先は語らずとも分かる。理恵は敢えて世界への反逆者の服に変装し、店主の間へ来た。みんなを試すため。
そして、全力で流泉澄の演技をした。その上で、気が付いてもらえたら嬉しいから。
「……そうか」
呪莉は一言だけ返事をする。嬉しそうではあるが、それ以上に辛そうな声音だった。
分かってしまったから。呪莉でもいいのにもかかわらず、世界への反逆者になった。その重みが。
「ごめんなさい、琴羽様を助けたい。そう思ってしまったんです」
理恵はきっぱりと言う。呪莉が予期していた言葉を。
「いいんだ、理恵の優しさはいいところだぁよ」
そう言いながら、呪莉は理恵を檻の外へ出す。
「……いいんですか?」
理恵は不思議そうに呪莉を見つめる。
「ダメに決まっている、だから内緒だぁよ」
呪莉は理恵の顔を見ないまま、返事をした。
理恵はそっと、その場を去った。




