柘榴神戦②
「珠夜!れみは……」
そこに、新たな人物が現れた。望初さんだ。
「望初さん、無事でよかったです」
私、星月夜翡翠は反射的にそう言った。本当に、望初さんは心配だった。
「ゾメッチ、れみが、なんかやばい」
珠夜さんも望初さんに話しかける。
「事情は呪莉さんに大体聞いたわ。まさか本当に、れみが神様だったなんて」
望初さんの表情は暗い。
その時、れみさんの体にさらなる異変が起こった。
うずくまっていたれみさんが顔を上げた。その目は、いつもの黄色の目ではなかった。私はそんな言葉は知らなかったけど、強制的に認識させられた。あれが、柘榴色。
「……れ、み?」
れみさんの異常な様子に、珠夜さんが絶句してしまっている。
周囲にあった植物の枝が、すべてれみさんの背中に吸い込まれていく。
あの枝は私たちに危害を加えた。それが吸い込まれたってことは、れみさんは回復しているってことかな、と楽観的思考をしてみたが、そんな様子じゃなかった。
枝が全部吸い込まれた時、れみさんの背中から、大きな赤い花が咲いた。大きな、大きな、鮮やかな赤い花。見たことのないはずの花。でも、なぜか既視感と知識がある。
「柘榴の花」
私は思わずつぶやいていた。
れみさんの体が浮き上がる。れみさんの髪が一気に伸びる。まるで、れみさんが背負っているものの重さを示すかのように、長く、長く。
次の瞬間、さっきとは比べ物にならないほどの、凄まじい数の枝が襲い掛かってきた。心なしか、一本一本が太く強くなっている気がする。
「白魔結晶!」
いつの間にかすぐ横に現れていた天花様が、数本の枝を凍らせた。でも、まだまだ枝はたくさんある。
「固有魔法、雷属性、巫女舞雷竜、なのです!」
幽依先輩もどこかにいるようだ。雷の竜が枝を止めようと動き回っている。
「重力制御!」
私も負けじと魔法を打つ。れみさんに重力を思いっきりかけたのだが、まるで効いていない。
「重力制御」
とりあえず、枝の数本に重力をかける。それはちゃんと効果があり、枝が地面に落ち、つぶれる。無力化できた。
「超級魔法、火属性、灼熱絶火」
珠夜さんも枝に向けて魔法を放っている。
「極彩色世界!……まぶしっ」
「劫火牢!」
「繭糸万本だよ~」
魔法屋店主たちの魔法も放たれる。その中には、繭羽先生の姿もあった。
しかし、ここまでやってなお、枝は無限に飛んでくる。
「固有魔法、無属性『ちょうちょう』」
これは、メロディー先輩だ。なんか、魔法屋店主さんの頭の蝶の輝きが増している気がする。
「中級魔法、風属性、突風!」
望初さんの中級魔法、前に魔法屋で見た時よりも威力が上がっている気がする。あたりを見渡した。魔法屋店主たちの魔法の威力が全部上がってる。メロディー先輩ってすごいんだ。
「重力制御!!」
私も頑張らないと、と思い、さらにたくさんの枝を落としていく。
「固有魔法、風属性、俊足!」
珠夜さんがれみさんに突っ込んでいく。
「重力制御」
私はその周りの枝を狙って落とした。もう、枝を落とすことしかできることがない。
「あぅ……」
私も、珠夜さんも、全力を尽くした。それでも、ダメだった。一本の枝が珠夜さんを貫いた。珠夜さんが、力なく地面に落ちる。
「珠夜さん!」
私は慌てて珠夜さんに駆け寄ろうとしたが、望初さんに襟首をつかまれ、失敗に終わった。
「気持ちはわかるけど、ダメなものはダメなのよ。大丈夫よ、そういうの専門家が控えているから」
望初さんの言葉を、私は黙って聞いていた。そんなことを言われましても。
「固有魔法、無属性、超治癒回復」
どこからか聞こえた詠唱。飛んできたピンクのハートが珠夜さんにぶつかる。するとあら不思議。珠夜さんの傷がすっかり消えた。
「こういうのは、私に任せて」
そう言いながら、私たちの隣に立ったのは明里先輩だった。
「アカリンは絶対もっと後ろにいるべきなのです」
幽依先輩が軽い調子で話しかける。
「ユイッチはもっと前に行ってみたら?」
明里先輩も気楽な感じで返事をしていた。
「アカリンがいるなら、安心なのです!」
そう言って、幽依先輩は雷を纏って突っ込んでいった。枝に貫かれているところと、ピンクのハートで治療されているところを見た。
「重力制御」
「中級魔法、雷属性、落雷」
私も望初さんも魔法を打ち続けている。何度も言うが、枝は無限にある。
私には限界が来始めていた。繭羽先生の鬼授業の何倍もの魔法を短時間で打った。
その瞬間、目の前の光景が突然変わった。ここは?
