信頼
「ユイッチ?」
私、小石明里は全力で走り続けた。ユェンユェンは誰のもとへ向かっているのかまでは言っていなかったけれど、直感的に分かった。
この先にいるのは幽依だ。
「固有魔法、無属性、超治癒回復」
疲れるけど、そんな自分の体も魔法で無理やり回復させて走り続ける。私は、あの子たちみたいに速くない。だから、休んでなんかいられない。
幽依……
ユェンユェンは言ってた、間に合わないかもって。認めない。
絶対。
だって幽依がいないと……寂しいじゃない。
不思議だった。
回復という特殊な能力を持つ私には、いろんな人が近づこうとしてきた。いつも暴れてばかりいる人とか、修行熱心な人とか、とにかくいろいろな人がいた。
みんな、自分の利益のために私の力を使おうとしていた。
別に、私にとっては怪我人の治療なんて苦でもないから、それらは断らずに請け負っていた。
みんな、私に回復以外の価値なんて求めていない。私はみんなにとってただの道具。そう思っていた。
だから、びっくりした。偶然見かけた怪我した子を治療したとき、言われた言葉に。
『本当にありがとうなのです。なにか、お礼をしたいのです』
お礼?
私はただ、傷を治すだけの道具として扱われていた。
そんな風に、扱われたことはなかった。なんだか、人間として扱われているような気がした。
『気にしないで、私は、傷を治す以外に価値なんてない存在だから』
それでも、心の底ではこう思っていたんだ。どうせこの子もみんなと同じ、私を道具として扱う人間。
『何を言ってるのですか?それならば強制的に……何をするべきなのでしょうか……?……決めました、私があなたの隣で戦うのです!』
その子は早口でしゃべった。
不思議な気持ち。なんだろう、これは。
『……うれしい』
今でも覚えている、私はそう言った。そう、嬉しかった。初めて人間として見てもらえた。
『決まりなのです。私は~三島幽依なのです』
その後、宣言通り、幽依は私のそばにいてくれた。戦ってくれた。だから私は幽依を完全に信頼している。
『アカリンがいるなら、安心なのです!』
柘榴神戦、あの時に幽依が言ってくれた言葉。激しい戦いの隅っこで一言。本当にみんなにとっては小さなことだろうけど、私にとっては大きな言葉だった。
幽依も私を信頼してくれていた。
ただ、嬉しかった。ようやく、信頼しあえる仲間ができた。
幽依のおかげで、ほかの仲間も増えたんだよ。
メロディもユェンユェンも、幽依が一緒にいようって誘ってくれて、私を人間にしてくれたからできた仲間。
みんながいる生活はとても、楽しかった。
「ユイッチ!!」
だから、私を助けてくれた幽依を。
絶対に死なせない。
「……アカリン?」
苦しい。痛い。体が重い。
久しぶりの感覚だったのです。
私、三島幽依は、今体が真っ二つになりかけてしまっているのです。
ここまで痛いのは久しぶりなのです。
日生蓮が強かったから?いいえ、違うのです。アカリンが今ここにいないからなのです。
『大丈夫?』
初めてアカリンと会った時、私は行き倒れていたのです。理由は足の怪我、歩けなくなっていたのです。
『これで大丈夫よ』
そこを助けてくれたのが、アカリンだったのです。すごくびっくりしたのですよ、そんな治療なんて素晴らしいことができる人がいるなんて知らなかったのですから。その上、こんなに素晴らしい人が、私なんかを助けてくれるほど優しかったのですから。
私は何かと目立つ存在だったのです。なんせ、制服の上に着物を羽織っているのですから。脱げばいいと思ったのですか?ダメなのです、なぜか落ち着かないのです。周りに奇人を見る目で見られることよりも、着物を脱ぐことの方が落ち着かないのです。
その上、それなりに魔法が出来てしまったから、周りからの印象は良くなかったのです。生意気な人間という風に見られたのかと思うのですが……
とにかく、私は嫌われ者だったのです。
そんな私に手を差し伸べてくれる人なんて、いなかったのです。
『痛くない?』
だから、アカリンに傷を治してもらった時、すぐに思ったのです。
お礼がしたい、と。
それで、ずっとアカリンのそばにいたのです。
だけど、これじゃお礼になってないのです。だって、私がアカリンと一緒にいたいだけ……
だから、まだ、お礼がちゃんとできていないのです。
初めて出会った時の分も、今まで何度も傷を治してくれた分も。
だんだん強くなって、留年生になって、周りは私より(個性が)強い人だらけになって、着物について何か言う人はもういないのですがね。
それでもやっぱり、私にとってアカリンは特別だったのです。アカリンのことなら、信頼できたのです。
だから、死ぬわけにはいかないのです。お礼をしなくては。
「ユイッチ!!」
なんか、アカリンの声が聞こえた気がしたのです。まずいですね、幻聴が聞こえるということは死期がせまっているということなのですか?
「……アカリン?」
でも、幻聴じゃないかもしれないのです。というか、幻聴じゃないことを祈りたいのです。だって、アカリンに会いたいのですから。
だから私は、アカリンの名前を呼びました。
その声は自分でもびっくりするほどかすれていたのです。




