氷川愛洲戦
リリア先生の声が響き渡る。
構えってなんだ?
氷川 愛洲は右手をまっすぐ前に伸ばし、右足を左足より一歩前に出した状態で立っている。
私、星月夜翡翠は、魔法が届く前に詠唱さえできれば問題ないっていうか、すでに留年生の先輩たちと戦った時に魔法への干渉は外しているので、詠唱できなくても問題ない。
だから、私は自然体で立った。
「あの新入生、愛洲様をなめすぎなのでは」
「すぐに痛い目を見るから問題ないですわよ」
そんな氷川 愛洲の取り巻きたちの声が聞こえるが、無視させていただく。
「翡翠ちゃん……」
銉ちゃんの心配そうな声も聞こえた。
銉ちゃんは私の魔法、名前しか知らないからね。属性魔法使えない雑魚だって思ってるよね。
だけど、私は強いから、って自己暗示する。
私は銉ちゃんの方を向いて、力一杯サムズアップする。
銉ちゃんはさらに心配そうな顔になったが、大丈夫なもんは大丈夫だ。
「オマエェ、随分な態度だなァ。覚悟はできてんだろォ。アァ?」
氷川 愛洲はそういうが、そっちこそ覚悟はできているのだろうか。
「あんたこそ、覚悟しときなさぁい〜!」
精一杯生意気に言ってやった。
そこで、
「始め!!!!!」
リリア先生による始まりの合図が響き渡った。
「氷属性、氷結」
1番最初の部分が省略できるらしい。
やっぱ氷属性か。氷結ってどこだっけ。なんか中級魔法の気がしなくもない。
まあ、なんでもいい。
今回は、地面で行きますか。
走り幅跳びのような感じで、思いっきりジャンプした。
「固有魔法、翡翠神、干渉制御」
詠唱の途中で氷川 愛洲の魔法があたったが、案の定透けていったので無視だ。
私は着地と同時にどんどん沈んでいく。
ここで大体真下だな。
「固有魔法、翡翠神、干渉制御」
ドガァッ!!!!!
地面爆破〜!
そういえば、全く考えてなかったけど、弁償とか必要だったら困るなぁ〜!
私は勢いよく地面から飛び出して、クレーターのど真ん中で倒れている氷川 愛洲の上に華麗に着地!!
ドロップキックをブチかます!!
下を見ると、氷川 愛洲は完全に気絶している。
周りには粉塵が漂っているから、審判からもここは見えないのだろう。
これは誰が見ても勝負ありだな。
「銉ちゃん!やったよぉ!!!」
とりあえず、銉ちゃんに結果は報告したいので叫ぶ。
粉塵も晴れてきた。
「この勝負、星月夜 翡翠の勝利!!!」
リリア先生の声が聞こえた。まあ、当然の結果ですわ!フッ!
……決して調子に乗っていたりはしません
とはいえ、瞬殺だったな。
これで銉ちゃんも安心。と思ったのも束の間。
「今のはおかしいです。何か不正を使ってますわ!」
「愛洲様がこんな瞬殺されるなんてあり得ませんもの!」
「ワンモア!こんなのおかしいって誰が見ても明らかです!」
「新入生ごときがこんなことできるとはありえないでしょう!?」
「愛洲様はこの中で最強なのですのよ!?」
「新入生。決闘で不正をするとは何たる外道」
「愛洲様、実は倒れていないのでは?」
「愛洲様は私たちの中で最強なのですよ!」
「小狐丸の友達がこんなに強いわけない」
「審判!!その判定は早計です」
「この結果が事実なら、私たち全員がかりでも、やられるはずです!やってみましょう!」
「まだ不正の弾が残っている可能性もあるから、注意が必要ですのよ」
「それはいいです!行きましょう!」
「そうですわね!」
「当然。不正を使っていたとして、傷つけられてしまった愛洲様の仇は私たちが撃たなくたはなりませんし」
「愛洲様、私たち、行きます!!」
そんなふうに、氷川 愛洲の取り巻きたちの話し合いがまとまり、全員一気に襲ってきたのだ。
とはいえ7〜8人。氷川 愛洲の取り巻きである時点で氷川 愛洲より強いということはないだろうから、余裕で行けるかな?
「リリア先生!これは正当防衛なので、そこのところよろしくお願いします!!固有魔法、翡翠神、干渉制御!!」
空気への干渉を外して、通常ならありえない速度で接近。
「固有魔法、ひ、翡翠神、かん、干渉制御!」
これもちょっとずつなれてきたな。空気に干渉。
氷川 愛洲の取り巻きたちも動揺していたのだろう。
そのこともあり、相手が魔法を打つ間も無く、空気を爆破した。何にも触れていないことから、そこまで強くない。とはいえ、珠夜さんの爆風神刀くらいにはなる。
ドカッ。
全員吹っ飛んでった。
やりました。
でも、なんだろう、周りの目が冷たい気がする。
軽蔑というより、畏怖の念を抱かれているような気がする。
とりあえず、銉ちゃんの方へ私は向かった。
「銉ちゃん!!」
銉ちゃんは呆然と立ち尽くしていたが、私が名前絵を呼ぶと、我にかえり、こっちに走って向かってきてくれる。
「翡翠ちゃん。全く、心臓に悪いよ」
銉ちゃん、本当に心配してくれていたんだな。
「ここは素直に褒めてほしいなぁ、なんて」
冗談のように言ってみる。
しかし、銉ちゃんは真面目に受け取ってしまったらしい。
「翡翠ちゃん……本当にありがとうね!!」
満面の笑みでそう返された。
思わずビクッと震えた。
ときめいたってやつだろうな。
銉ちゃんの瞳がものすごく輝いていた。今までにないくらいに。
まるで、何かから解放されたかのように。
「よかった……」
思わず心の声が漏れた。
最近、心の声がもれすぎだな。
でも、それ程までに銉ちゃんの笑顔が綺麗だったんだもん。しょうがないじゃん。
そういえば、銉ちゃんが笑ったのってこれが初めてだな。
まあ、まだ出会って2日目だから、そこのところはよく分からないが。
「固有魔法、草属性、繭糸万本!」
その時、どこからか声が聞こえた。大量の糸が周りから飛んでくる。
もうちょい銉ちゃんと話したかった。空気読めよ。
大半は透けたが、それでも数本絡みつく。
それでも結構硬い。抜けるのは厳しそうだ。
「こんな新入生が来ちゃったらリリアも大変なの〜。この子は私が見てあげるよ〜。だから、いつも通りよろしくね〜」
また同じ声が聞こえた。
ふわふわした桃色の髪をツインテールにしていて、紫の瞳を持つ人だった。でも、左目と右目では若干色が違う。具体的に言うと、右目の方がちょっとピンクがかっていると言うような感じだ。てかこの右目なんかちょっと違和感がある。頭に虹の蝶を二つもつけている。服は、なんか露出度が高い。肩とか完全に出てる感じの服だった。
「私は、虹蝶 繭羽だよ〜。あっ、ちなみに68代目なの〜!あなたの専属の先生になるの〜。よろしくね〜」
虹蝶、魔法屋店主か。
なんか独特な人だな。
「よ、よろしくお願いします」
一応先生となることなので、挨拶は大切だ。
「ま、まあ助かるわ。ここまで強い新入生は稀ね」
リリア先生も賛成しているので、問題ないとのことであろう。
そういえば、体に糸が巻き付いたままだった。
「さっさといくの〜」
だから、そう言って私を引っ張っていく繭羽先生に対抗することはできなかった。




