蜃気楼に囚われて
眠たいな。私の名前は小狐丸銉。狐の耳を持つ希望学校の生徒。
今日は部屋が一緒の翡翠ちゃんと一緒に教室へ向かう。
「翡翠ちゃん……」
なんか、今日は翡翠ちゃんに無視されるの。どうしてだろう。
「今日も、私は繭羽先生となにかするのかな……?」
それから、翡翠ちゃんが虚空に向かって話しかけている。何かがおかしい。
そして、私は感じた。翡翠ちゃんは幻影を見せられている。
でも、翡翠ちゃんは人間界の存在。こんな強い幻影、直接見せることなんて不可能だ。だからおそらく、世界自体を幻で包み込んでいる。凄い強いタイプの幻影だ。
私は幻影使いだからか、その魔法が効いていないというだけな気がする。翡翠ちゃんには何が見えているんだろう。
世界自体をいじるなんて、相当強い相手だ。私が下手に刺激しても、勝てないうえ、翡翠ちゃんに危害が及ぶ可能性がある。誰か、呼ばないと。
すぐ呼べる人で、強い人。
一人、思い当たった。
「愛洲?」
私はダッシュで教室に向かった。速めの到着。
教室には一人、黙々と鍛錬に励む生徒がいる。
「銉じゃん?どうした、慌ててるね」
愛洲が不思議そうに言葉を返してくれる。
「とりあえず、来て!」
時間がない。翡翠ちゃんが何をされるか分からない。
愛洲は首を傾げる。
「翡翠ちゃんが幻を見てる、狙われている可能性が高い」
私がそういうと、愛洲は何も言わずに付いてきてくれた。
「それはまずい、全身全霊をかけて協力するよ」
良かった。頼もしい仲間ができた。
愛洲は力を封印されたうえ、性格を捻じ曲げられていた。よく分からないけど、世界への反逆者とかいう組織の仕業らしい。
本当は魔法名をいうだけで超級魔法が使える強い人だし、めっちゃ優しいし、今は仲良しである。
愛洲は本当に強いから頼もしい。魔法の連射速度が半端ない。
翡翠ちゃんのところへたどり着いた。翡翠ちゃんは何かの魔法に襲われていた。まずい、助けなきゃ。
「固有魔法、火属性、幻想出現」
翡翠ちゃんとすれ違う様に私は進む。
私の固有魔法で全方位に針を飛ばす。この針を通じて幻を見せるのが私の魔法。翡翠ちゃんを巻き込む軌道だけど、翡翠ちゃんなら大丈夫なはずだ。魔法は当たらない。
愛洲には当たらないように軌道を逸らす。
刺さった。二人いる。
これで敵の位置も数も分かる、便利な魔法。
翡翠ちゃんが頑張って走っている。だから、本当の翡翠ちゃんと間逆の方向へ走っていく翡翠ちゃんの幻を敵に見せた。
すると、翡翠ちゃんを狙っていた魔法が変なところに飛んで行った。
大丈夫そうだ。ここから私たちも逃げれば完ぺ……
「愚行だコン」
その考えは甘かった。
いつの間にか私の後ろに誰かいる。
「絶対零度」
愛洲が魔法を放つ。氷属性の超級魔法。
「速いコン!?」
敵が一旦下がる。
そうすると、姿がよく見えてくる。
私と同じ、狐の耳を持っていた。濡羽色の髪、銀朱の目、それらは私と同じだった。
着ているのは魔法学校のものでも希望学校のものでもない制服。半袖にベスト、ネクタイにスカートといった装いだ。
「そこの子、コンと似ているコンね?」
コンコン言ってていまいち聞き取れないが、相手も私と同じことを考えているようだ。
「死に別れの姉妹とか?」
死に別れとは、霊界では人間界での記憶を失っている故に、お互いを血縁者として認識していないが、人間界では血のつながりがある人のことだ。
つまり、人間界での血縁者に他人として出会った状況だ。
「あり得るコン!コンは小狐丸鈴だコン」
小狐丸、名字まで私と同じ……使う魔法も似ているし、これはほぼ確定で死に別れの姉妹だな。
「私は小狐丸銉。こんにちは」
とりあえず挨拶しておく?
