仲間割れ
私、星月夜翡翠は、走る。死神山へ。
「絶対に大丈夫なのです!そもそも、行こうと言いだしたのはアカリンなのです!」
幽依先輩の怒声が響いた。怒っているような声音だけど、どこか優しい響きもあるのは、明里先輩に向けた言葉だからだろうか?
「だって、怖いです。あんなところに行くやつは全員狂っています。引き返しましょう。まだ間に合います」
明里先輩は怯えている。実は昔のトラウマがあるらしい。あんなに乗り気だったのに、怖気づいてしまったようだ。
「アカリンが私たちも狂ってると言うのです。酷いのです。メロディー、何か言ってやるのです」
幽依先輩がメロディー先輩に同意を求める。
「アカリン〜さ、い、て、い」
メロディー先輩はちょっとふざけたような悪戯っぽい感じで話す。
「そうなのです。アカリン最低です!」
幽依先輩がさらに勢いづく。
「なんかもめてるね」
珠夜さんが不思議そうに首を傾げている。
「そうね、留年生は仲が良かったイメージだけれど」
望初さんも同じように首を傾げている。珠夜さんと望初さんのしぐさがそろっていて、超仲よさそうに見えるな。
「アカリンもユイッチも〜さ、い、あ、く!!先輩は〜お、い、か、り!!!」
メロディー先輩まで怒りだしてしまった……
「だって、死神山なんて恐ろしすぎるでしょ」
すでに涙目の明里先輩。
「アカリンは死神山へ向かおうと積極的に主張していたのです。アカリンも狂ってる一人なのですね。ヤーイ!頭クルクルバカリンなのです!!」
幽依先輩の声にもう優しさはない。完全に煽っている。
「仲良くしてください!みなさん……」
私は思い切って声を出してみたが、効果はなさそうだ。
「幽依!もう一回言ってみて……」
その明里先輩の一言。それは、ひどく冷徹な声音だった。
「何度だって言ってやるのです!バカリンは頭クルクルなのです!!」
幽依先輩は明里先輩と対比するかのように熱くなっていく。
「言ったな!」
いや、明里先輩も熱くなってた。
「言ったのです!」
なんとなくまずい気がする。これもう止まらない。
「どうしよう……ゾメッチ?」
珠夜さんが狼狽える。
「……珠夜?ごめんなさいね、何かがおかしいと思って考えていて」
望初さんは何かを考え込んでいる。
「二人とも、喧嘩は〜や、め、る!固有魔法……無属性……『静かな湖畔』」
みんなものすごくヒートアップしてしまっている。メロディー先輩なんて魔法を詠唱し始めた。
「中級魔法、火属性、火炎弾!」
明里先輩は幽依先輩に向けて魔法を放つ。
「固有魔法、雷属性、巫女舞雷竜」
幽依先輩の両手には、お祓いに使うような棒が出現する。そして、全身からバチバチと電気が出始める。
まずい……
そして、静かな湖畔がBGMになっているのがものすごく合わない。
「やめてください!目的を思い出してください!」
勝敗は一瞬だった。幽依先輩の巫女舞雷龍が圧勝する。明里先輩に直撃する。まずい……巫女舞雷龍は幽依先輩の得意技、威力はかなり高い。
私はみんなから距離を取り、重力制御で。巫女舞雷龍を自分に引きつける。巫女舞雷竜から干渉を外すのも忘れない。
巫女舞雷龍は、私の体をすり抜けて、私の後ろの地面を砕く。私を中心として、クレーターができる。とんでもない威力だな。
「翡翠ちゃん!感謝します!固有魔法……」
なんか明里先輩が新たな魔法を詠唱し始めた。
「邪魔しないでなのです!!固有魔法……」
幽依先輩も……
「次は任せて!」
メロディー先輩!?
「無属性!超治癒回復!!」
「雷属性!巫女舞雷龍!!」
「リズミック・ジムナスティックス!」
3人が同時に魔法を放つ。
「大混乱だぁ」
珠夜さんが遠巻きにそれを見つめている。
「止められる気がしないわ」
望初さんは悔しげに俯く。
明里先輩は、回復で、ひたすら耐えるという戦法に切り替えたようだ。
「固有魔法!雷属性、巫女舞雷竜」
超治癒回復は一回6発ということで、幽依先輩は二体目の巫女舞雷龍を呼び出す。
しかし、雷の竜は明里先輩には衝突しなかった。メロディー先輩のリズミック・ジムナスティックス、それが魔法消滅させた。それが全ての魔法をかき消した。
「メロディーも翡翠も邪魔しないで!!!」
明里先輩は悲痛に叫ぶ。その表情を見ると哀れに思えてしまうが、仲間割れは止めなくてはいけないことだ。
一方、幽依先輩は私たちの邪魔など気にも止めずに、スピード重視で魔法を放つ。
「超級魔法!雷属性!!曇天唯光!!」
まずい……早い……止められない!明里先輩に真っ直ぐ魔法は向かっていく。
「……レンレンのまね?超級魔法?氷属性?絶対零度?」
何者かが放った絶対零度と曇天唯光が激突する。3秒ほど拮抗する。氷属性と雷属性は、有利不利は無いからね。
しかし、結果は曇天唯光がちょっと優勢。でも、その稼いだ3秒の間にみんな射程範囲外へ逃げていた。
って、ユェンユェン!?いつの間に!?
「……あかり?状態回復?みんなに魔法?かけて?」
ユェンユェンが明里先輩に指示を飛ばす。
「えぇ、うん?固有魔法……無属性……超治癒回復!」
困惑しつつも明里先輩がみんなに魔法をかける。幽依先輩にも。
すると、幽依先輩と明里先輩が冷静になってくる。
「アカリン、ごめんなさいなのです。いくらなんでも、暴力はダメだったのです」
幽依先輩が頭を下げる。
「ユイッチ、私もごめんなさい。ちょっと、いやかなり私おかしかった。それこそ、頭くるくるバカリンになってた……」
明里先輩もだ。
「そんな……頭くるくるバカリンなんてこの世に存在しないのです!言って悪かったのです……」
「そんなこと言ったら私だって、死神山怖いって、我儘を言い過ぎ……」
2人が互いに自分たちの非を主張し始めた。けど、そんなことをしている場合じゃない。
「二人とも〜そ、こ、ま、で……どうやら私たち〜ふ、こ、う……」
そう、メロディー先輩の言う通り。
「はい、そうですね」
私は同意を示しておく。
こっちの様子を見ている人がいた。




