表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2つの世界を繋ぐ者  作者: きっこー
干渉制御
28/177

柘榴神戦④

「重力制御」

 翡翠(ひすい)ちゃんのその一言で、すべての枝が地に落ちた。でも、翡翠ちゃんは倒れてしまった。

 マヨタン、舞羽珠夜(まいはね たまよ)は、もう一度ゾメッチと手をつないだ。

「珠夜、一人で走って。そのほうが速い」

 ゾメッチはマヨタンにそう言った。たしかに、それはそうだけど……心細い。

 いや、心細いとか言っている場合ではない。れみを少しでも早く止めなくてはならないのだ。

「分かった。固有魔法、風属性、俊足」

 店主の間で完全に回復しきった体で全力疾走する。翡翠ちゃんが倒れたからか、枝が再び動き始める。

「気にせず走り続けなさい!固有魔法、翡翠神、属性奥義!」

 ゾメッチの言葉を聞いて、マヨタンはすべての枝を無視することにした。仲間を信じて。ゾメッチの魔法で上から来た枝はすべて消し飛んだ。

「タッちゃん、がんばるんだよ!超級魔法、水属性、蒼海乱舞!」

 (すみ)ちゃんの声がした。絶対に、やらないと。その魔法は、マヨタンの右からくる枝を逸らす。

「固有魔法、雷属性、巫女舞雷竜!最後のひと踏ん張りなのです。私も力を出し尽くしてやるのです」

幽依(ゆい)先輩の雷の竜が、澄ちゃんが逸らした枝に絡みつき、動きを封じる。

「白魔結晶。天花(てんか)様にここまでやらせておいて、失敗したら許さないんだからね」

「繭糸万本~!絶対止まっちゃだめだよ~」

 魔法屋店主さんたちが左側の枝を凍らせたり縛ったりしてくれる。

 やるしかない。

 マヨタンは思いっきり飛び上がって、れみに手を伸ばして、抱きしめた。

「珠夜様。れみを、殺してください!」

 れみの口が動いた。今までは、れみの意識と話していた感じだが、ここに来て初めて、れみが声を出した。

「やだ」

 マヨタンは素直に答える。

「れみは、もう、れみじゃないんです」

 れみの目から涙があふれる。今まで激しく動き回っていた枝は、完全に止まっていた。

「れみは、いつまでも、れみだよ」

 マヨタンも、涙が出てきた。なんだか、察しちゃったよ。もう、どうしようもなかったんだ。

「なんで、そんなに優しいんですか」

 枝が、先端のほうから消えていく。蒸発するように、きれいな光になって。

「だって、れみは、大事な友達だから。親友だから」

 宙に浮いていたれみの高度がだんだん下がっていく。

 れみの背中の花も、長く伸びた髪も、先端のほうからだんだんと消えていく。

「珠夜様も、望初様も、こんなれみを、ありがとうございます」

 足が地面につく。

 マヨタンは、れみをさらに強く抱きしめた。

「ねえ、消えないでよ、れみ」

 れみの耳元で、そっと呟いた。それが叶わない願いであると知りながら。



「ねえ、消えないでよ、れみ」

 珠夜がそう呟いたのを、ずっと戦場を上から俯瞰していた虹蝶栄華(にちょう えいが)は聞いた。その言葉に、背筋が凍った。

 初代魔法屋店主、虹蝶みゆが、このまま柘榴神が消えることを認めるはずがない。

「珠夜、すぐに離れなはれ!」

 栄華は慌ててれみと珠夜のそばに飛び降り、言葉をかける。

 しかし、れみと本気で向き合っている珠夜にも、自我が薄れているれみにも、その言葉は届かない。

「どういうこと?」

 代わりにその言葉を聞いたのは望初だった。

「このままだと珠夜、乗っ取られてしもうて」

  栄華は淡々と話す。それでも、額に浮かんだ脂汗からは焦りが感じられる。

「乗っ取られる!?」

  望初の顔には戸惑いが浮かぶ。

「どういうことなのですか?」

