出撃
「ちょっと、なんで栄華に許可出してんのよ!」
天花は遡楽に文句を言う。たしかに、栄華の魔法に最も巻き込まれそうだったのは天花だ。
「……」
遡楽は何も反論できずに視線を逸らす。幼女な見た目ゆえにその姿は自然と周囲の同情を促すが、ここにいるのはその見た目に慣れたものばかり。だれも幼女な見た目など気にしない。
「うちが悪いんや。いつまでも魔法を制御できへんから」
栄華が遡楽をかばう様に立つ。
「栄華さん自身、自制していただけると……」
結空が小声でありながらも鋭い指摘をする。
「ごめん、なさい。結界奥義と次元斬はどっちが強いのか気になって……」
遡楽が一歩前に出て、頭を下げる。
「確かにな、次元斬の圧勝だったけど」
炎帝が納得したようにうなずいている。
「当たり前なの~。結界奥義は空間を結界で仕切っているだけだから、空間を次元ごと引き裂く、とかよく分からないことをやっている次元斬に勝てるわけないの~。干渉も外してたっぽいし、防げるものも防げないね~」
繭羽が解説をする。
「なるほど」
遡楽が興味津々な様子で目を輝かせる。それはまるで本物の子供みたいだった。
「で、そろそろ翡翠を起こすべきかと思うぞ」
炎帝が墜落したまま気絶している翡翠に目を向ける。
「そうだね~。完全無詠唱も習得したし、十分な成果だったかな~」
繭羽は訓練の成果に満足げだが、翡翠を起こしに行く様子はない。
「繭羽、おこしたれ。その子の先生やろ?」
栄華が繭羽に翡翠を起こしに行くよう促すが、繭羽は微動だにしない。
「天花様が起こしてあげるわよ」
すると、天花が翡翠のもとへ向かった。
「起きなさい、天花様を訓練につき合わせておいて気絶なんて認められないのよ!」
天花は大声を出すが、翡翠が目覚める様子はない。
「粉雪!」
しびれを切らしたのか、天花は氷属性の初級魔法を翡翠にぶつける。しかし、干渉が外れた状態の翡翠にとって、初級魔法はほぼ無効だ。
「絶対零度」
そんな翡翠に天花は容赦なく超級魔法を浴びせる。
私、星月夜翡翠はぼんやりとしていた。何があったんだっけ。
「絶対零度」
天花様の声が聞こえた気がした。そしてなんか超寒い。
意識がはっきりとしてくる。
そうだ、魔法屋店主たちと訓練してて、栄華さんの魔法を避けたら次が避けられなくて……
「早く起きなさい、天花様が待っているのよ」
そうだね、起きなきゃ。
「はい」
私は返事をする。
「完全無詠唱、すごかったの~」
目が覚めるなり、繭羽先生がほめてくれる。うれしいな。
「おめでと」
炎帝さんが拍手してくれている。
「ふん、祝ってあげなくもないけど」
天花様がそっぽを向いてしまった。どうしたんだろう。
「ありがとうございます。とても有意義な時間でした」
三人にお礼を言う。本当は結空さんとか栄華さんとか遡楽さんにも言いたいんだけど、いつの間にかみんないなくなっていた。結空さんがいるとテレポート的なことできるからな。
「目的は達成できたかな~?」
繭羽先生の言葉に私は頷く。
「で、どこから戦いに行くんだ?」
炎帝さんが興味深げに尋ねてくる。
「世界への反逆者を倒したいんです」
私は決意を話す。だって、いくら前を向けたとはいえ、銉ちゃんのことは忘れてなんかいない。絶対敵をとってやるという気持ちは今でも私の中で激しく燃えている。
「そうだね~、それなら向こうから接触してくるだろうし、今のあなたならある程度戦えるから、援護が来るまでの時間稼ぎくらいはできるだろうし~」
時間稼ぎ……
まあ、正しい。多少強くなったとはいえ、私なんてまだまだ。
やられないように堅実に戦わないと。
「誰か仲間はいないの~?」
そっか、協力するっていう手もあるんだね。
珠夜さんは魔法屋で望初さんと一緒に死神と戦っていたし、声はかけられないな。
留年生の三人は普段どこにいるのかいまいち分からないんだよな。
だとすると……
私は部屋へ戻った。
「澄ちゃん、ユェンユェン。一緒に世界への反逆者と戦ってほしい」
私は2人にお願いした。
「勿論なんだよ!リッちゃんの敵は必ず取るんだよ!」
澄ちゃんは二つ返事で了解してくれた。
「……いいよ?」
ユェンユェンも頷いてくれる。ユェンユェンの戦闘能力とかは、いまいち分かってないけど、なんか今までの様子を見る限り強そう。
「ツェンツェン……呼ぶ?」
ユェンユェンの言葉に私は頷く。いるに越したことはないよね。ツェンツェンがいればユェンユェンの戦い方とか教えてもらえるかもしれないし。
「よう!僕はツェンツェン!」
突然、勢いよく扉が開けられる。もしかしてユェンユェンはツェンツェンのことを既に呼んでくれていたのかな。ユェンユェンって未来見えてるの?
「よろしくお願いします!」
確か、ツェンツェンは近接戦をしていた気がする。死神山で戦っているところを見た。
「いくんだよ!」
なんか、澄ちゃんが部屋を飛び出して行ってしまった。
「待って!」
私は慌てて追いかける。
「……眠い」
ユェンユェンが不穏なことを言いつつも付いてくる。
「あ、長姉!」
ツェンツェンが慌てたようにユェンユェンの後ろへ。
私たちが向かうのは銉ちゃんと氷川愛洲が世界への反逆者と戦った場所。なんとなく、そこなら世界への反逆者に会えそうな気がしたから。