見覚えのある場所だった。おそらく、店主の間。
だって、遡楽さんいるし。その隣には、もう一人の魔法屋店主。ちょっと奥には呪莉さんもいる。
「固有魔法、無属性、時間遡行」
遡楽さんが私に何か魔法をかける。不思議な感覚。体の時間が戻ったような感覚。疲労が消えていく。
次に、隣にいた魔法屋店主さんが口を開いた。
「私、虹蝶結空。まあ、自己紹介はほどほどに。行ってらっしゃい。固有魔法、無属性、空間結合!」
そして、また目の前の光景が切り替わった。無限に枝が飛んでくる戦場へ舞い戻ってきた。
「重力制御」
私は元気になった体で思いっきり魔法を打つ。
その後、望初さんが一瞬消えた。聞いてみたところ、望初さんも私と同じように、店主の間で回復したようだ。話によると、みんな順番に回復してもらっているらしい。
じゃあ、無限に持つじゃん、と私は思った。誰も疲れないなら、永遠に戦える。そうすれば、いつか枝も収まるかもしれない。でも、現実はそんなに甘くないらしい。
「一瞬たりとも抜けられない人が何人かいるのよ」
望初さんはそういいながら、後方に目を向ける。
そこにいたのは、息の上がったメロディー先輩。そっか、メロディー先輩が一人いなくなるだけで、魔法屋店主の魔法の威力がガタ落ちしちゃうんだ。この状況だと、たしかに、一瞬たりとも抜けられない。他にもそのような人がいるのだろう。
「なんとかしないと」
望初さんが辛そうに呟く。その言葉は、この場の一同の心の中を代弁していた。
みんな、焦っている。終わりの見えない敵の攻撃に。
でも、だんだん戦局は傾いていた。
「超級魔法、水属性、蒼海嵐舞!」
「絶対零度!」
希望学校の生徒の中でも、強い子たちが援軍に来始めたのだ。
今のは、澄ちゃんと、氷川愛洲?
氷川愛洲って氷属性の超級魔法とか使えたっけ?まあいいや。気にしてる場合じゃない。
枝を抑えることができ、だんだんれみさんへの道が開いていく。
「固有魔法、風属性、俊足!」
最初からずっと、突撃を繰り返している珠夜さん。遡楽さん、結空さんのおかげか、肉体的な疲労はあまり見られないが、精神的に参ってしまっているようにみえた。
「望初さん!」
ということで、私は問答無用で望初さんの襟首をつかみ、珠夜さんのほうへ引っ張った。
「っちょ……何を」
望初さんは何やら動揺している様子だったので、私は思いっきり言ってやった。
「れみさんがこんな風になっちゃって、珠夜さんもズタボロですよ!できることやっときましょうよ!」
望初さんは覚悟を決めたように、大地を踏みしめた。
「そうね。なんだか、なにかできる気がする」
そんな望初さんの紫紺の瞳は美しく輝く、なんてことは今はどうでもよくて。
「重力制御!」
私は一つでも多く、枝を落とさないと。
「珠夜!」
望初さんは珠夜さんに手を伸ばす。
「ゾメッチ!」
珠夜さんがその手をしっかりとつかむ。




