重力制御
短期決戦を……
私、星月夜翡翠はそんなことを思ってたら、望初さんが倒れた。見た感じ、望初さんがみゆさんを倒した結果、望初さんも倒れたみたいな感じ。
望初さん、助けてくれたのか。背中が痛……くない?恐る恐る、自分の背中をさすってみる。なにも傷はない。なぜか治っている。
不思議に思い、後ろを向いた。
「やぁ、みゆが暴走した。すまなかったぁね」
そこにいたのは黒い髪をおろした真っ黒な目の人。全体的に色が暗い服であるからなのか、頭についた虹の蝶がとてもめだつ。
「だれ、ですか?」
今日は知らない人に会いまくりだな。
「虹蝶呪莉。3代目の魔法屋店主だ。あらためて、みゆのこと。本当に申し訳なぁい」
なんだか謝られている。3代目って遡楽さんの一個前ってことか。
「望初さんは大丈夫なんですか?」
私はそれが心配だった。未だに指一つ動かさずに倒れている望初さん。
「大丈夫だね。この世界、死んだ場合、体が消滅するんだぁよ。体があればなんとかなるねぇ。君の傷は治せたけぇど、こっちは魂やってるから、時間経過でなんとかするかんじだぁね」
呪莉さんはそういってるけど、心配は心配だ。てか、傷直してくれたのか。
「ありがとうございます」
そのことへのお礼をいう。
「とにかく、話があるんだぁよ。助けてくれ」
突然、呪莉さんが深刻な表情になった。なんだか恐怖心から寒気がした。
「なんでしょうか?」
恐る恐る、私は答える。
「さっき、みゆが翡翠神の固有魔法を乱発していただろう?」
たしかに、詠唱に翡翠神が入っていた気がする。属性奥義、だっけ。
「はい」
私はとりあえずうなずいておく。
「そして君も翡翠神の固有魔法を使っただろう?」
私は干渉制御を使っていた。
「はい」
もう、とりあえずうなずいておく。
「柘榴神が暴走する」
柘榴神ってたしか霊界を作った神様……
「へ?」
神様が暴走するといわれても、いまいちピンとこない。
「翡翠神の力が使われすぎた。柘榴神の封印が解けて、溜まっていた分の力があふれ出る」
封印って、大変だな。呪莉さんの言葉は続く。
「百年ちょっと前にな、翡翠神も柘榴神も封印されたんだぁよ。それは、百年で解ける封印だった。そこで、みゆは柘榴神の封印を延長していたんだ。さすがに完全に封印はできなかったようで、力を封じただけだった。それでもみゆは封印を延長した。でも、みゆの力じゃ完全な封印は出来なかった。だから、みゆは記憶を封印した。頭の記憶だけじゃぁない、体の記憶もねぇ」
ちゃんと聞いているはずなのに、全く意味が分からない。
「理解できていないようだぁね。じゃあ、簡潔に言うよ。柘榴神の暴走を止めるのを手伝ってほしい」
今のはなんとなく分かった。つまり、戦えってことだ。
「柘榴神って人間界に干渉できますよね、私、無力ですよ」
懸念がある、私にできることなんてないんじゃないか、と。
「だから、私に封印されている翡翠神の魔法の一つを使ってもらう」
呪莉さんは胸に手を当てながらそっと呟く。
そういえば、繭羽先生が言ってた。みゆさんは翡翠神が持つ6つの魔法を分配した。一つは翡翠神本人の体内に封印。あと5つはそれぞれ別の人に。
それが、呪莉さんの中に封印されたものなのだろう。呪莉さんの手が、私の頭に触れる。
「がっ……!」
何か膨大なものが頭の中に流れ込んできた。
「休ませたいところだが時間がなぁい。早速使ってみてくれ」
呪莉さんに促されるまま、私は手を伸ばす。狙ったのは、部屋の扉。
「……固有魔法、翡翠神、重力制御」
直後、凄まじい重力が扉にかかり、扉がひしゃげて潰れて壊れた。確かに、強い、けど。
「これ、役に立ちますか?」
私は留年生たちと戦った時のことを思い出していた。あの時、私は重力への干渉を外して浮き上がっていた。
つまり、干渉制御の魔法で、重力への干渉は出来ていたのだ。
「信じろ、絶対に役にたぁつ」
呪莉さんが根拠のないことを言っているが、まあ便利な点はいろいろあるのも事実だ。
「重力制御」
詠唱の短縮はできるようだ。壊れた扉の重力をゼロにした。扉がぷかぷかと浮いていく。
ふと、壊れた扉の向こうにいた人物が目に入る。呆然としたように立ち尽くす遡楽さんだ。
「遡楽、ちょっとやり過ぎだったんだぁよ。1人くらいは同行者がいても良かっただろうに」
呪莉さんが遡楽さんに話しかける。
「……ごめんなさい」
遡楽さんが謝る。見た目が幼女なので、なんだかこっちが悪いような気分になる。
「翡翠、行きなさい。時間がなぁい。噴水のある広場は分かるね?」
呪莉さんが私の背中を押しながら、部屋の外に出る。
たくさんいたはずの魔法屋店主たちの姿はなかった。いるのは遡楽さんともう1人だけ。
とにかく、柘榴神とやらの暴走を止めなくてはならないらしい。
「いただろう、魔法屋店主でもないのに、翡翠に干渉できた者が」
呪莉さんの言葉を聞いて、記憶を辿ってみる。
1人、いたじゃないか。太陽に干渉していない状態で私が見えた人が。干渉を外した状態だったのに、私の手を叩くことができた人が。
「行ってきます」
私はそう言って、噴水広場に向かって駆け出した。あそこは希望学校の中心だ。ひたすら太い道を選んでいれば辿り着ける。
そんな翡翠を見送った後、呪莉は遡楽に声をかける。
「魂の遡行をしてほしいんだぁよ。今起きないと、きっと望初は一切悔やむ」
遡楽の顔に動揺が走る。魂の遡行には途轍もない苦痛が伴うからだ。魂だけ時間が戻ると、魂が体と同期しようとして暴れる。
「望初なら大丈夫だ。自ら魂を気絶させた時の方が苦しかったはずだぁよ」
呪莉は遡楽に笑顔で語る。
「分かりました。固有魔法、無属性、時間遡行」
遡楽は諦めたように詠唱する。
「がっ……!」
望初は目を覚ました。苦痛と共に。そんな望初に呪莉は淡々と状況を説明し始めた。
それを最後まで聞く前に、望初は噴水広場へ向かって駆け出していた。
呪莉はぽつぽつと独り言を呟いていた。
「みゆは二重人格みたいなものなんだぁよ。昔の友達思いなみゆと、今の冷静なみゆが、共存している。冷静なみゆならよかったんだけど、友達思いのみゆが暴走してしまった。対策が必要だけど、どうしたらいいか全く分からないんだぁね」
呪莉は悲しげに俯く。
「基本的には超お人好しなんだぁよ。翡翠に特注の制服を渡すようなねぇ」




