魔法屋にて
私、星月夜翡翠は魔法屋の中を適当にぶらついていた。何かを売っている様子もなく、望初さんが働いている様子もない。この店の内容はあとで詳しく聞いて見たいと思う。あと、望初さんがやってた魔法みたいなのも気になる。
ここの広さは10メートル四方ぐらいだ。高さは5m程度。壁や床は赤を基調としている。窓はない。扉は私が入ってきたところのひとつだけ。そして、部屋に置いてあるのは、木でできた椅子、ひとつだけ。そこには望初さんが座っている。それに対して部屋が広すぎる。
また、光源は部屋の中心あたりにある電球ひとつだけなため、若干暗い印象を受ける。
5分ほど経った時だった。部屋が揺れた。誰かの声が聞こえた。
「超級魔法、風属性、爆風神刀」
その声を放ったのは、黒いフード付きマントをかぶっていて、全身が見えない人だった。幸か不幸か。 その人は、私に背中を向けて、望初さんだけを見ている。
その瞬間、恐ろしいほど鋭く、恐ろしいほど速く、恐ろしいほど大量の、風の刀が降ってきた。
「えっ!?」
私はパニックになって思わず声がもれていた。
でも、望初さんは冷静だ。
「あなたが死んだとしても知らないわ。中級魔法、氷属性、氷結」
望初さんが出した魔法が大量の風の刀に向かっていく。
風が思いっきり冷えたことで、水蒸気が固まったのだろう。無数の氷の塊が降ってきた。風の刀は止ま った。
まあ、氷の塊は私にもぶつかってるけど、あんまり痛くないかな。
「すごい……」
そんなことより、ただ望初さんを美しいと感じた。
望初さんは続けた。
「中級魔法、風属性、突風」
その魔法で、フードが落ちる。その人は、赤い髪を高い位置でツインテールにしていた。橙色の瞳をしていた。
ここで、今まで冷静だった望初さんに動揺が走った。思わずといった調子で声をもらしていた。
「珠夜……?」
その人は答える。
「ゾメッチ、ごめんね?バレちゃった。さようなら。マヨタンはね、死神見習いになって強くなったから。さよなら」
望初さんは明らかに狼狽えてしまっている。
「珠夜!」
珠夜?さんが狂ったような笑みを浮かべる。
「ゾメッチ、さよなら。超級魔法、火属性、灼熱絶火」
望初さんの動揺は激しい。対応できていない。それに、名前からしてヤバそうなやつだ。私にできることはあるか。考える前に私は動いた。
珠夜さんの狙いはまだ望初さんだけだ。
私は珠夜さんの後ろにいる。いける。
「トォリャァァ!!」
「ウグゥウッ!」
思いっきり珠夜さんを右手で殴り飛ばした。私のパンチは珠夜さんの背中に直撃する。珠夜?さんは思いのほか軽い。場違いながら、羨ましいと思っては……ないからねぇ!!珠夜さんは2m程度ぶっ飛ぶ。
珠夜さんの魔法が止まる。そして、望初さんが我にかえる。
「固有魔法、魔法屋店主、強制送還!」
望初さんの魔法は珠夜さんに当たった。虹色の光と共に、珠夜さんの姿が消えた。
望初さんが続けて詠唱する。
「固有魔法、魔法屋店主、侵入不可領域!」
虹色の波紋が広がる。とてもとても綺麗な魔法だった。
びっくりした。突然の珠夜さんの襲撃に緊迫していた精神が緩む。
私はその場に座り込んだ。
そこに、望初さんが近づいてきた。
「命拾いしたわ。ありがとう」
望初さんから向けられた感謝。少し照れくさいな。
「いえいえ。それより、望初さんと珠夜?さんが使っていた魔法みたいなのってなんなんですか?」
結構気になっていたので、聞いてみた。
「あぁ、あれね。色々あるのよ。魔法で正しいわ。ちょっと待ってて。資料があったと思うから」
この部屋のどこにそんなものがあるんだろうと私は思った。
