柘榴神戦③
珠夜につかまれた手。それは、私、虹蝶望初に絶対的な安心感を与えた。
思い出すんだ。虹蝶みゆに体を乗っ取られた時の感覚、その時に、私の体で使われた魔法。
「ゾメッチ、行こう!」
珠夜が一段と強く、私の手を握りしめる。私も思いっきり珠夜の手を握る。
「固有魔法、風属性、俊足!」
「固有魔法、翡翠神、属性奥義!」
私たちはそれぞれ魔法を発動して、走り出した。私の魔法も、無事発動した。私たちの正面にあった枝をすべて消滅させた。凄まじい威力だった。
そのまま珠夜の俊足の速度で、まっすぐれみに向かう。
「「れみ!」」
声が完全にかぶる。
私たちは同時に、飛び上がって、れみの胸に触れた。
「れみ!」
れみは、れみを、『れみ』を、呼ぶ声を聞きました。
声は、遠くて、誰の声なのか分かりません。だけど確かに『れみ』を呼んでいます。
れみだって、れみでありたかった。
この体は『柘榴神』のもので……それに気が付かずに……いえ、もう、やめましょう……
れみは気がついていました。
れみの中にある違和感、れみの中に時々走っていたノイズ、れみの中で燃える力、ほかにもたくさんありますね。
れみは、知ってて無視してきましたっ!
れみは、れみの、れみだけのために、知ってたのに、知っていたのに、無視し続けていました!
れみは、何ができたのでしょうか。れみでも、できたことはあったのでしょうか。
どうして、こんなに世の中は残酷なんですか?
いえ、違います、どうしてれみは、こんなに強欲なのですか?
れみは、れみは、れみは、れみは、れみは、れみは、れみは、れみは、れみは、れみは、れみは、れみは、れみは……
もう嫌なんです。
れみなんか、死んでしまえばよかった。
れみさえ存在しなければ、全てがよかった。
れみはこの世界の中では生きていけなかったんです……生きてはいけなかったのですっ!
なのに、望初様や珠夜様に甘えて、甘えて、れみは、生きてきてしまって、許されざる大罪です。
もう、遅いのです。
もう、災厄は起きてしまったのです。
もう、何もかも、間に合わない。
れみの命も消えかかっています。
罪を償うのにも、災厄を止めるにも、何もかも、間に合わないのです!
れみは、何をすればいいのでしょう。何を言えばいいのでしょう。
何ができるのでしょうか?何が言えるのでしょうか。こんなれみがっ!
れみだって……
はぁ、見苦しいですね、言い訳なんて。
れみはもう、大罪人なのですから。
弁解の余地もなく、大きな罪を犯して。
もう、いいんです。どうせ死んでしまうのです。
死ぬだけでは、この罪を償うには軽すぎると思います。
でも、れみにできるのは死ぬことだけなのです。
そう思っていました。そう思わせていて欲しかった。でもっ!
「れみ!」
珠夜様はこんなれみを……
救わないでください……れみには救われる資格がないのです!
呼ばないでください……れみには人に名前を呼ばれる資格がないのです!
何もしないでください……れみには人に認識してもらう資格すらないのです!
れみも、とても愚かなのです!
「れみっ!れみ!」
もう、やめてください。
れみは擬似的に作られただけの存在なのですから。
れみなんて最初から存在しなかったのですから。
れみとは何か……答えは、存在しない者です。れみはこの世界にいてはいけないのです。
「そんなこと……ないのに……」
この声は、望初様でしょうか。
やめてください。そんなことしかないんです……
れみに希望を与えないでくださいっ!期待してしまうではないですかっ!
「れみは、悪くない」
珠夜様……
れみが全て悪いのです。れみはもう、償いきれない罪を背負ってしまいました。
もう、もう、取り返しのつかないことになってしまったのです。
お願いしますっ!れみを見捨ててください。柘榴神を見てください……
自我が危うく、凶暴で、人を傷つける……
これが、これこそがっ、れみの本来の姿なのです!
「本来?れみだって、柘榴神とは別の1人の人物でしょう?」
違いますっ!
今、暴れているのは、まぎれもなくれみ自身なのです!
本当に、もう、やめてください!!!
望初さんと珠夜さんが吹き飛ばされた。
私、星月夜翡翠は二人に魔法をかけた。
「重力制御!」
2人にかかる重力を落とすことで、着地を楽にした。
「翡翠ちゃん、助かった。でも、どうしよう」
珠夜さんが苦しげな表情で呻く。
望初さんは黙って立ち尽くしている。表情は悔しげだ。
そんな二人が突然消えた。遡楽さんと結空さんが二人を見るに見かねて、回復のために店主の間に呼び寄せたようだ。
どうしよう。二人にできないことは、誰にもできない気がするんだけど。
「もう一回、よ」
「ゾメッチ、行こう」
望初さんと珠夜さんが戻ってきた。二人は全く諦めてなどいなかった。それなら、二人なら、なんとかできるはずだ。
だったら、私も、できることをやらないと。
「干渉制御」
この魔法で、れみさんへ干渉した。
私、気が付いたんだ。重力制御は本当はもっとつよいって。店主の間で扉を一瞬でつぶした、あの威力があるはずだって。じゃあ、なんで弱いのか。
あの日、れみさんに初めて会った日。私はれみさんへの干渉を外していた。そして、そのままにしていた。つまり、私側がれみさんへの干渉を拒絶している状態だったのだ。
「重力制御」
その私の一言で、すべての枝が地に落ちた。後から出てくる枝も、一つ残らず落ちていく。
戦場の人々が、驚いた様子で私を見ている。私は黙って、望初さんと珠夜さんの背中に触れた。
「あとは、お願いします」
私の意識はそこで途絶えた。やっぱり、派手に魔法を使うと疲れるんだな。
しばらくして、目が覚めた。目を覚ますと、そこは店主の間だった。
「ゆっくり、休んで。もう大丈夫だから」
遡楽さんがそっと声をかけてくれる。状況はいまいち分からない。でも、望初さんと珠夜さんとれみさんが何とかしてくれたのだろう。あの三人なら、安心だもん。
私はそのままもう一度、眠りに落ちた。
「遡楽さん、翡翠の座標が安定しない。なんで……?」
結空がうろたえている。とりあえず、倒れた翡翠を反射的にここへ呼び寄せたのはいい。でも、そのときに使った力は異常に多かった。
なぜなら、翡翠の体がどこかへ飛ぼうとしているから。どこか、別の場所へ行こうとしているから。
「落ち着け!でも、どういうことだ?固有魔法、無属性、時間遡行」
遡楽は時間遡行で安定しない状態を、安定していた時間まで戻そうとしているが、それでも戻らない。というか、遡楽の魔法自体があまり効いていない。
まるで、翡翠が霊界から遠ざかっているかのように。
まるで、翡翠が人間界に引きずり込まれているかのように。
「人間界に飛ぼうとしているのか?柘榴神と翡翠神は、本来ならば戦ったりはしない存在だ。それが真っ向から衝突した……それゆえの強制帰還?」
呪莉が考察を述べている。それは異様に早口で、焦りがうかがえた。
「ひゃっ!?」
それは誰の声だろうか?
その瞬間、まばゆい閃光が走り、翡翠の姿は消えていた。




