時が来た
いや、普通にまずい。敵を見失ってしまった。
私、星月夜翡翠は慌てて辺りの様子を探るけれど……何も見つからない。
待って、味方の気配すら見つけられない!?
どうなっているんだ。呪莉さんとか特に隠れる必要はないから絶対見つかるはずなんだけど。
そういえば、その辺を降っていた羽は?
状況がおかしい。まるで私一人だけが孤立してしまったような状況だ。
「呪莉さん!幽依先輩!」
私が叫んでも返事が来ることはない。
とりあえず身を守らないと。結界奥義で周りを囲も……
魔法を出そうとして、私は止まった。何かがおかしい。さっきも感じたけど、なんか強くなっている。ラッキーとか思ってたけど、異常事態だよね……
そう、魔法が強くなっているはずなのに、霊魂制御はうまくいっていない。
よく考えると結構変なことになっている。
魔力の流れが止まらない……
結界はもう張ったのに。
何に私は魔法を使っているの?気が付けば目の前は真っ暗……
翡翠。
頭の中に声が響いてきた。聞き覚えのあるようなないような……
時が来たようだ。
頭に響く声。どうしたら……
なんか意識が遠のいてきた……ここは、戦場なのに……
「逃げるんだぁよ」
虹蝶呪莉が慌てた様子で叫んだ。
「どういうことなのですか?」
三島幽依が不思議そうに首を傾げた。
次の瞬間、空を舞っていた羽が一か所に吸い寄せられた。
「ユイッチ!」
明らかな異常事態に、小石明里が全員をかばう様に前に出る。
「何が起きてるのよ!」
虹蝶天花はただ茫然としていた。
「あ、セーラはやられちゃった感じか」
謀はただのんきにそう呟いていた。
そうこう言っている間に、呪莉は天花と明里の手を引いて既に走り出していた。手を引かずとも、幽依はちゃんとついてこられると信じているようだ。
「翡翠はどうしたのですか?」
走りつつ、幽依は疑問を口にする。
「あの暴走しているのが翡翠だぁよ。こんな戦争の中だ、どこかで翡翠の魔法を持っていた存在が倒されてしまったのしても何もおかしくないんだぁよ」
呪莉は淡々と答える。のんびりと会話をしている余裕はないようだ。
「何やってるのよ……」
天花が苛立たし気に呟く。
「誰がどう倒したか分からないから何とも言えないんだぁよ。とりあえず逃げるんだぁね。完全体の翡翠神、私たちが勝てる相手じゃないんだぁよ」
呪莉は不満げな天花を強引に引っ張っていく。
しかし、逃げる呪莉たちのもとに容赦なく空から羽が降ってきた。それは矢のように速く、鋭かった。
「天花様に任せて逃げなさい!」
天花がそう言って、迷わず突っ込んでいった。命の危険も顧みずに。本来の天花ならそのような自己犠牲はしないが、椿との会話が影響しているようだ。
「……」
呪莉は一瞬悔し気な顔をしたが、天花に背を向けて走り出した。天花が飛び込んでいってしまった時点で、呪莉には助けられないと分かってしまったから。




