目的
「はぁ……あの馬鹿どもは何をやってるんだか」
謀は物陰に隠れてそっと息をひそめていた。
翡翠神が暴走した。これで世界への反逆者の目的は果たされるはずだ。
だけど、そのためにはあと一つだけやらなきゃいけないことがある。
「桃花ちゃん、鈴ちゃん、私のために死んできて。もういらないから」
そう言って謀はそばに控えていた洗脳兵たちを軽々しく使いつぶしていく。
「私はここにいるが、セーラは?」
そんな謀に声をかける人物がいた。もちろん、世界への反逆者の服を着た人物だ。
「知らない、暴走に巻き込まれて人間界にでも飛ばされてるんじゃない?伊子こそ何していたの?」
謀は適当に言葉を吐き捨てる。
「まあ、2人でも何とかなるだろう。最悪めるに動いてもらえばいいし。行こうか」
伊子と呼ばれたその人物は謀の質問を完全に無視してそう言った。そうして目的地に向かって歩き出す。
「私に命令しないでよね……」
渋々といった様子だが、謀は伊子についていった。
「駒、結構使いつぶしてたみたいだけど、まだある?」
伊子が振り向かないままに謀に尋ねる。
「大丈夫、強いのが手に入ったからさ」
謀は自信満々に言い放った。
「なら、いい。こっちも数は準備してるから」
そう言う伊子の顔も自信に満ち溢れている。
「ユェンユェンという死神を殺害する。そうすれば……目的は完全に果たされる」
伊子がそう言って空を見上げた。空には無数の羽が舞っている。
「ひなせの方はいいの?」
満足げな伊子に謀が水を刺しにかかる。
「ひなせは放っておいても自滅すると思うけど」
伊子はそう言って謀を睨みつけた。
「そうだね、面倒だしそれでいいか」
謀にとって都合のよい発言だったため、それを全面的に支持するつもりのようだ。
次の瞬間、伊子が唐突に飛び退いた。その直後、伊子がいた場所に何かが突っ込んできた。
「早速目の前に標的がいるんだけど……」
そう言った伊子は焦りを浮かべつつも笑顔だった。
「へえ、ユェンユェンね」
謀は興味深げに突っ込んできたその存在を見ている。
「……どういうこと?ひなせが自滅って……」
ユェンユェンは首を傾げている。目的は殺害ではなく尋問のようだ。
「ひなせのことより、自分の身を案じたほうがいいと思うけどね。繭羽ちゃん、よろしくね」
謀がそう言うと、虹蝶繭羽が上から降りてきた。魔法で上空に道を作らせ、自分たちを追跡させていたようだ。
虹蝶繭羽以外にも、続々と人員が下りてくる。その大半は伊子の魔法によって作られたサイボーグだ。
「……ふぅ」
ユェンユェンは一呼吸すると、鎌を振り回し、次々に敵を斬り飛ばした。
「ティアラ!」
謀がそう呼ぶと、また一人、上から降りてきた。
「リバーシ」
降りてきた人物、ティアラは魔法を放つ。それは、傷を入れ替える魔法。
「あ……」
自身が真っ二つにした人と傷を入れ替えられ、ユェンユェンの体が引き裂かれる。
「なんか、思ったより余裕そう」
伊子が軽くそんなことを言う。
「楽勝!」
謀が楽しげにそう言い放つ。
「……なんてね」
そう思ったのもつかの間、次の瞬間、謀の喉元には鎌があった。
「んー」
謀は不満げに呟くが、その顔に一切の恐怖はない。
「……私はひすいを見に来ただけ。そっちが襲ってきさえしなければ争いたくはない」
ユェンユェンが謀の耳元でそう呟く。
「嘘つけ、ひなせのことが聞けるまでどうせ離してくれないでしょう?」
謀は気丈に言い返す。すぐには殺されないことが分かっているようだ。
「……」
ユェンユェンは黙り込む。
「あ、私たちに仲間意識はないので、人質のつもりなら無駄ですよ」
伊子がそう言ってサイボーグたちを操りユェンユェンへの攻撃を再開する。
「……ごみじゃん」
ユェンユェンはそう言って謀をしっかりと盾として使いながら一歩下がる。
「痛いんだけど」
伊子の攻撃を正面からくらった謀が不満げにつぶやく。
「なら捕まるな」
伊子がそう言って謀を睨む。
「……」
ユェンユェンはその隙にその場を走り去った。ひなせのことが気になるのは事実だが、最優先事項は翡翠神の状態の確認だから。




