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2つの世界を繋ぐ者  作者: きっこー
干渉制御
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壁の中の少女

「あぁ〜!」

 壁への干渉、はずしたままだったし!私、星月夜翡翠(ほしづくよ ひすい)は、壁にめり込む形で思いっきり転ぶ。

「「大丈夫!?」」

 珠夜(たまよ)さんと望初(のぞめ)さんの声が聞こえてきた。私は立ちあがろうと上を向いた。

「んっ!」

 すると柱があった。そして、そこには人がいた。あまりの驚愕に思わず声を上げてしまう。

 茶色の髪が腰よりちょっと上くらいまである人だった。目は閉じていて、両手を胸の前で揃えている。そして、全体的に茶色をベースにしたおしゃれな長袖ワンピースを着ている。萌え袖になっているところがすごく可愛い。そして、白いニーハイソックス、さらに黒いローファーとあわさり、お伽噺から飛び出した少女のような印象を受ける。その子は、透明な箱のような物に入っていて、箱ごと柱に鎖で縛り付けられている感じだ。

 そんな、どこか儚い少女。

 助けたい。

 そう思った。だから私は、迷わず鎖に触れた。

 私が触れると、鎖はあっさりと消滅した。そして、箱が眩しく光った。私は思わず瞳を閉じる。めっちゃ眩しい。太陽10秒直視なみだ。

 光が収まった。まぁセオリーというかそんな感じで、中にいた子が目の前に立っていた。その子の目が開く。綺麗に澄み渡った水色の瞳をしていた。私は挨拶してみる。

「こんにちは……いや、寝てたから……おはようございます?」

 あれは、寝てた、に入るのかな?

「……」

 その子は何も言わない。私は諦めたりしない!

「わ、私!星月夜 翡翠!よろしくね!」

 するとその子が、

「……秋月 子栗鼠(あきづき こりす)……よろ、し、く……」

 やったぁ!!名前を教えてくれた!私は興奮している。

「よろしくね!子栗鼠ちゃん!」

「よろしく……“翡翠“……」

 子栗鼠ちゃんが翡翠と言った時、何かが震えた気がした。私の身が危険を訴えた気がした。まぁ、そんなことないだろうし気にしない。

 そこに、望初さんの声が響いた。

「本当に大丈夫!?」

 なかなか戻らない私を心配してくれたのだ。場違いながら嬉しい。

 私は子栗鼠ちゃんに向かって左手を伸ばす。そして言う。

「行こう!」

 明るい声で言った。

 誰かの助けになれるのはうれしい。

 るるのように、誰にでも手を差し伸べたいな。

 子栗鼠ちゃんは右手で私の手を握り返してくれた。そして、壁を余裕ですり抜けた。手を繋いでいたから、子栗鼠ちゃんの壁への干渉も外れていたのだろう。なかなかすごい魔法だな

 二人で望初さんと珠夜さんのところへ戻る。

 私は二人に挨拶する。

「望初さん!珠夜さん!心配かけてすみません。この子は秋月 子栗鼠ちゃんです!壁の中にいました。新しい友達です!」

 私は、二人が喜んでくれると思った。二人とも、友達は大事にするタイプっぽいし。

 しかし、二人の反応は私の予想を裏切る。望初さんも、珠夜さんも怪訝な顔をした。望初さんが言った。

「その子……子栗鼠……大丈夫……?」

 珠夜さんも言う。

「子栗鼠ちゃんには失礼だけどさ……壁の中にいるって普通に怪しくない?昔に封印されたやばいやつだったりしない?」

 私は言い返そうとした。しかし、驚くべきことに、その前に子栗鼠ちゃんが口を開いた。

「す、すみ、ません……怪し、くてすみま、せん……で、でも……壁の中にい、た理由が自、分にも分から……なくて…………」

 今にも消え入りそうな声……風前の灯という言葉がよく似合う子栗鼠ちゃんだった。

 そんなに苦しめてしまったのか、と望初さんの表情に反省の色が浮かぶ。珠夜さんの表情は変わらない。

 望初さんが子栗鼠ちゃんに謝ってくれた。

「疑ってごめんなさい。悪かったわ。私は虹蝶 望初。よろしく」

 珠夜さんは望初さんを見て、ものすごく驚愕しているのがわかる。しかし、すぐに我を取り戻すと、珠夜さんも謝ってくれた。

「ごめんなさい。マヨタンは舞羽 珠夜(まいはね たまよ)。マヨタンって呼んで」

 子栗鼠ちゃんも望初さんと珠夜さんに焦っていたようだったが、落ち着きを取り戻していた?

