翡翠神
「こんにちは」
誰かに声をかけられた。そんな気がした。
朦朧とする意識。はっきりとしない視界。
私は、誰?
そう、星月夜翡翠、だった、はず。
「私としても、本意ではないんだけど」
誰かが何かを言っている。私の頭の中で。
「返してもらうね」
状況が理解できない。
みんなは、大丈夫かな?
なんか、ずっと無意識に魔法を撃っているような気がする。これで勝手に敵が倒れたりしないかな……
「じゃあ、おやすみ」
意識がどんどん薄れていく。
私……えっと……
どうなっちゃうんだろう?
「あなたは消えちゃうことになるけど……まあ、元々生まれたことが異常事態なわけだからさ」
さっきから何を言っているの?あなたは誰?
「まだ意識残ってるんだ。いいよ、教えてあげる。私が翡翠神だよ」
そういえば、この声、聞いたことある。
魔法屋で、珠夜さんを救おうとして、私が初めて魔法を使った時。
世界への反逆者に捕まったけど、人間界へと何とか離脱した時。
私をいつも助けてくれていた声だ。
それなのに、今日はどうしちゃったんだろう?
ねえ、私、今苦しいの。辛いの。助けてよ……
「もう、あなたを助ける理由はない」
私、死ぬのかな?死ぬだけで、済むのかな?
もう、いいや。
おやすみなさい。
「はぁ……いったい何があったのですか?」
三島幽依が息を切らしながらそう尋ねる。
「翡翠が暴走したんだぁよ」
虹蝶呪莉がそう答えた。その顔には悲しみがにじんでいた。
「天花さん……」
小石明里が不安げな表情で遠くを見つめている。
「……天花は諦めるんだぁね」
呪莉は辛そうながらもそう言いきった。
「世界への反逆者からの追撃も警戒しておくべきなのですか?」
幽依が強引に話題をそらした。
「そうだねぇ、謀の反応を見るに、追撃が来る可能性はあるんだぁよ。あれは最初から翡翠神が暴走する前提で動いていたねぇ」
呪莉がそう言って、周囲に視線を巡らせる。
「……」
しばらくの間、沈黙が場を支配していた。
「まあ、柘榴神も同時に暴走して、神同士が衝突しない限り世界が壊れることはないんだぁよ」
重苦しい空気に耐えかねたのか、場を軽くするように呪莉がそう呟いた。
「柘榴神も暴走している可能性もあるのではないですか?」
幽依の純粋な疑問に、呪莉の思考は固まった。
「確かに……それは……結空?」
呪莉は結空に助けを求めるが、応答はない。天花がいなくなってしまい、魔力が足りなくなってしまっているのだろう。
「通信、できない感じなんですか?」
明里が不安げに尋ねる。
「そうだねぇ、状況は思ったよりも深刻なんだぁよ。一度帰るべきだぁね」
その言葉で、背後を気にしつつも三人は再び駆け出した。希望学校へ向かって。