望初さんは部屋で唯一の物、椅子に近づいていった。椅子の座るところの下が引き出しになっていたようだ。望初さんはそこから紙束を一つ取り出し、引き出しを閉めた。そして、椅子と紙束を持ってこっちへきた。
「はい、椅子も是非座って」
ありがたく座らせて貰おう。疲れた。
「色々ありがとうございます!」
紙束を見てみた。
世界の大原則
世界は普通の人間が住む世界「人間界」と人間界に未練を残し、若くして死んでしまった魂が集まる「霊界」がある。
魂は霊界に行く時、名前だけを持っていく。そして、名前を元に、魔法が与えられる。名前と魔法の関係の法則はまだ解明されていない。
原則人間界から霊界に干渉することはできないが、翠の石を使う神のみ干渉することができる。
原則霊界から人間界に干渉することはできないが、魔法屋の店主と赤の石を使う神のみ干渉することができる。
表紙はこうだった。なにこれ、大原則とか書いてあるけど、私何も知らなかった。
私がいるのはきっと人間界の方だ。魔法ないしな。
とりあえず、ページをめくってみる。
魔法
一般の魔法には、魔法には属性がある。
属性は、火属性、水属性、雷属性、風属性、氷属性、草属性、無属性の7種類がある。
属性ごとに、初級魔法、中級魔法、上級魔法、超級魔法の4段階がある。
超級魔法>上級魔法>中級魔法>初級魔法
見方:〇〇>☆☆の場合、〇〇が☆☆より強い。
まず最初に全ての属性の全ての魔法を書き記す。
しかし、自分が使う魔法以外の名前は、覚える必要がない。
火属性→初級魔法:火球 中級魔法:火炎弾 上級魔:焼焔 超級魔法:灼熱絶火
水属性→初級魔法:水球 中級魔法→水鉄砲 上級魔方:漣舞 超級魔法:蒼海嵐舞
雷属性→初級魔法:雷鳴 中級魔法:落雷 上級魔法 雷轟破 超級魔法:雷電轟撃
風属性→初級魔法:追風 中級魔法:突風 上級魔法:疾風刃 超級魔法:爆風神刀
氷属性→初級魔法:粉雪 中級魔法:氷結 上級魔法:冷結氷 超級魔法:絶対零度
草属性→初級魔法:葉弾 中級魔法:水吸収 上級魔法:花弁舞 超級魔法:森羅万象
無属性→初級魔法:攻撃 中級魔法:超攻撃 上級魔法:全力一撃 超級魔法:一撃必殺
2枚目はこんな感じだった。
なんかしょぼい名前が多いのは気のせいだろうか。考えたやつ、絶対手抜きだろう。
私は魔法を使えない。よって、一個も覚える必要がない。次のページへ行く。
属性について
属性によって、有利、不利がある。
有利な属性だと、中級魔法で超級魔法を相殺できる。初級魔法で上級魔法を相殺できる。
火属性>氷属性>風属性>草属性>雷属性>水属性>火属性
※無属性に有利、不利はない。
見方:〇〇>☆☆の場合、〇〇が有利、☆☆が不利。
適性について
人によって使える魔法は異なる。それを適性と呼ぶ。原則、一人につき一属性。
適性は、主に名前によって決まる。
しかし、規則性は見出せていない。あくまでもランダムであるという説もある。
固有魔法について
その人だけが使える特別な魔法を固有魔法と呼ぶ。
詠唱は「固有魔法、〇属性、魔法名」のようなものである。
超級魔法より強い威力が出るものも多い。
魔法屋店主のみが使える魔法屋店主用の固有魔法もある。
その魔法名一覧と効果を記す。
強制送還:死神及び死神見習いを強制的に死神山へ還す。
蝶ノ歌:ビームを出す。威力は超級魔法並み。
蝶ノ舞:一時的に、使用者の攻撃回避能力を飛躍的に上げる。
侵入不可領域:死神及び死神見習いが入ることのできない空間を作り出す。
3枚目はこんな感じだった。紙束はこれで終わりだ。さっき使っていた物の意味がなんとなく分かった気がする。
