対死神
朝になった。るる、花苗るるはいつものように翡翠ちゃんを探す。でも見つからない。
部屋にいるのかな?寝坊とは珍しい。
「翡翠ちゃん!朝だよ〜!」
叫びつつ部屋に押し入る。翡翠ちゃんはいなかった。るるは冷や汗が出るのを感じた。
「翡翠ちゃん!?」
るるは慌てて施設を飛び出す。
なんとなく、翡翠ちゃんがどっちの方向にいるのか見当がついた。
るるが鍛え続けてきた『翡翠ちゃんセンサー』を舐めるなよぉ!!!
「起きて!起きて!」
望初さんの声が聞こえた。
私、星月夜翡翠は目を開けて体を起こす。
「望初さん……おはようございます!」
何だか体が軽い。今すぐにでも動けそうだ。
「おはよう……疲れはとれた?」
もちろん。
「はい!元気になりました!」
ここの空気、なんか落ち着くんだよな。
「そう、じゃあ侵入不可領域を解除するわよ。そうしたら、いつどこから死神が来るか分からないからね」
いや、急すぎだろって思ったのは押し殺して……
「はい!珠夜さん来るといいですね」
無理矢理にでも気合いを入れよう。
「そうね」
虹色の波紋が望初さんに向かって集まっていく。この魔法は本当に綺麗だ。望初さんが虹の妖精のように見える。
すぐにきた。
望初さんの紫紺の瞳が覚めきっている。とても冷たい目になっている。それでも綺麗な瞳だ。
白い髪に、青い瞳をしている。水色の鎌を持っている。死神だ。
死神は詠唱する。
「上級魔法、氷属性、冷結氷」
望初さんが迎撃する。
「中級魔法、火属性、火炎弾!」
凍えるような雪の結晶と、熱い火炎の弾が激突する。
そういえば、火属性は氷属性に有利だったな。
望初さんの魔法が死神の魔法を一瞬で爆発させ、死神に直撃する。
「うぐッ」
死神が焼かれた。そして、死神は、淡い光となって消えた。
望初さんは悪戯な笑みを浮かべて言い放つ。
「まずは一体」
二体目がきた。二体めは死神見習いだ。二体目は詠唱を開始する。
「上級魔法、草属性、花弁舞」
望初さんが迎撃する。
「中級魔法、風属性、突風!」
たくさんの花びらへ、風が突撃していく。
そうだ、風属性は草属性に有利だった。
二体目もあっさりやられて、淡い光となって消えた。
次は、三体目と四体目が一気にきた。二人は詠唱する。
「中級魔法、水属性、水鉄砲」
「中級魔法、雷属性、落雷」
望初さんが迎撃する。
「中級魔法、雷属性、落雷!」
「中級魔法、草属性、水吸収!」
鋭い水と雷が、雷と花びらが激突する。
雷属性は水属性に、草属性は雷属性に有利だった。
三体目も四体目もあっさりやられて、淡い光となって消えた。
属性って一人一つじゃないのって思ったけど、原則って書いてあった気がするから、言及はやめた。
そんな感じで、時間は過ぎていく。私に向かって攻撃してきた死神もいたが、攻撃はなぜか透けていくため、私は無傷だった。
何とか出来ることを……と思い、望初さんの死角にいる死神を伝えたりした。
1時間ほど経って、大体300体くらい倒した計算になる頃だった。
入り口の扉が開いた。そこから人が入ってくる。すると、扉は閉まってしまう。
青い髪が首の真ん中あたりまであり、赤い瞳をした子だった。見覚えしかない。
「るる!?」
「あぁ!はぁはぁ……翡翠ちゃん!」
るるは私しか見ていない。
新たな死神が出現する。青い髪に水色の瞳をしていた。
そして、望初さんと同じ髪飾り、虹の蝶の髪飾りをつけていた。
この時は気が付かなかったが、この死神だったのは、本当に、本当に、本当に、不幸だった。
他の死神、虹の蝶の髪飾りのない死神ならば……
その死神は望初さんより先に、るるを発見した。そして、その死神は詠唱した。
「超級魔法、水属性、蒼海嵐舞」
そこで、るるはようやく死神の存在に気がつく。こいつ、明らかに大物だ。超級魔法を見たのは今日初だしな。
るるは恐怖に足がすくんでしまう。望初さんはるると死神に気が付いたが、間に合わない。
私は走る。死神とるるの間に。そして、自分が盾になって止めようとした。るるは私が守る。しかし……
「だめだよ!翡翠ちゃん!」
るるは私を押し退けた。私はその衝撃で転んでしまう。
望初さんはようやく、詠唱できた。
「中級魔法、雷属性、落雷!」
その魔法と死神の魔法がぶつかる。間に合っ……
魔法がぶつかったときの爆発。そこに、るるは巻き込まれた。
「るる!!」
私は叫んだ。爆発の中心に飛び込みたかったが、爆風で飛び込めない。
死神は望初さんに気がつく。望初さんに向き直り、望初さんを攻撃するが、あっさりやられて淡い光となって消えた。
爆風が収まる。私は問答無用で駆け出す。
その中にるるを見つけた。座って、るるを抱き寄せる。
「るる!るる!るる!!!」
脈が弱い…………今にも死にそうだった……
しかし、絶望している暇はなかった。
新たに、死神見習いが出現した。その死神見習いは言った。
「ゾメッチ、さよなら」
セオリーというか、なんというか……珠夜さんだった。私たちの本来の目的。珠夜さんだった。
望初さんは私の方を見た。その紫紺の瞳に宿る強い意志。珠夜さんを元に戻すという決意。
そして、その瞳は私に問をぶつける。「るる、望初さんと珠夜さん、どっちを優先するのか」と。
その瞳は揺らいでいる。「どっちをとっても構わない、珠夜は私の問題だから」と、そういわれている気がした。
迷う時間はない。でも、迷うことは何もない。私は答えを叫ぶ。