最下層から
私、星月夜翡翠は死神山の最下層を歩き回っていた。上るための道を求めて。
多分、椿の人形と一緒に周囲の死神もちゃんと倒していたのだろう。道中、死神にはあまり出会わない。
出会っても、幽依先輩か私が一人で処理できるレベルだ。
ただ、階段が見つかる気配がない。
階段じゃなくて梯子でもいいし、なんなら穴でもいいから見つけたいんだけど。
本当に、上へ行く手段がない。
「疲れたのです」
幽依先輩が息を荒げている。
いくら弱い敵しかいないとはいえ、魔法を打ちまくっていれば疲れる。明里先輩の魔法で怪我は治せるけれど、疲労の回復まではできない。
私も結構疲れてきたけど、死ぬわけにはいかないから戦い続けないと。
「みんなで交代しながら寝ちゃうとか、なしですか?」
やっぱり戦い続けるとかそんなの無理なので、私は休憩を提案する。
「......ごめん、だめ。四天王以上が来たら……単独じゃ対応できない?......死神にされる」
ユェンユェンにバッサリ切られてしまった。
そういえばそうだった。私たちが死神になっちゃう可能性だってあるんだ。気が抜けないな......
「だとすると、本当に体力と時間勝負ね」
明里先輩が悔しそうに話す。
早く帰らなきゃいけない。
それはみんなが理解している事実。
それなのに、そのための手立てが見つかる気配すらない。
焦るし疲れるし、もう神経がだいぶすり減っている。
「だったら、天井に穴を開けてやるしか……」
メロディー先輩がそう言って、虚空から取り出した杖を構える。
やっぱり天井を壊すのか。
そういえば、干渉制御で壁にめり込めば、壁は壊せたよな。天井は?
思いつかずに試してなかったよ。
私は重力制御で浮き上がって、天井への干渉を外す。
これでめり込める、はず......
なのに、壁にめり込めない。干渉は外しているのに。天井が私に干渉してきている。
干渉制御、その魔法を使うのは翡翠の神。私だけ。天井が私に干渉できようが出来まいが、私以外の人には関係のない話。
つまり、これは私対策。なんで......?
「......翡翠、次の死神来たら、倒さないで?......体だけ取り押さえて、鎌を奪う」
ユェンユェンがその時不思議なことを言った。そんなことをしたら、余計に体力消耗しちゃうよね。
「なるほどなのです」
幽依先輩がユェンユェンの言葉に納得したように頷いている。
待って、どういうことなの!?
「おそらくだけど、さっき死神三傑が天井を壊したでしょ。多分その理由が、三傑が強いってだけじゃなくて、死神の鎌を使っていたから壊せたんじゃないかっていう仮説を立てたんじゃない?」
明里先輩が自信なさげながらも解説してくれた。
なるほど、死神の鎌か......完全に盲点だった。
そんな時、ちょうどよく?死神がやってきた。
さて、どうやって拘束しよう。やっぱり軽めの重力制御か。
私は死神を壁に貼り付ける。
「援護するのです。初級魔法、雷属性、雷鳴」
幽依先輩が軽い雷撃で死神を麻痺させている。
「これは~ま、か、せ、て!」
メロディー先輩が動けなくなった死神から鎌を奪い、杖の代わりに構える。試しと言わんばかりに、早速天井に鎌をぶつける。すると、わずかながらも土砂?が降ってきた。
効いてる。
天井にダメージが入っている。
「ユェンユェンナイス!」
私は思わず叫んだ。八方ふさがりで消耗戦をしていた私たちにとって、これは確かな希望だったのだ。
「思いっきり行くわよ!固有魔法!」
そう叫んだメロディー先輩が踊るように演奏し始めたのは聞いたことのない歌だった。おそらく、メロディー先輩のオリジナル。杖を持っていないのに、どこから音が鳴ってるのかすごく謎だけど。
「上級魔法、火属性、焼焔」
「超級魔法、雷属性、雷電轟撃」
明里先輩と幽依先輩がためらいなくメロディー先輩に魔法をぶつける。
どういうこと?
「......ありがと」
メロディー先輩がそう呟いて、2人の魔法を鎌の先端で受け止める。なるほど、魔法でさらに威力を高めているんだね。
私もなんか打とうかと思ったけど、干渉制御とか重力制御だと邪魔になる可能性もあるからやめておいた。
「......超級魔法、氷属性、絶対零度」
ユェンユェンもメロディー先輩に魔法を打っていた。私だけ何もできないのは歯がゆいが、邪魔になるよりはましなので我慢......
「リズミックジムナスティックス!!」
演奏が終わり、メロディー先輩が思いっきり鎌を振った。
みんな(私以外)の力の詰まった一撃。
その鎌は天井を貫いた。
その勢いで天井に大きな穴が開く。
ここからは私が、まず重力制御でさっき動けなくした死神を仕留める。それと同時にメロディー先輩が持っていた鎌も消えた。
そこからさらに重力制御で、重力を逆さまにする。ちょうどみんなが穴に入れるように。
みんなが穴を通ったことを確認次第、重力の向きを戻す。そのまま穴の中に落ちるほど、間抜けな人はここにはいな......
いた。
「あ......」
本当に間抜けに穴から落ちていった。誰が?私が。
もう一回重力制御をして何とか上に登る。開けた場所でよかった、狭い通路とかだったらまた落ちてたよ。
「......翡翠、ドジ?」
ユェンユェンに事実を突き付けられた。反論できない。
「階段なのです!」
現段階で、どれくらい上に上がれたのかは分からないけど、幽依先輩の言う通り、このあたりには階段がたくさんあった。パッと見でも3個はある。これなら登っていけそうだ。
「頑張りましょ!」
そういうメロディー先輩には疲労が見える。
でも、希望は見えた。行くしかない。
私たちはまた一歩、踏み出した。帰るために。