私は読み終わったので顔を上げた。すると、近くにいた望初さんが気づいて話しかけてくれた。
「終わった?」
「はい!よくわかりました。ありがとうございます」
望初さんはにっこり笑って
「よかったわ!」
と言ってくれた。
私はさっき望初さんが『侵入不可領域』という魔法を使っていたのを思い出した。つまり、しばらくはここは安心だ。
私は思い切って聞いてみた。
「どうして、珠夜さんと戦っているんですか?」
望初さんは答えてくれる。
「分からないわ。魔法屋店主っていうのは、死神及び死神見習いとここの部屋の中で一人で戦う仕事。そして、珠夜が死神見習いだった。だから戦った。それ……だけよ」
最後言い淀んだのを私は見逃さない。
「何か珠夜さんに恨みでもあったんですか?」
2人に何かしらの因縁があるのは確実だ。
「ないわ。珠夜は親友。大切な友達よ」
友達、確かに望初さんは攻撃を躊躇っていた。
ここで私は大切なことに気がついた。
「すみません。今更ですが死神とは?」
死神とか、見習いとか何じゃそりゃって話だ。
「死神は、簡潔に説明すると死神山にいる鎌を持ったやつ全員よ。死神見習いはその下。いつか死神になる奴のことよ。死神見習いも死神山にいるわ。死神は組織と化しているわね。トップの総大将が一人と二冠と呼ばれるその下が二人、三傑と呼ばれるその下が三人、四天王と呼ばれるその下が四人、そこから下に普通の死神、さらに下に死神見習い」
なんか結構複雑。
つまり、死神は上から順に、総大将→二冠→三傑→四天王→死神→死神見習い、という感じってことだ。
望初さんが付け加える。
「私たちは霊界に生きているの。その時、四天王以上の死神に鎌で斬られると死神見習いになってしまうわ」
つまり、総大将、二冠、三傑、四天王の10人のうちの誰かに斬られたら死神見習いらしい。
「怖い……」
素直な感想です。
「でも、死神見習いの場合はまだ元に戻るチャンスがあるの。死神になってしまったら……もうお終いね」
珠夜さんは死神見習いだと言っていた。ならば……?
「死神見習いが、死神になるまでどのくらいなんですか?」
希望がなくはない、?
「個人差が物凄く大きいけど、平均1ヶ月といったところね。短いと数秒、長いと7〜8年」
7〜8年、行けるはず。なんか数秒とかいう不吉な文字列は無視します。
「まだ、珠夜さんを助けられるのではないでしょうか!本人が言ってましたが、死神見習いでしたよね?」
私は食い入るように言ってみた。
「えっえぇ」
望初さんは気圧されている。チャンスだ。
「助けられますよね!?親友なんですよね!?」
今の気持ちは面接官。圧迫面接する人ね。
「まぁそうよ。助けたいわね。でも、難しいの」
冷静さを取り戻した望初さん。
「方法を教えてください」
私は精一杯語りかける。
「死神見習いのマントについている金のボタンを本人が壊すの。そのために、本人に、元に戻りたいという意志を与えなきゃいけない。それは……困難なことなの」
「やりましょう!」
望初さんの視線が泳ぐ。いい調子だ。
「でも……死神見習いは半分洗脳されているようなものよ」
私は椅子から立ち上がり、力説する。
「やらずに後悔するより!やって後悔!死神になったらどうするんですか!?」
私の声が部屋をこだまする。やりすぎたかな?
「そっそうね!」
効果あり。
「よし!」
その瞬間全身の力が抜けた。今は何時か知らないが眠くなってしまった。
望初さんは、優しく言ってくれた。
「とりあえず寝ましょう。今の状態で戦ったら私たち死ぬわ。生きてこそだからね」
私は望初さんの言葉に感謝しながら、深い眠りに落ちた。