「そんなことをしている場合じゃ……」
どこからか声がした。見上げると、上の建物にも人が一人いた。ぼんやりとしか姿が見えないけど、おそらくもう一人の敵だ。
その上にいた敵が降りてきた。
「三島幽依ですのです?のですってなんだ?」
その人には見覚えがあった。確か、希望学校の留年生。巫女舞雷竜とかいう超凄い魔法を使う人。
だけど、言葉がおぼつかないというか、なんていうんだろう。様子が変だ。
「三島幽依がどうして……」
愛洲は納得がいかない様子で考え込む。
「愛洲、もう、やるしかない」
愛洲は黙って頷いてくれた。
「分かった任せろ、絶対零度、絶対零度、絶対零度!」
愛洲が魔法を連射する。
「固有魔法、雷属性、巫女舞雷竜」
雷の竜が飛んでくるが、一発目で軌道をそらし、二発目でその竜を足止めし、三発目を三島幽依に直撃させた。
「こんなに制御下手だったか?」
愛洲が不思議そうにつぶやく。愛洲の知っている三島幽依はもっと強いのかもしれない。やっぱりこの人……
「がっ!?」
氷が直撃した三島幽依の姿が突然変わった。
小狐丸鈴と同じ制服を着た少女だった。黒い髪をポニーテールにした黒い目の少女。
「解けているコン……」
呆れた目で元三島幽依を見つめる小狐丸鈴。
「うう、まだまだだから。固有魔法、無属性、模擬化け」
また少女の姿が変わる。また、見たことがある人物。
「えっと……まよ、たん?は舞羽珠夜……」
確か、澄の友達。翡翠ちゃんとも知り合いだったっけ。
ただ、これはまずい。舞羽珠夜は火属性が使えたはずだ。愛洲の氷属性じゃ相性が悪い。
「固有魔法、火属性、幻想出現」
針を飛ばす。何とか刺さった。
「絶対零度、絶対零度、絶対零度、絶対零度……」
愛洲が魔法を打ちまくる。そう、連射速度なら絶対に負けない。
「超級魔法、火属性、灼熱絶火!」
偽舞羽珠夜とでも呼ぶか。偽舞羽珠夜があらぬ方向に魔法を飛ばす。具体的には小狐丸鈴がいる方向。うん、ちゃんと私の魔法が効いてるね。
「無能、もういいコン。固有魔法、火属性、蜃気楼・炙」
小狐丸鈴が詠唱したその瞬間、肌を炙り、焼き尽くすような熱波が押し寄せてきた。
「絶対零度!」
愛洲の魔法が発動した瞬間に溶かされてしまう。これじゃ、連射も何も意味がない。
「固有魔法、火属性、幻想出現」
私も魔法を打ってみたけど、私の針も溶かされてしまう。これじゃ、体を焼き尽くされるのも時間の問題だ。
「銉、こっち来て!絶対零度、絶対零度!」
愛洲が冷やしてくれるが、焼け石に水。
あつい。
あっついよ。
頭、とけちゃう……
「銉……」
愛洲が私を抱きしめる。
「絶対零度、絶対零度」
そのまま魔法を打ってくれる。必死で守ろうとしてくれているのが伝わる。
「愛洲、私はいいから……」
その手を振り払いたいが、あいにくもう力は出ない。
「絶対零度……いいんだ、翡翠は逃がせたから、私はもう。でも、銉は……なんとか……」
そっか、愛洲は諦めちゃったんだ。
「愛洲を置いていくのは、無理かな」
私は愛洲を抱きしめ返した。
「そっか……」
愛洲がさらに強く抱きしめる。
私たち、変だよね。抱きしめたらさらにあつくなっちゃうのに。
「「ごめんね、ありがとう」」
これはどっちのことばだろう?もう、認識ができない。
二人で一緒に呟いた言葉、なのかな?
今、霊界から二つの魂が消え去った。