「……秋、月 子栗、鼠……よ、ろしく……お願、い……し、ま、す」

 そんな感じで、子栗鼠ちゃんも無事?仲間になれた。めでたし、めで…………

「結局、あなたは、これからどうするの?」

 望初さんはそう言った!

 決めてなかったぁあ!!!!

 私は、子栗鼠ちゃんに聞いてみた。

「子栗鼠ちゃんはどうする?」

 子栗鼠ちゃんは明らかに決まっているようだった。そして、望初さんに向かって頭を下げていった。

「お、願い……しま、す……こ、ここ、に……いさ、せ、て!」

 望初さんは明らかに動揺して、子栗鼠ちゃんに聞いた。

「子栗鼠……あなたは……ここがどこなのか知っているかしら?」

 子栗鼠ちゃんは迷わず答える。

「ま……魔法屋、で、です……」

 その時、望初さんの紫紺の瞳が死神を見るときの冷めきった瞳になっていた。部屋の温度が5℃程下がったと錯覚した。いや、実際に下がったかもしれない。

 そして、望初さんは驚くほど冷たい声で言う。

「なんで知ってるの?」

 真顔なところがものすごく怖い……あっさりと子栗鼠ちゃんを受け入れたのは、鎌をかけるためだったのだ。鎌……って望初さんのほうが圧倒的に死神だわ!と思ったことは秘密で、す……よ……

 まぁでも、望初さんは子栗鼠ちゃんしかみていない。

 ともかく、子栗鼠ちゃんを助けなくては……でも望初さんが怖すぎる!珠夜さんまでも望初さんのあまりの怖さに震えている。

 子栗鼠ちゃんはかなり怯んでいるが、頑張って答える。

「あの……その……の……ぞ、め?さん……が……蝶の……虹の……頭に……髪飾り……店主……だと……思、い……まして……まし、た……」

 部屋の温度がさらに3℃も下がった。

「それだけで判断できるの?」

 子栗鼠ちゃんはかなり、かなり、物凄く怯んでいるが、めっちゃ頑張って答える。

「よ……予想……で……す」

 望初さんの反応は怖かったが、今の言葉で瞳の温度が元に戻った。部屋の気温はもどらないが……

「ここは魔法屋。危険なところ。気軽にきていい世界ではないの」

 子栗鼠ちゃんも望初さんの瞳の温度が戻ったことで、少し安心したように言った。

「わ、私……壁の中……にいる前……記憶……なくて……帰る場所……ないから……危険でも……ここしか……い、居場所が…………な、ないか……ら……」

 望初さんも子栗鼠ちゃんの意見を肯定してくれた。

「分かった。いいわよ。それに、あなたが死神でも、私がいる限り強制送還できるから」

 とか言う恐ろしい理由だった。つまり、子栗鼠ちゃんへの疑いは解けていなくて、子栗鼠ちゃんを見張るためにも、魔法屋店主である望初さんのそばの方がいいと言うことだ。断じて、子栗鼠ちゃんを信用したわけではなかったのだ。

 ここで、今まで黙っていた珠夜さんが口を開く。

「ゾメッチが一回、強制送還をかけてみればいいんじゃない?そしたらハッキリ!」

 確かに。ごもっともな意見だった。強制送還の説明は「死神及び死神見習いを強制的に死神山へ還す」だから、死神及び死神見習いでなければ、この魔法は効かないという事になる。面白いくらいに白黒ハッキリする魔法だ。

 なんでこんな完璧に説明文を覚えてるかって?それは、望初さんが使っていたからだ。強制送還と侵入不可領域の説明文は覚えているよ!

 望初さんは珠夜さんの意見を肯定した。

「そうね。珠夜のことがあって、死神への殺意が湧きまくりで、私冷静じゃなかったわ。確かに普通に考えてそうね。珠夜、名案ね。ありがとう……強制送還にそんな使い道があるとは、思いつかなかったわ」

 珠夜さんは望初さんに真っ直ぐお礼を言われて、少し照れている様子だ。

 そして、望初さんが詠唱した。

「固有魔法、魔法屋店主、強制送還!」


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