  その話を聞いて、幽依が栄華に尋ねる。

「……がっ!」

  望初が突然呻きだした。そんな望初に、栄華は慌てて駆け寄る。

「やめなはれ、みゆ!そもそも、柘榴神を暴走さしたのはお前や、どこまで自分勝手にしやはるんや!」

  その間にも、れみが出していた枝や花は消えていく。だんだん、光に代わっていく。そうしてそれは、れみの体にも及んだ。

「れみ!!」

  珠夜は消えていくれみの感覚に耐えられず、泣き叫ぶ。

「珠夜様、本当に、優しくて、強い。尊敬しています」

  れみは朧げな意識の中、そっと囁いた。

 そうしてれみは、完全に光となった。完全に消えてしまった。

 そこへ、みゆに乗っ取られた望初が手を伸ばす。あたりに散っていた光が集まる。

 その光が一斉に、珠夜の背中に流れ込んだ。

「うぐっ……」

  珠夜が呻きながら倒れる。倒れてもなお、悶え続ける。

「……固有、魔、法……、無、ぞ、く……性、……衝、魂」

  望初が苦しみながら呟く。そうして自分の意識もろともみゆを気絶させる。

 いくら、みゆを気絶させたとはいえ、起こってしまったことは変わらない。

 珠夜にれみの意識が流し込まれている。

「珠夜、しっかりしなはれ!」

「やばいのです。とりあえず、深呼吸をするのです!」

  栄華と幽依が駆け寄り、必死に声をかけている。

「タッちゃん……」

  澄や、共に戦った者たちは、それを心配そうに見つめている。



 珠夜様、大丈夫、心配はいりません。

 珠夜様が、れみを親友と言ってくれたこと、とても嬉しかったです。ありがとうございます。

 れみにとっても、珠夜様は親友なんです。れみは、珠夜様のために何かしたいのです。

 だから、虹蝶みゆの好きにはさせません。れみが珠夜様を乗っ取るなんて、絶対にしたくないし、絶対 にさせません。

 ここで、れみは消えます。珠夜様の中で、完全に。そうすれば、全てが丸く収まるはずです。

 少し、語弊がありました。れみの消滅というよりは、珠夜様との統合と言ったほうが正しいかもしれません。

  今まで、本当にありがとうございました。大好きな珠夜様。

 望初様にも、よろしくお願いしますね。

 れみの、いいえ、柘榴神の力は、珠夜様に宿ると思います。

 でも、珠夜様なら完璧に使いこなせると、れみは信じています。

 れみは暴走させちゃいましたから……

 なんだか、寂しくなってきちゃいました。もう、れみが思ったことを言える資格はありませんけど、許されるなら、言わせてください。

  珠夜様なら、許してくれますか?

 本当はもっと、普通に過ごしたかった。望初様と珠夜様と一緒に楽しく笑っていたかった。

 珠夜様のように、れみは、れみも、れみだって、叶わない願いを言ってみました。

 では……


 さようなら。





 珠夜がゆっくりと起き上がる。その意識ははっきりとしていた。

「……れみ」

  それでも、どこかぼんやりとしていた。

「……れみ」

  心の中に僅かに残った温もりが、珠夜の心を締め付ける。

「ねえ、みんな?これで……これで、良かったのかな?」

  珠夜が虚ろな表情で問いかける。

 その言葉に含まれていたのは、己を含む、世界に対する憎悪なのか。はたまた後悔だろうか?

 大きな負の感情が渦巻いていたことだけは間違いないだろう。

 戦場の一同は、大体の状況を把握していた。れみが、自らの消滅を選んだということ。世界のため、そして珠夜のために。

  口を開ける者は、誰もいなかった。いるはずがなかった。



 柘榴神との戦いは、こうして終わりを告げた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