強い敵②
「なかなかしぶといな」
私、星月夜翡翠は私なりの最速でここまで戻ってきたはずだった。
だけど、戦場にいたのは蓮とユェンユェンの2人だけ。幽依先輩、望初さん、メロディー先輩の三人がどうなったのかは考えたくもない。
「……?」
ユェンユェンは蓮の鎌を綺麗にいなしている。そして反撃に蓮を殴っている。
「攻撃の威力は弱いが……その身のこなしは、敵ながら見習いたいほどだ」
そう、蓮の言う通り、ユェンユェンが殴っても蓮には一切のダメージが入っていない。
「……何者?」
ユェンユェンが戦いながらも尋ねる。
「世界への反逆者の日生蓮、って言ったはずだが」
蓮は不思議そうに首を傾げながらユェンユェンと距離をとる。
「……ひなせ……じゃないの?」
ユェンユェンはその距離をどんどん詰めながら、話を続ける。
そういえば、何も考えずに、条件反射的な感じで、一応蓮への干渉は外したけど、めっちゃ干渉されてたよな。それなのに重力制御は効かないとか反則だよ……
「我は日生蓮、と言っているだろう?」
蓮は困惑しつつも答える。
「……?」
ユェンユェンはこれ以上何もしゃべらなかった。
「何なんだ、お前は!?」
蓮は鎌を振り回す。でも、ユェンユェンはそれを危なげなく捌き続ける。
「……ユェンユェン?」
ユェンユェンが名乗る。
「……っ!?」
すると蓮は驚いたようにユェンユェンから距離をとった。
「どうしてだ?知らないはずなのに何故か聞き覚えがある……」
蓮は動揺している様子だ。
「まあ、仲間を見捨てるほど薄情な集団ではないだろう。時間稼ぎにはなっただろうな、我は撤退する」
かと思えば、蓮がすごいスピードでどこかへ消えた。世界への反逆者は倒したいから追いかけたいところだが、蓮はそんなことを言えるような強さではなかった。
「……明里?望初と幽依とメロディー、やばい」
ユェンユェンが珍しく早口だ。
考えないようにしていたが、三人は重症のまま遠くへ吹き飛ばされている可能性が高い。
「……もしかしたら、全員は……間に合わな」
ユェンユェンが俯きがちに話しているのを明里先輩が遮る。
「間に合わせる!方角分かってる子はいる?」
明里先輩は必死だ。
「遠いのは誰?マヨタンが運ぶよ!」
そしていつのまにか珠夜さんが戻ってきている。
「私も運びます」
重力制御を使えばそれなりに速いはずだ。
「……明里はそっち、幽依、強かったから……一番近い。翡翠は向こうで……あっちは珠夜」
ユェンユェンが指示を出してくれる。その通りに私たちは動く。
「固有魔法、風属性、俊足」
珠夜さんは速いな。
私も……干渉制御で空気への干渉を外してから重力制御で一気に飛ぶ。明里先輩の周りに飛ぶハートを勝手に一個奪うことも忘れない。
そうして私たちは、それぞれ仲間の元へ向かった。
ユェンユェンはしばらくその場に立ち尽くしていた。
「……せ」
そして、何かを言っていた。
「……ひなせ、わたしのこと……わすれちゃった……?」
ユェンユェンの目からは涙が溢れる。
「……ひなせ……?」
さっきの戦いでの強さなど見る影もなく。
そこにいたのは、ただ悲しみに暮れる少女だった。
私、星月夜翡翠はとにかく全速力で移動していた。見えてきたのはやばそうなメロディー先輩。
明里先輩から奪ったハートをメロディー先輩にぶつける。
「あ……」
ぼんやりとしている様子だけど、メロディー先輩はちゃんと目を覚ました。よかった。
「翡翠ちゃん?世界への反逆者は……?」
意識がはっきりしてきたのか、メロディー先輩は忙しなく辺りを見渡す。
「撤退していきました。ユェンユェンがすごく強かったんです」
攻撃は弱かったらしいけど……
でも、魔法すら効かない蓮が言う、弱いの基準はよく分からないな。実は超強いかも。
「みんなと合流しましょう」
傷は治ったし、メロディー先輩も動けそうだから、全速力じゃなくていいはずだ。
メロディー先輩が頷いたので私たちは歩き出す。
みんな無事でいてね。
マヨタンはめっちゃ走った。
「固有魔法、風属性、俊足」
走った。
倒れたゾメッチがいた。
「ゾメッチ!?」
大丈夫かな?消えてないから生きてはいるけど。
「……ん、珠夜?」
ゾメッチがふらふらと立ち上がる。細かい傷はたくさんあるけど、大きな傷はない。
「ゾメッチは斬られてないの?」
そう、鎌でやられたような傷はないのだ。あるのは吹き飛ばされて落ちた時の切り傷のようなものばかり。
「ええ、自ら吹き飛んだもの」
?
「私、あの鎌くらいのダメージ負ったら、多分即死するから」
??
「これはあまり知られていない話だけど……身体狩りに体の一部が取られた人は、ダメージに弱い……つまり死にやすいのよ」
???
「あの日生蓮、私たちを殺すつもりはなさそうだったわ。わざわざ吹き飛ばさずに、その場で真っ二つにすれば良いだけだもの。ダメージをある程度負わせつつ遠くへ飛ばす。絶妙な角度で鎌を振ってきたわね」
????
「まあ、日生蓮の場合、鎌の切れ味が良すぎて、何を斬ったか分からないだろうけど」
?????
やばい、ゾメッチが喋れば喋るほど何言ってるか分からなくなっちゃってく。
素直に伝えるべきか?
「ゾメッチ。ごめん、分からない……」
ゾメッチが驚いたように目を見開いた。失望されちゃったかも……
「私、無意識に一方的に話し続けて……本当にごめんなさい、珠夜」
違った。ゾメッチが自分の口を押さえている。もしかして、ゾメッチは疲れてるのかも。
「ゾメッチ乗って、明里先輩のところまで運ぶよ!」
マヨタンはそう言いながらゾメッチに背中を向けた。
「いや、歩け……」
そう言って立ち上がりかけたゾメッチが膝をつく。マヨタンはゾメッチと地面の間にうまく滑り込んで強制的にゾメッチを背負った。
「たまにはマヨタンを頼ってね」
「そうね。珠夜、いつもありがとう」
そのままマヨタンはゆっくり歩いた。背中にいるゾメッチに負荷が掛からないように。
明里先輩が向かった方向に。




