世界への反逆者③
私、星月夜翡翠は敵を見る。今は四人。これから増える可能性が高いけど。
桃乃、桃花、小狐丸鈴、ティアラ。
今更だけど、なんで小狐丸鈴を心の中でフルネームで呼んでるんだろう?狐っぽいからかな、まあいいや。
上から声がした。敵かと思ったら知っている声だった。
「アカリンだけじゃないのです」
さらに、幽依先輩も来てくれていた。
「ユイッチ来てくれたの?優しいね」
明里先輩が惜しげもなく幽依先輩をほめる。
「ちょっとうるさいものを止めに来ただけなのですが」
幽依先輩は早口でまくしたてる。
「すぐに終わらせるのです。合わせてほしいのです」
どういうことだ?
「結界に雷を付与したい感じよ」
明里先輩が横から補足してくれる。なるほど、なら私がやるのは結界奥義だ。
「超級魔法、雷属性、雷電轟撃!」
幽依先輩の魔法に合わせて結界を張る。雷の結界が完成した。
「澄も援護するんだよ。超級魔法、水属性、蒼海乱舞!」
結界内にある雷が水へと流れていく。そうして雷を纏った荒波が敵へ押し寄せていく。敵は回避を試みているが、しぶきに触れただけでも電撃が流れるので、大変そうだ。ちゃんとダメージが入ってるっぽい。
「固有魔法、雷属性、巫女舞雷竜」
幽依先輩が追い打ちに魔法をぶつける。なんだろう、結界で雷が強化されてるのか、前に見た時の数倍の威力がある気がする。
敵はしびれている。これならすぐに倒せそう。
「リバース!」
そういえばそうだった、ティアラは傷を他の人に移せるんだ。
「固有魔法、無属性、超治癒回復」
ユェンユェンに傷が移されたが、明里先輩が即座に回復し、幽依先輩が再びダメージを与える。
「僕、突っ込んでもいい?」
ツェンツェンが明里先輩に尋ねる。明里先輩は力強く頷いた。
「えいっ!」
ツェンツェンが突っ込み、敵を蹴散らす、物理的に。その中でもティアラを重点的に狙っているようだ。
「なんかやだぁ、超級魔法、草属性、森羅万象」
桃乃が魔法を打つが、ツェンツェンは吹き飛ばない。強いんだなツェンツェンって。
「固有魔法、無属性、超治癒回復」
ダメージは明里先輩が即座に回復させる。
私は結界に力をこめる。すると、幽依先輩の魔法がどんどん強化されていく感じがした。結界奥義ってこういう使い方もあったんだ。
「なんで追い詰められるのぉ」
桃乃が魔法で澄ちゃんが放った水流を弾き飛ばすが、防ぎきれない。そして、幽依先輩の魔法が追い打ちをかける。
「コンは逃げるコン。これは厳しすぎるコン」
そう言った小狐丸鈴はどこかへ逃げていく。
逃がさない。
私は結界を維持したまま追いかける。ユェンユェンが私についてきてくれる。
「待て!」
私は小狐丸鈴の前に立つ。進路を妨げるように。干渉制御を空気に使ったら速く走れたよ。
「うるさいコン」
小狐丸鈴はそんな私の横を強引にすり抜けようとする。
「結界奥義!」
二枚一気に結界を張ったことなんてないから大丈夫か心配だけど、小狐丸鈴をまた真っ二つにするような形で結界を張る。
今度はジャンプで簡単に避けられてしまった。やっぱり重力制御で相手の位置を固定してからやらないと、焦っちゃったな。
その結界はもう意味ないと思っていた。事実、小狐丸鈴はその結界の上に立っている、攻撃することは不可能。
だがその結界はさらに伸びて、桃乃の方へ向かう。
「くらえ!」
ツェンツェンがそれに合わせて、桃乃を突き飛ばす。攻撃できそう。
私は桃乃に向けて結界を張る。
「まずっ!?」
これで!
「……!?」
だけど、結界によって真っ二つになったのは桃乃じゃなかった。
「お姉さま……?」
打ち所が悪かったのだろうか、桃花の体が少しずつ消えていく。
「お姉さま!?」
桃乃が桃花を起こそうと必死に肩を揺さぶる。
「リバ……」
「させないんだよ!水球」
「ごふっ……!?」
傷を移そうとしていたティアラの口を澄ちゃんが水でふさぐ。
「いやぁ!!!!」
桃乃が叫ぶ。でも、桃花は消えていく。
「……」
そんな桃乃に消えかけの桃花はそっと手を伸ばす。そして、頭をなでた。
「あ……」
桃乃の叫びは止まり、桃花は消えた。
「……」
桃乃が黙ったまま立ち上がる。そのまま制服っぽい服についていたネクタイを外し、それを使って髪を一本に束ねる。その姿は桃花と瓜二つ。
「……必ず、殺しに来るからねぇ」
桃乃はそう言って撤退していった。ティアラもそれについていった。小狐丸鈴は既にいなくなっていた。
「これは、勝ったとみなしていいのですか?」
幽依先輩が首を傾げる。
「よっしゃ!」
ツェンツェンが思いっきりガッツポーズをする。
「一応……」
明里先輩は遠慮がちだが肯定する。
確かに、敵を撤退させた。銉ちゃんの敵である敵の仲間を1人倒した。
これが望んだ結果、そうだったはず。世界への反逆者を倒す、それが目的だった。そのためにるるに結界奥義の魔法をもらった。
なのに、なんでこんなに心が重いの?
桃乃の叫び声が、殺しに来るという言葉が頭の中を反芻する。
桃乃の状況は私と同じ。大切な人を失って怒りに燃えている状態。
「ヒッちゃん……澄もなんかすっきりしないんだよ」
澄ちゃんも同じこと、悩んでいたのかな。そう思った。
だけど、次の一言に背筋が凍った。
「小狐丸鈴、殺せなかったんだよ!」
そう、澄ちゃんは既に、我を失っている。銉ちゃんの死を乗り越えて前を向いたように見えても、本当はもう頭の中にはそれしかない。
「……翡翠、もう、澄は……何も見えてない、敵の感情……見ようとしてすら、ない?」
ユェンユェンが俯く。
澄ちゃんに関しても、桃乃に関しても、なんだか不安要素が多いな。
ねえ、みんな?これで……これで、良かったのかな?




