過去の記憶
これは、過去編のようなものです。続きではありません。
死神狩り。
そう呼ばれるイベントが希望学校にはある。簡単に言うと、希望学校の優秀な生徒が死神を倒しに行く遠征だ。
露希望初、舞羽珠夜はそのイベントの参加者だった。
露希望初は、綺麗に切りそろえられた白銀色の長い髪、輝く紫紺の目を持つ少女。後に魔法屋店主となり、虹蝶望初と名乗るようになる少女だ。
舞羽珠夜は、赤い髪を高い位置でツインテールにしている、橙色の目を持つ少女。
「ゾメッチ、緊張するね。ガチガチなマヨタンだよ!」
珠夜はあからさまに震えている。もはやわざとではないか?
「落ち着きなさい、でも、油断はできないわ」
望初は珠夜をなだめる。でも本当は、望初のほうが緊張していた。
二人とも、希望学校から出たこともなければ、死神と出会ったことすらなかった。
そんな二人が、迷子になるのは簡単なことだった。
引率だった魔法屋店主ともはぐれてしまった。
二人は途方に暮れつつも、とりあえず歩き続けた。
その時、見つけた。森の中、ぽつんと建っている小屋。
「なんだろう?」
好奇心旺盛な珠夜は、迷わずその扉を開ける。
中には一人の少女が座っていた。橙色の髪に、黄色の目をした少女だった。短い肩ぐらいまでの髪をハーフアップにしている。
その額には札のようなものが貼ってあった。
「れみ……なにこれ、読めない」
珠夜はそれを読み上げようとするが、後半部分は汚れていて読めなかった。
「何をしているのよ……何かもわからない小屋で」
望初は呆れている。でも、その表情の裏には怯えが見える。
「その通りだゾ☆」
さらに後ろから声がした。
「君たちはそれが何だか知ってるのカナ?」
金色の髪を伸ばした存在だった。赤い目は獰猛に輝いている。とにかく綺麗な顔立ちをしていた。
「だ、誰ですか?」
望初は震える声で話す。
「ん〜、私は死神二冠の『身体狩り』。炒菜椿様だゾ☆」
望初と珠夜に衝撃が走った。
死神二冠。それは死神の幹部。しかも上の方。
2人は動けない。その名前は、名前だけで2人を圧倒するのに十分だった。
「綺麗な目だね、紫の。素敵だナ☆」
椿は望初を見つめている。
「でも、いいや。君たち希望学校だよね。椿様の質問に答えてもらうんだゾ☆」
そう言って椿は虚空から一枚の写真を取り出す。
「この子の名前を知らないカ?」
そこに写っていたのは、淡い茶色の綺麗な髪をおろした、とても整った顔立ちの美しい少女。宝石のように煌めく水色の目。
2人には見覚えがあった。
「虹蝶天花……?」
珠夜が不思議そうに答える。なぜ突然、この人物が出てくるのか、分からない様子だ。
「へぇ、ありがとうナ☆この子めっちゃ可愛いよね、いつか狩る」
椿は何やら物騒なことを言っている。
「てかさ……」
椿は今度は虚空から鎌を取り出した。
「どいてくんないかナ☆」
それを珠夜に向かって思いっきり振り下ろした。
「ふぇ?」
珠夜はただ茫然としていた。
「珠夜!」
望初が珠夜に飛びかかり、鎌の射線上から強引に離脱させる。
鎌は宙を切る。そこに望初の髪の一部が引っかかって切れた。
椿は興味深げに切れた髪を拾い上げた。
「君、翡翠の魔法を持ってるんだゾ☆いいや、今回は見逃そう」
その髪を持ち、鎌を抱えたまま、椿は小屋の外に出た。そしてそのまま姿を消した。
望初と珠夜はしばらく動けなかった。意味の分からないくらい強い存在が、意味の分からないことを言って去っていった。
「……」
ふと気配を感じて、望初と珠夜は同時に振り向いた。
小屋の中にいた橙色の髪の少女だ。額にあった札は剥がれていた。
「……」
少女は自分の手を見つめながら、拳を開いたり閉じたりしている。自分の体をようやく認識し始めたかのように。
「……こんにちは?」
珠夜はそんな少女に恐る恐る声をかける。
「こんにちは?私は、誰ですか?何だか、不思議な気分です」
少女が反応する。その無垢な目は、何も知らない赤子のようだ。
