休憩中にて
「ほんまに助かるねん、少し休みなはれ。向こうに幽依や明里がいやはるよ」
私、星月夜翡翠は、しばらく瓦礫を運びまくっていたら、栄華さんにそう言われた。
修復作業は遡楽さんと結空さんの力で無茶?したりしないんだね、ちょっと安心。
「はい、ありがとうございます」
そこまで疲れてはいないけど、ありがたく休ませてもらおう。
そういえば、人間界にみんな置いてきちゃった。大丈夫かな?
次いつ人間界に行くことになるのか分からないけど、もしみんなに会ったらちゃんと謝ろう。
「こんにちは」
なんとなく、幽依先輩と明里先輩に声をかけてみる。
「久しぶりに顔を見せたのです。ずっと倒れてたのは大丈夫なのですか?」
幽依先輩が気遣う様な視線を向けてくれる。ちょっと仲良くなれた……?
いや、そこじゃない。私、そんなずっと倒れてたの!?
「一週間くらい倒れてた上に結空さんが座標が安定しないって言って慌ててたから……」
一週間!?結空さん大丈夫だったかな……
「店主の間には遡楽がいるから時間がねじ曲がっているのです。結空の体感時間的には数時間なのです」
数時間でもきつそう。
って、私の思考が完全に二人に読まれてるな。
二人はすごいんだな。
「無事で何より、先輩は~う、れ、し、い!」
いつの間にかメロディー先輩も近くにいた。
「ロディーちゃん!」
「ひゃっ!?」
だけどメロディー先輩は魔法屋店主さんに後ろから抱き着かれてそのままどこかへ連れていかれてしまった。
「あれが虹蝶炎帝さんなのです」
幽依先輩は呆れ気味な表情で連れていかれるメロディー先輩を見つめている。
メロディー先輩もなかなか大変そうだな。
「聞きたいことがあったのです」
幽依先輩がそう言うと、明里先輩が私に手招きをする。
二人に促されるまま歩いていくと、テントにたどり着いた。
「負傷者の治療用の場所だよ」
明里先輩がそう言いながらテントの中へ入っていく。
「この子を知っているかという問いなのです
幽依先輩が指さしたのは倒れている人。
長い青い髪を右側でお団子にしている人。幽霊が着てそうな服の紺色バージョンを着ている。
見覚えはない。
「知らない人です」
私は素直に質問に答える。
「そうなのですか。誰もこの子のことを知らないので、人間界から巻き込まれてきた可能性もあると思ったのですが……」
幽依先輩は不思議そうに考え込む。
誰にも知られていない人、か。死神とかじゃないといいけど。
「うん、魔法学校の子なら制服着てるはずだし、そもそもさっき闇空帆傘を呼んだし」
明里先輩も考え込む。闇空帆傘が誰なんだか全く分からないが、多分魔法学校の人なんだろう。
改めてその子のことを見る。不思議な雰囲気だな。親近感がわくような。
「……?」
ふとその子をもう一度見ると、目が空いていた。淡い黄色の目がぼんやりと辺りを見渡している。
「こんにちはなのです」
幽依先輩がすかさず声をかける。
「……こんにちは?」
その子はふらふらしながらも起き上がる。
明里先輩がその子を支えようかと手を伸ばすが、その子は立ち上がれたので、手のやり場がなくなりあたふたしている。
「名前はなんと言うのですか?」
幽依先輩が淡々と話しかける。これは、相手を疑っている表情かもしれない。
「……ユェンユェン?」
その子、ユェンユェンはぼんやりとした様子で呟く。
「分かったのです。ユェンユェン、あなたは何者なのですか?」
幽依先輩がさらなる質問を飛ばす。
ユェンユェンは黙ったまま首を傾げた。
その様子に、明里先輩と幽依先輩が身構える。
「ちょっと待ってください!」
私は思わず間に入っていた。なんだかユェンユェンには親近感を感じるのだ。ユェンユェンが敵であるとはとても思えない。
「記憶は、ある?」
私はユェンユェンに話しかける。
「……ある?」
ユェンユェンがそっと答えてくれる。
「教えてもらってもいい?」
きっと、それで疑いは晴れるはず。
「妹達と一緒に、霊界、来た?一人は、魔法学校、行った?もう一人は死神山ではぐれた?探してた?でも諦めた……」
幽依先輩の表情が変わる。明里先輩もそうだ。
「妹がいるのですか?それはもしかして、レンレンという名前なのですか?」
ユェンユェンがその言葉を聞いて目を見開く。
「……ん」
そして静かに頷いた。
レンレンって誰だろう。
「魔法学校の生徒会……偉い人だよ」
明里先輩が教えてくれた。
「なんか、闇空帆傘が言っていたのです。レンレンと似てるって」
幽依先輩が納得したように頷く。
よく分からないけど、疑いは晴れたのかな?
「強い死神と会ったの?」
私は聞いてみた。
「……ん。三傑の一人?だった」
やばいやつですやん。身体狩りよりはやばくないのかもしれないけどさ。
「妹は、無事?」
恐る恐る聞いてみた。
「……レンレンは、多分?もう一人は、不安?」
やばいな。
「幽依先輩、明里先輩!助けに行きたいです」
私は身を乗り出していた。やっぱり、放っておけない。
「三傑は強いのです。私も戦ったことはないので正確には分からないのですが……」
幽依先輩が悔しそうに呟く。
「簡単に倒せる相手じゃないわ」
明里先輩も簡単には頷いてくれなさそう。
「……秋月子栗鼠?」
ユェンユェンが何か呟いた。その言葉に私は耳を疑った。
「子栗鼠ちゃん!?」
私は思わずユェンユェンに向かって叫んでいた。ユェンユェンの肩が跳ねる。驚かせてしまったようだ。
「……」
ユェンユェンは何も言ってくれない。体が震えている。本当にごめんって感じだ。
とにかく、これは珠夜さんへ報告だ。珠夜さんは子栗鼠ちゃんのことを探して他っぽいし。
「ありがとう!」
私はそう言って、テントを抜け出す。
「待つのです!」
幽依先輩の静止は振り切った。
子栗鼠ちゃんも、ユェンユェンの妹も心配だったから。
「珠夜さん!子栗鼠ちゃんの話聞けました」
呪莉さんと話し終わったのか、ぼんやりと噴水広場を歩いていた珠夜さんに声をかける。
「え、本当に!?」
珠夜さんは驚いたように、だけど嬉しそうに反応してくれる。
「はい、でも、死神山で三傑と戦った人、ユェンユェンが、子栗鼠ちゃんの名前を言っていて……」
珠夜さんが神妙な顔になる。
「それは、早く助けに行かないと」
私はその言葉に頷く。
「行きましょう!」
私と珠夜さんは駆け出していた。子栗鼠ちゃんを見つけてさっさと逃げればいいだろう、という甘い考えで。




