人間界での戦い
敵の動きは速いが、認識できない程ではない。
「重力制御」
一旦私、星月夜翡翠は魔法を放つ。敵にかかる重力を強くする。
その魔法が効いたのか、敵の動きが鈍る。
でも、速い。
「きゃっ!」
敵が石を拾って投げてきた。その石がるるの顔のすぐ横を通り過ぎる。
「……!?」
石がたくさん飛ばされる。夢叶さんも当たりそうだった。
どこから拾ってきたんだよ。ここの地面はアスファルトだから石は落ちてないんだけど。
つまり、石はいつか尽きるってことだよね。だって、この辺に石落ちてないもん。
それまでの辛抱だ。
「……軌道、予測。るる、一歩右へ。光輝は左。翡翠、私たちは気にするな、2人は私が守る」
夢叶さんの言った通りに2人は動き、石を回避する。
そういう頭の戦いもあるんだ、かっこいい。
とりあえず、敵に集中しよう。
あ、敵の速さが元に戻っている。重力制御って解けちゃうのかな?
「干渉制御」
私は敵に真っすぐ突っ込みながら詠唱する。めり込めないか試すのだ。
石は無視だ。痛いけど。
敵への干渉を外した。
だが、私の手は敵に触れた。駄目だ、干渉を外せていない。相手が人間界に干渉しているんだ。
私は慌てて後ろへ下がる。
強引に真っすぐ突っ込んだから、体のあちこちに石が当たって結構痛い。
どうすれば……
「重力制御!」
私の武器はもうこれしかない。とりあえず意味もなく敵に魔法をかける。
『射撃』
操乗ちゃんが網を打っているが、避けられてしまっている。
打つ手なし。
「夢叶、さん。るるは、魔法使えないの?」
るるは、翡翠ちゃんを見ていた。石をぶつけられながらも懸命に敵を倒そうとする姿を。いてもたってもいられなかった。るるはただ、ここで何もできずに石を避けているだけ。役立たず。
「……使える可能性は十分にある。ただ、魔法に目覚める条件が完全に不明。光輝、左へ」
夢叶さんもきつそうだ。可能性はあるらしいし、何とかならないか。
それに、操乗ちゃんの網の弾もいつかなくなるし。
というか、ここはアスファルトなのに、周りに石は落ちていないのにどうしてこんなに飛んでくるの?
なにか、なにかできないの?
翡翠ちゃんの絶望の表情が見ていてつらいよ。打つ手なしって顔に思いっきり書いてある。
「なにか、るるにできることはない?」
どうにかしたいよ。
「……右へ3歩」
「死なないでくださいませ」
やっぱり、るるは無能? いや、やるしかない。夢叶さんから聞いた魔法の存在。魔法、面白そうだから、覚えてるよ。名前も含めてね。
「初級魔法、火属性、火球!」
出ない。そもそも、私は魔法を使えるのかな。
「……私もやってみよう。初級魔法、水属性、水球!」
夢叶さんも詠唱をする。でも、魔法は出ない。
「初級魔法、雷属性、雷鳴でございますわ!」
天宮さん……
「初級魔法、風属性、追風!」
別のも詠唱してみたけど、出ないな。
『初級魔法、氷属性、粉雪!』
操乗さん……みんな、希望にすがっているのか。相変わらず魔法は出ない。
「初級魔法、草属性、葉弾!」
翡翠ちゃんでも魔法は出ない。
「初級魔法、無属性、攻撃!!」
最後の魔法を詠唱してみた。でも、出なかった。 やっぱり、るるが魔法を使うしかない。 どうしたらそんなことができるのだろうか。 そもそも、るるは本当に魔法を使えるの? いや、るるがやるしかない。
目を閉じる。
そっと瞼の裏を見つめる。 瞼の奥に浮かぶもの。
張れ。
?
結界を。
よく分からないけどやるしかない。
「固有魔法、翡翠神、結界奥義!」
魔法は、出た。 るる達の目の前に結界が張られる。
え、これだけ? ねえ!?
翡翠神の魔法だよ、強いんじゃないの?
「……横向きに使え」
夢叶さんが後ろから声をかけてくれる。 横向き?あ、そういうことか、結界で敵を斬ればいいんだね。
「固有魔法、翡翠神、結界奥義」
今度はすんなりと出てくる魔法。 ちゃんと向きを変えた。 結界が空間を斬りながら広がっていく。
「えっ!?」
翡翠ちゃんがその場でしゃがんで紙一重で結界を避ける。
『回避不可!?』
操乗さんのロボットの一部を斬り落としてしまった。本当にごめん、るるが未熟すぎた。
でも、その結界は敵を真っ二つにした。
打つ手なし。
そう思っていたら、みんなが初級魔法の詠唱を始めた。
なんか、私が珠夜さんに向かって必死に何かできないか足掻いた時みたいで、不思議な感覚だった。これがデジャヴってやつ?
私も一個詠唱しといたけど、私の魔法は出なかった。
全部の魔法を詠唱しきって、今度こそ打つ手なしかと思ってたらなにか後ろから凄まじい気配がした。
「固有魔法、翡翠神、結界奥義」
るるの声がした。
慌ててしゃがんで避けたけど、なんだろうこれ。
それは敵を真っ二つにした。
やった?
しかし、そこまで甘くはなかった。相手がくっついたのだ。斬ったはずなのに。
「これは、厳しいですわね」
天宮さんが虚ろな目で呟く。だいぶ疲弊してしまっているようだ。
「……翡翠神の魔法は多分、組み合わせてこそ本領を発揮する」
夢叶さんがそんな天宮さんを支えながら言う。
組み合わせるのか?
「るる!」
「翡翠ちゃん」
私はるるに向かって手を伸ばす。
るるも私に向かって手を伸ばす。
「重力制御!」
「固有魔法、翡翠神、結界奥義!」
私たちの魔法が発動する。
この辺りを囲むように、結界が張られる。
敵にのみ重力をかける、私たちに有利な場所となる。
「これが、組み合わせ……」
私はぼんやりと呟いていた。そういえば、霊界でもこれをやっている人はいなかったな。
敵の動きが目に見えて鈍る。
これで、敵に重力がかかり続けるから、魔法が解けてしまうこともない。