「分からない、とりあえず、れみって呼んでもいいかな?」
珠夜は戸惑いながらも、札に書いてあった文字を思い出す。
望初が落ちた札を拾い上げ、不思議そうに眺めていた。
「えっ……」
が、次の瞬間には、札は灰になって消えてしまった。
「……れみは、れみです。と、れみは、れみなりに会話をしてみます」
少女、れみは流暢に喋り出す。
「マヨタンは舞羽珠夜!よろしく!」
「私は露希望初。よろしくね」
珠夜と望初も自己紹介をする。
その後3人は、小屋を出て、ひたすら歩いた。来た道を思い出しながら。
「れみは、記憶がないの?」
道中、望初が不思議そうに尋ねる。
「はい、望初様。と、れみが、れみ的に応答します」
れみは淡々と喋る。
「それにしても、身体狩り、ヤバかったね。ゾメッチの髪切れちゃった……」
珠夜が気まずそうに呟く。今のところ、望初が死神見習いになりそうな兆候はないが、リスクがあるのは事実だ。
「いいのよ、珠夜を守れたんだから」
望初は平然と言ってのける。
「ありがとうね、ゾメッチ」
3人が話しているとき、目の前に2人の魔法屋店主が現れた。
「おい、無事か?2人とも!」
彼女は虹蝶炎帝。劫火牢という非常に強力な炎を出す固有魔法を使う強者。ツインテールの片方だけを三つ編みするという奇抜な髪型をしている。頭にはもちろん虹色の蝶。
「炎帝さん?見つかった?」
彼女は虹蝶彩都。極彩色世界という色から色々なものを生み出せる、万能な固有魔法を使う強者。右目を眼帯で隠し、反対の目を前髪で隠したサイドテールの少女。頭にはもちろん虹色の蝶。
「炎帝先生、彩都先生!ヤバかったよ〜」
珠夜が2人を見るなり、安心したのかその場に座り込む。
「よかった……」
望初の張り詰めていた表情が綻ぶ。
「ん?誰だ?」
そんな2人を横目に、炎帝はれみに尋ねる。
「れみは、れみと申します。よろしくお願いします」
れみは丁寧にお辞儀をする。
「うーん、とりあえず希望学校連れていこうか?」
彩都が炎帝に提案する。
「……そうするか。結空、頼む!」
炎帝は考え込む素振りを見せつつも快諾する。そして、虚空に向かって声をかける。
次の瞬間、一同は希望学校の中心、噴水広場にいた。
虹蝶結空の固有魔法、空間結合による転移だ。
「珠夜さんと望初さんは、とりあえずゆっくり休んでください。れみさんはこちらへ」
彩都がそう言って手招きをする。
「ちょっと待て、望初、お前は一回治療だ。念のためだがな。髪、切れてる」
炎帝が彩都止める。
「彩都、れみを頼む。望初はなんとかする」
そして、テキパキと指示を出す。
「分かりました。れみさん、行きましょう」
彩都がそれに従い、れみと共に店主の間へ。
「望初、行こう」
炎帝は望初を連れて、小石明里を筆頭とする、治療班のいるところへ。
望初の髪は結局治らなかった。
小石明里はこう言った。
「身体狩りは、身体の一部を奪っていきます。それを取り返さない限りはどうにも……」
後日。
「望初様、珠夜様、よろしくお願いします。今日かられみは、松浦れみとして、希望学校に通います」
れみは、望初と珠夜の部屋で、共に過ごすことになった。要は、ルームメイトだ。
「れみ!よろしく!」
珠夜がノリノリではしゃいでいる。
「よろしくね」
望初は冷静を装っているが、嬉しさが隠せていない。
こうして3人での希望学校での生活は始まった。
「何で松浦なんだ?」
呪莉は素直な疑問をみゆにぶつけた。
「あの子は柘榴の裏人格みたいなもんだし、浦」
みゆは鬱陶しそうながらも説明する。
「なんで、松?」
呪莉はそんなみゆに怯えつつも、好奇心のままに尋ねる。
「舞羽と露希」
みゆは遠くを見つめながら答える。
呪莉は納得したように頷きながら、興味深げに笑った。
「君はあの子達を認めてるんだぁね」
無事一章?を完結できました。もしここまで読んでくださった方がいらっしゃれば本当に感謝しかないです。僭越ながら、もしよろしれば評価、感想お願いします。




